第98話 アメリカの高校は日本と大分違うんだな

 さて、九重ここのえさんと西海枝さいかちさんのコンビは球技大会の第一回戦を6-0のストレート勝ちで、あっさりと勝利を決めた。


 まあ、テニスにおいてはそこそこ実力に差があるだけでも、ストレート勝ちはさほど珍しく無い感じもするんだけどな。


「やりました!

 エリー、ワタシたちのカチデース」


「はい、勝てて良かったです」


 そう言ってハイタッチする二人に俺は声をかけた。


「二人ともテニスの試合お疲れ様。

 よかったらこれ飲んでのどを潤して」


 そう言ってスポドリの入ったペットボトルを差し出すと二人は受け取ってくれた。


「ベリーグッドなタイミングデスネー」


 そう言って九重ここのえさんはごくごくスポドリを飲み干した。


「テニスはかなり体を動かすので助かります」


 西海枝さいかちさんさんもスポーツドリンクをコクコクと飲んで一息ついた。


「二人ともすごかったね。

 特に九重ここのえさんのサーブのスピードは日本だと女子の高校生全国大会クラスだと思うし、西海枝さいかちさんのボールリターンは見ていて安心できる堅実さだったし」


 俺がそういうと九重ここのえさんはふふっと笑って言った。


「そんなにおだててもナニモデナイデース」


 そして西海枝さいかちさんは、はにかみながら言った。


九重ここのえさんが前衛でコートの左半分を抑えてくれていたので、私は右半分の守備に専念出来ましたから」


 テニスのダブルスは前衛がきちんと守備範囲を守ってくれれば楽になるが、ボールのスピードに反応できなかったりする場合も多いらしいから、その場合は後衛に負担が倍増以上になってしまう場合も多いらしい。


「ああ、なるほど、そういう理由もあったんだな。

 九重ここのえさんは、あっちでずっとラクロスやってたのかな?」


 俺が西海枝さいかちさんの言葉に頷きながら言うと、九重ここのえさんはかるく首を横に振った。


「向こうのスクールのクラブは秋・冬・春の3ヶ月毎に違うクラブでプレイするシーズン制がフツウダヨ。

 チアリーディング部やアメフト部なんかはオールシーズンやったりスルケドネ」


「ああ、アメリカのクラブ活動って日本とはだいぶ違うんだっけ。

 場所にもよるけどアメリカの方が冬の気温は10度くらい低いはずだもんな。

 そりゃ屋外でスポーツするのは厳しいか」


 俺がそういうと九重ここのえさんはこくっと頷いた。


「ソウデスネー。

 だからウインターシーズンはウインタースポーツか屋内でできるスポーツをやるのがフツウデスネー。

 なので秋はクロスカントリー、冬はスクールミュージカル、春はラクロスヲやってマシタヨー」


「ああ、九重ここのえさんはあっちでミュージカルやってたんだ。

 じゃあうちの学校に来たのは演劇部が強い学校だからかな?」


 うちの学校は千葉県高校演劇中央発表会出場校の常連だったはずだからな。


「ソウデスネー。

 演劇部は男子4名、女子19名で男子が少ないから、手伝ってくれるとタスカリマスネー」


 そういう九重ここのえさんだが、俺は苦笑しながら答えた。


「あ、うーん、ゴメン。

 手伝うのはちょっと難しいかなぁ」


 ぶっちゃけ今でも俺のスケジュールはぎちぎちなんだよなぁ。


「それはザンネンデスネー。

 日本の場合はシーズン初めトライアウトやオーディションはナイから今でも入部は間に合うんですケド」


「ああ、アメリカの場合はシーズン初めにトライアウトやオーディションがあるからそれに合格しないと参加できないし、そもそも期間が短いから途中での参加も普通はできないんだよな」


「ソウナンデスヨー。

 それはともかく、エリーから、勉強を教えてくれるのがすごく上手とキキマシタ。

 ワタシにも勉強教えてくれまセンカ?」


「ん、勉強を?

 それなら良いよ。

 すでに大人数だからみんなで一緒に勉強することになるし、動画撮影にも協力してもらいたいけどね」


 俺がそういうと九重ここのえさんはニコニコしながら言った。


「むしろ、その方が楽しそうデース」


 球技大会が終わって、勉強会を再開したらなかなかにぎやかな事になりそうだな。


 そして東雲しののめさんが言う。


「アメリカの学校も思っていたよりいろいろ大変なんだねぇ」


 それに対して九重ここのえさんは。


「こっちの学校もタイヘンなところはアリマスヨ?

 髪型とか服装とか細かく決まってますし」


 そして東雲しののめさんが言う。


「まあ、そりゃそうだよねぇ。

 アメリカだとそのあたりは自由なの?」


 九重ここのえさんはこくりとうなずく。


「髪型や髪の色は自由デスネ。

 髪の色を染めたり、パーマをかけたり、ヒゲを伸ばしたりも基本的に自由デスネ」


 東雲しののめさんは感心したように言う。


「それは良いなぁ。

 日本はそういうの結構うるさいんだよね」


 それを聞いて俺も頷いた。


「へえ、そんなに自由なんだ。

 まあ、そもそも日本と違ってアメリカは色々な人種が混ざって生活してるから髪の色を指定したりはしないだろうけどな」

 

「ソレカラアメリカでは公立なら中学・高校と服装は自由デスネ。

 私立のキリスト教系の学校やマグネット・スクールに関しては学校指定の制服があるところも多いですケド」


 九重ここのえさんの言葉に東雲しののめさんが首を傾げた。


「マグネット・スクール?」


 九重ここのえさんは答える。


「マグネット・スクールは優等生を集めて別カリキュラムを教えるギフティッド・クラスなんかがあるスクールデスネ」


 それを聞いて俺は言う。


「ああ、アメリカは飛び級とかもあるもんな」


 九重ここのえさんはうなずいて言った。


「そもそも、アメリカのハイスクールは、自分が取る科目の教室にそれぞれ移動するから固定のクラスメイトはいないんですヨ」


 その言葉に西海枝さいかちさんが感心したように言った。


「なるほど、日本の高校とは全然違うのですね」


 そんな感じだと確かに日本の高校の画一的な授業を受けるのも大変なんだろうな。

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