第55話 東雲さんがテストが終わったらデートしようというのでOKしたよ

 さて、数学の勉強会の撮影もひととおり終わった。


 カバンにプリントや筆記用具などをしまいながら、笑顔で東雲しののめさんが言う。


「いやー、ちゃんとやれば、苦手な数学でも、ちゃんとできるようになるんだね。

 正直びっくりしたっしょ」


 俺はそれに対して苦笑して返す。


「高校の授業の数学くらいまでなら、まず最初に必要な理論を覚えて、その後はとにかく多くの計算をして問題を解いていくだけでもなんとかなるんだよな。

 数学は、「x」や「y」といった文字を使ったりして、抽象度を上げているから一見難しく見えるけど、スマホのプランに対しての一日あたりに使えるデータ量がどのくらいなのかを考えるのと、実際はあんまり変わらないんだ。

 そして数学でも国語でも英語でも難しいと感じるのは、本当は面倒くさいからいやだというのが多いんだ」


 俺がそういうと東雲しののめさんは首を傾げた。


「ん、どゆこと」


「つまり、苦手というのは時間をかければ理解できるけれど、それが楽しくないのに手間がかかるからやりたくないということが、難しいと思う理由になっている場合が多いんだな」


「なるほど、だから簡単な問題からやりおなしたわけだね」


「そういうこと。

 数学に対する演算処理能力なんかは、最終的には遺伝で決まる部分もあるし、高校の数学は結構難しい部類に入ったりもするけど、ある種の才能がないとできないってレベルじゃないからね」


「うーん、秦ぴっぴは本当にすごいよね。

 あたしたちのためにそんな手間暇かけて、いろいろ作ったりしながら教えてくれるなんて、まるで神様みたいっしょ」


「いやいや、別に神様なんて言うほどのことはしていないよ。

 大変なことでもそれが楽しければ苦にならないし、東雲しののめさんたちが、そうやって喜んで笑顔になる様子を見るのは楽しいからね」


「むー、本当そういうところが女泣かせというか天然タラシというか……。

 あ、でもそれだけ頑張ってる秦ぴっぴにはお礼をしなきゃだね。

 テスト終わったら、あたしがデートしてあげるよ」


「テストが終わったらデートか。

 まあそういう風に気分転換をするのもいいかもな。

 でも、ある程度の目標を立てておいて、それが達成できたらにしておいた方が、やる気も上がるだろうし、全部の教科が60点以上だったらという条件を付けておこうか」


「うえー、秦ぴっぴはあたしとデートしたくないの?」


「いやいや、真面目にテスト勉強しておけば60点以上は余裕で取れるよ」


「うーん、じゃあもうちょっと頑張ってみるっしょ」


 俺と東雲しののめさんがそんな会話をしてると、ほかの女の子たちが俺をジト目で見ていた。


 そして中垣内なかがいとが言う。


「むー、ずるいよ。

 あたしだって、テストをがんばったらデートしてほしい……」


「んー、まあそれで勉強に対するモチベが上がるなら、俺は構わないけど。

 全部の教科が60点以上だったらという条件は同じように付けておこうか」


「本当に?!

 うん、ならテスト勉強頑張るよ」


「ああ、別に減るもんでもないしな。

 とはいっても俺の場合空いている時間があんまりないのだけど……まあ、これは自業自得ってやつだし仕方ないけどさ。

 で、中垣内なかがいとさんはテストの点数が出た後の土曜日の午後で、東雲しののめさんは日曜日でいいかな」


「うーん、まあ、それも仕方ないか」


 中垣内なかがいとがそういってうなずくと、東雲しののめさんもうなずいた。


「あたしはそれでいいよ」


 他の女の子たちは俺たちの様子を見て、苦笑を受かべているようだ。


 女の子二人にデート誘われて普通に両方受けるのもどうかという気もしなくはないが、東雲しののめさんの誘いにはそんなに重い意味はないと思うんだよな。

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