第52話 何とかピンチを切り抜けた。そして、俺が過去に戻った原因は分かったが理由はいまいちよくわからなかった
俺の家までの帰り道、街灯も少なく、人通りもほとんどない場所で、物陰に潜んでいた羽賀は金属バットで殴りかかってきた。
「ちぃ……ぐあ」
まさか、躊躇せずに金属バットで殴りかかってくるとは。
とは言え
「ひゃははは、ざまあないなぁ。
モブのブサイクのくせに調子に乗るからそうなるんだ」
「俺がイケメンじゃないことは確かだが……モブのブサイク?」
それはいったいどういう意味だ?」
「俺はなぁ、人生をやり直してるのよ。
前の人生は悲惨だったから、神様だか火の鳥だか何だかが、イケメンにしてやりなおしをさせてくれてるんだぜ!」
「やり直し?」
「だがわけがわからねえ。
確かに女どもは勝手に近寄ってくるようにはなったが、すぐにつまらない男と言っていなくなりやがる」
「まあ、顔がいいだけじゃそうなるだろうさ。
女の子は顔がいいだけで、コミュニケーション能力のない奴には冷たいぜ」
「そういうところがむかつくってんだよ!
俺のことを好きだって言っていた、幼馴染の女も中学の卒業式でほかの男に告白してやがった。
だから俺はその男をぼこぼこにした後、あのメス豚を犯してやったんだ。
最初は泣き叫びながら嫌がってたが最後にはおとなしくなった様子をスマホで撮影したのは最高だったぜ」
「本当に最低最悪だな……お前」
「なんとでもいいやがれ。
お前もすぐに泣きながら許しを請うようになるんだからな」
「ぐうっ」
「おらおら、どうしたぁ?」
だが、さすがに問答無用で俺を殺す気はなかったらしい。
「ははは、豚のような悲鳴を上げやがれ。
今更土下座しようが泣きわめこうが許さねえがな」
これがただ単に俺をいたぶりたいだけなのか、人間は簡単に人間を殺せないという本能的なものかはわからないがな。
幸いというか不幸にというか俺は過去に風俗店で元自衛官の店長にののしられながら殴られた過去があるためか、それほどの恐怖はない。
だから”焦るな、恐れるな、怯むな、すくむな、迷うな”、落ち着いて対処すれば反撃の機会はきっとくる。
「ちっ、お前……いやな目つきだぜえ。
それならよぉ。
どたまかちわってやるぜ!」
その時ふっと、羽賀がバットを後ろにひく様子がスローモーションに見えた。
俺はさっと後ろに下がり、バットをかわす。
そして尻ポケットに入れていた、催涙スプレーを取り出し、羽賀の顔へ狙いをつけて親指でトリガーを引いた。
「うが、あががが……目が、目がああああああああああああああああ!」
羽賀が悶絶しながら崩れおちて、顔をおさえたところで、俺は羽賀の後ろに回ってスリーパーホールドを決めた。
そして7秒ほどで奴は落ちた。
「ふう、催涙スプレーが外れなくてよかったぜ」
最初から催涙スプレーを使えればよかったのだが、その場合は催涙スプレーをポケットから取りだし、顔へ狙いをつけ、トリガーを引くという行動をとる間に、金属バットで殴られる可能性が高かったと思うんだよな。
だからといって手に持っていれば軽犯罪法違反で、警察官に職務質問される可能性があった。
さらに接近戦だとダガーの方がハンドガンより有効だといわれ、刃物を持った相手に銃で対処する必要最低限の距離は21フィート(約6m)といわれていたはずだ。
21フィートの距離というのは警察の訓練などでも実際に使われていたりする。
ましてや金属バットはダガーナイフよりもリーチが長いからなおさら距離が必要だ。
俺は俺と羽賀のネクタイで羽賀の右手と右足、左手と左足をきつく縛ってから羽賀のスマホをポケットから、取り出した。
幸いロックはかかっておらず、画面をスワイプするだけで動かすことはできた。
「さっき言っていたことは本当なのか?」
そして先ほど羽賀が言っていた”幼馴染”らしい女の子が泣き叫びながら、羽賀にレイプされている様子が撮影されている動画が間違いなく残っていた。
「こいつの言っていたことは本当だったのか……最低だな」
警察を呼んでこの動画を見せたうえで脅迫に傷害でしょっ引いてもらうか、それとも俺が制裁を加えるか……。
「おい、いい加減起きろ」
俺が羽賀の腹を何度か蹴飛ばすと、呻き声をあげた後に意識を取り戻した。
「う、ぐうう……な、なんだ?」
俺は怒りを押し殺し羽賀に言う。
「おい、羽賀。
お前は最低最悪の男だな。
どっちにしてもお前はもう破滅しかないが、二つから選ばせてやる。
警察の世話になって少年院送りになるか、ケツの穴に金属バットをねじこまれ、泣き叫ぶ姿を撮影されるかだ。
さあ、どっちがいい?」
「お、お前はいったいなんなんだよ!」
「俺か?
俺はちょっと家事が得意なごく普通の男子高校生だよ……で、どっちがいいんだ?」
俺がそう言うと羽賀は突然泣き出した。
「もうやだ!
こんなことなら、やり直しなんてしない方がよかった!」
「これだけのことをしでかしておいて……いまさら、そんなこといってんじゃねえ」
「俺はこの世界の主人公なんだ!
周りは俺にちやほやするのが当たり前のはず!
その俺がなんでこんな目に、おかしいだろ!」
羽賀がそのように叫ぶとその瞬間に機械のような声が俺の頭に直接響いてきた。
”逆行転生対象αのカルマ値が最低化と継続拒否の意思を確認。
逆行転生対象βの観測状況により世界を改変し、逆行転生対象αをこの世界より消去します”
そして羽賀の姿がだんだんと薄れていき、それに伴い俺の腕の痛みが引いていく。
「なんだ?!
いったい何が起こってる?」
”ありがとうございます。
私はファイアバード。
限りなく完璧に近い超生命体”
「
”彼は私のなかで永遠に転生を繰り返すことになります。
常に美少年に生まれる代わりに気持ちのわるいおっさんにレイプされて自殺する人生を永遠に」
「そ、そりゃぁ悲惨だな……」
もしかして俺たちって、這い寄る混沌と同じくらいにめんどくさい奴に、逆行転生させられてるのではないかな……などという気がしてきた。
”あなたはとてもとてもよく頑張っていますね。
それに応じて一つ願いをかなえてあげましょう”
「んなら、さっき羽賀にレイプされていた、羽賀の幼馴染の女の子を救ってあげられないかな?」
”それでよいのですか?
あなたの母親を長生きさせることも、完璧に近い超生命体である私であれば簡単ですよ”
「いや、お母さんは俺が一緒にいて、食事とかに気を付けて、家事の手伝いもすれば、たぶん大丈夫だと思うから。
でも、この女の子はそうはいかないからな」
”わかりました。
ではその望みをかなえましょう。
過去の改変を開始します……終了しました。
ではこれからもあなたの行動を観察することにします”
そういって声は聞こえなくなった。
「そうか、ならよかったよ……って俺がなぜ高校生に戻ったかの原因がさっぱりわからんのだが」
しかし、よく考えたら羽賀がいなくなってるんだから、あの女の子に対して羽賀が行ったことも、すべてなくなってるのではないかという気もした……。
そして、俺は家に戻り、翌朝に何が起きるかも知らないで、のんきに寝たのだった。
わけのわからない事が起こりすぎて、考えるのがめんどくさくなったことに対して寝ることで現実逃避しただけともいうが。
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