第23話 さて、家庭科部の活動も始まったな

 さて、パティスリーでのバイトもほぼ決定したし、あとは書類で申請して許可をもらうだけだ。


 俺は、スケジュール手帳を見ながら、考える。


 来週からは、家庭科部の部活動も始まるし、忙しくなるな。


 家庭科部の部活動が、月曜日と水曜日の放課後。


 中垣内なかがいととの動画撮影を火曜日と木曜日の放課後に充てて、金曜日の放課後と土曜日をバイトにする予定だが……結構タイトなスケジュールにしてしまったな。


 まあ、せっかく高校生活をやり直せるんだし、のんべんだらりと過ごすよりも、やりたいことをめいっぱい詰め込んだ方がきっと楽しいだろう。


 そういえば明日、家庭科部では何をするんだろうか?


 俺は大仏おさらぎさんにSNSを通じて聞いてみることにした。


『明日の部活動って何するんでしょうか?』


 大仏さんからはすぐに返事が返ってきた。


『しばらくは調理を中心にやるよー。

 何か作りたいものはあるかな?』


『んじゃ、オムレツなんてどうでしょう?』


『オムレツなら、安く済むしいいね

 卵は用意してもらえるかな?』


『わかりました。

 西海枝さいかちさんにも、連絡しておきますね』


『よろしくー』


 というわけで西海枝さいかちさんへ、今度は連絡を入れる。


 しかし、業務連絡的なこととはいえ、あまり淡々と女の子にメッセージを送れてしまうのもさみしいものがあるな。


 まあ、イメクラでは女の子の出勤前に出勤確認のメールなり、SNSメッセージを送るなりして、返信がない場合は、電話を直接したりしていたから、何をいまさらではあるのだが。


『こんばんは西海枝さいかちさん。

 明日の家庭科部の部活動は、オムレツを作ることになったよ』


『オムレツですか。

 私、作ったことないけどできるかな?』


『大丈夫、誰でも初めてはあるし、意外と簡単だよ。

 で卵2個必要なので、それは各自が買ってくるようにって』


『わかりました。

 教えてくれて、ありがとうございます』


『いえいえ。

 まだ夜は寒いから体を冷やさないように気を付けてね。

 じゃあおやすみなさい、よい夢を』


『いや、まだお休みには早いですよ。

 もう少しお話しませんか?』


『あ、うん、俺はそれでもいいよ』


『ではですね……』


 西海枝さいかちさんのメッセージに、基本的には肯定し、相槌を打ち、たまーにこっちから話題を振る。


 女性にとって、電話やメール、SNSは会話同様にただの連絡手段である前に、重要なコミュニケーションツールでもある。


 空気を読み、感情を伝え、そして相手とつながるために活用するわけだ。


 男性にとっては基本的には必要事項を伝え確認をとる「連絡ツール」としての利用が多い。


 そもそも男は基本的にコミュ障が多い。


 これは男は女ほどに顔色や表情、しぐさなどで相手の感情などを把握できないことが多く、共感性も高くないからだな。


 それが文字だけで、相手の感情を推測しようってんだからなおさらだ。


 だからこそ、雑談は「中身がないこと」に意味がある。


 雑談は無駄に洗練された無駄のない無駄な会話ってわけだな。


 中身のある話しかできないと、プレゼンテーション、ディスカッションなどでは話せるが、そうではない、必要な用件しか話せないため、友人を作ったりするのが難しくなったりもする。


 もっとも、中身のない話をえんえんと続けていると、さすがにだるくはなってくるが。


『あ、もうこんな時間ですね。

 では、また明日』


 西海枝さいかちさんのメッセージに俺はほっとした。


『また明日ね』


 うむ、メッセージのやり取りって意外と時間を食うよな。


 そろそろマジで寝よう。


 で、翌朝はいつも通りシャワーを浴び、身だしなみを整えて朝食をとり登校。


 そして教室で広瀬君や剛力君とだべっていると、入口の方から西梅枝さいかちさんが挨拶する声が聞こえた。


「皆さん、おはようございます」


 で、いつも通り自分の隣の席に向かってくるわけだけど、あれ……またなんか雰囲気変わってる?


 そして、にこやかに何かを期待するような雰囲気で、西梅枝さいかちさんが俺に挨拶をしてきた。


「秦君、おはよ」


 前は上げていた髪の毛を下したってことは、何か心境の変化があって戻したのかな。


「おはよう、西梅枝さいかちさん、髪型戻し……」


 あれ? なんかちょっとがっかりしてる?


 髪型をよく見ると、毛先をちょっとだけまいたのかな。


「あ、毛先少し巻いた?

 それもすごく可愛いね」


 西梅枝さいかちさんは、ぱあっっと表情が明るくなった。


 あっていて、よかったぜ


「えへへ、そうかな?」


「うん、なんかあか抜けた感じ」


「そうだと嬉しいな」


 まあ、何とか”髪型変えたんだけどわかる?”はクリアできたか。


「今日の部活動用の卵を持ってきましたけど、冷蔵庫に入れなくて大丈夫でしょうか?」


「ああ、今ぐらいの気温なら。

 卵はちゃんと火を通して食べるのなら、2週間ぐらいは常温保存した卵でも大丈夫なはずだよ

 スーパーでも、卵は冷蔵されてない状態で売っているでしょ」


「そういわれてみれば、そうですね」


「下手に冷蔵庫に入れて扉の開閉が多いと結露して、傷みが早くなるらしいよ」


「そうなんですね」


 まあ、そんなことを話していたら東雲さんが食いついてきた。


「えりちんと秦ぴっぴ、部活でオムレツ作って食べるの?

 いーなー」


「いーなーって、東雲さんも作ってみる?」


「あたしは食べるだけがいーなー」


「あのね……まあ、幽霊部員でも部員が増えれば喜んでもらえそうだし一緒に来るか?」


「もち、いくっしょ!

 食後のデザートもあるよねー?」


「おいおい、デザートまでかよ?!

 まあ、シュークリームくらいなら、大して作るのに時間かからないから、おまけに作るか?」


「やたー」


 というわけで、放課後に俺たちは家庭科実習室に向かった。


 そして、大仏おさらぎさんと雅楽代うたしろさんはすでに来ていた。


「こんにちは、大仏おさらぎさん、雅楽代うたしろさん」


 俺がそういうと大仏おさらぎさんが、東雲しののめさんを見て首を傾げた。


「こんにちは、あれ?

 秦君と西梅枝さいかちさんはともかく、もう一人の女の子は?」


「一応、入部希望者です。

 ただ、食べるの専門みたいですが。

 こちらは東雲しののめさんです」


 俺がそういうと東雲しののめさんが元気に手を挙げて挨拶をした。


東雲小百合しののめさゆりです。

 よろしく、お願いしまーす」


 雅楽代うたしろさんが苦笑して言う。


「ん、まあ、本当の幽霊部員よりはいいかもしれないね」


 そして大仏おさらぎさんも苦笑していった。


「確かにそうかもね。

 では、東雲しののめさんこれからよろしくお願いしますね。

 私は大仏恵おさらぎめぐみといいます」


「私は雅楽代うたしろ香苗かなえです。

 よろしくねー」


「はい、よろしくです!」


 東雲しののめさんはこういう時ものおじしないよな。


「では今日はプレーンオムレツを作ってみましょう。

 材料は卵2個に牛乳大匙1杯と塩を一つまみの簡単なものです」


 大仏おさらぎさんがそういうとニヤッと笑った。


「なので、大事なのは火加減とスピードですね。

 早速やってみましょうか」


「あ、おれは東雲さんのリクエストがあったんでシュークリーム作っちゃいますね」


 俺がそういうと大仏さんが目を丸くして言った。


「え、そうなの?

 それは構わないけど」


「ではすみません」


 シュークリームの材料はオムレツとそこまで変わらない。


 卵、バター、塩にグラニュー糖と準強力粉もしくは薄力粉と中に入れる生クリームがあればいい。


 鍋に牛乳、バター、塩、グラニュー糖を入れ沸騰させ、火を消してふるっておいた粉を一度に加えてゴムベラで混ぜ、もう一度火をつけて、中・強火で鍋の底に薄く膜ができるまで加熱する。


 後は温かいまま、絞り袋に入れて、クッキングシートを敷いた天板に絞りだし焼けばいい。


 粗熱をとったり焼成をしたりには45分ほどかかるので、その間にオムレツを作るとしよう。


 大仏おさらぎさんはお手本とばかりに、ボウルに卵、牛乳、塩を入れてよく溶きほぐし、フライパンにサラダ油を入れ、強めの中火でフライパンをしっかりと温める。


 十分温まったら、ほぐした卵をフライパンに流し入れ、菜箸でぐるぐるとかき混ぜ、半熟の部分が残る程度で弱火にし、フライパン返しで手前1/3を折り、フライパンの縁に寄せて包み込むようにもう片側を折り込む。


 そして片手に皿を持ち、フライパンを裏返して皿にオムレツをのせれば出来上がり。


「さすがですね

 見栄えもいいから、おいしそうです」


「そんなに難しくないから、レッツチャレンジ!」


 俺はその言葉にうなずく。


気楽にやろうよテイク・イット・イージー、ですね」


「そうそう、失敗しても、オムレツがちょっと固くなるくらいだよ」


 大仏おさらぎさんがそういうと東雲しののめさんがのんきにいう。


「えー、焦げ焦げのオムレツは食べたくないけどなー」


 俺は東雲しののめさんへ言う。


「文句があるなら、自分で作りなよ」


「それは面倒だしパース」


 やれやれ、わがままだなぁ。


 俺も大仏おさらぎさんと同じような手順で、オムレツを作りにかかる。


 ただし最初にいれるのは牛乳だけで、塩は混ぜない。


 塩を最初に混ぜると卵の凝固温度が低くなって焦げやすくなるからな。


 フライパンはしっかり加熱し、有塩バターを入れて溶かし卵液を一気に流し入れ、菜箸でかき混ぜ、半熟に固まり始めたら、火からおろす。


 あとは、フライパンの奥側に向かって卵を包んで行きフライパン返しで左右を包み込んでから、思い切って裏返し、卵と卵の継ぎ目を下にして、少し火を通す。


 で、皿の上にオムレツをそっと乗せ、包丁で表面に切り込みを入れて、左右に開くと中からとろとろな半熟卵が出現だ。


「おおー、レストランのオムレツみたい」


「塩分はバターの塩だけだから、ケチャップをたっぷりかけてもいいかもな」


「いっただきまーす。

 ん、ふわっふわのとろっとろでさいこーっしょ」


「ん、それはよかった」


 雅楽代うたしろさんもうんうんとうなずいていった。


「なかなか上手だね。

 塩を使わないのは、半熟にしやすくするためかな」


「ええ、そうですね」


「それじゃあ、私も」


 と西梅枝さいかちさんもオムレツにチャレンジ。


「火力は強すぎず弱すぎずだけど少し強めでも大丈夫だよ」


「あ、はい」


 西梅枝さいかちさんは本当にオムレツを作るのは初めてみたいで、動きが少々ぎこちなかった。


「あうう、ちょっと焦げてしまいました」


「ちょっと火力が強すぎたか火を弱めるタイミングが遅かったかな?

 でも俺はそれくらいの方がむしろ好きだし食べてもいいかな?」


「え、これ食べてくれるのですか?」


「うん」


「あ、じゃ、じゃあどうぞ、食べてください」


「ありがとうね」


 確かに中身ふわふわとはいかないが、むしろ中身が半熟とか俺は苦手だ。


「ん、このオムライス、おいしいよ。

 俺はこのくらい固いほうが食べやすいと思うし」


 俺がそういう西梅枝さいかちさんの表情が明るくなった


「それならよかったです」


 その方が見栄えがいいからと自分で半熟のオムレツを作ったものの、半熟で黄身がどろどろの目玉焼きとかも苦手だしゆで卵は固ゆで一択なんだよな。


「じゃあ今度は火力の調節は俺がやるよ」


 俺がそういうと西海枝さいかちさんはうれしそうにうなずく。


「あ、はい。

 お願いしますね」


 今度は、無事焦がさずに、中身がふわふわのオムレツを作ることができたようだ。


「じゃあ、みんなでいただきましょう」


「あ、シュークリームも焼きあがったころですね」


 生クリームをハンドミキサーでホイップして、シュークリームが焼きあがったら、皿にのせ、絞り袋に一番小さな口金をつけ生クリームを中に入れれば完成だ。


「シュークリームもできましたよ」


 俺がそういうと一番最初の手を出したのは東雲しののめさん。


「やたー、じゃあさっそく、あぐ……おおーおいしー。

 ビヤダルパパのシュークリームみたい」


「まあ、家庭でコンビニやスーパーなんかで売ってるような、一般的なシュークリームみたいに、柔らかく焼くのは難しくてなぁ」


「いやいや、これはすごいよー」


 西梅枝さいかちさんもシュークリームを食べて笑顔になってるな。


「シュー生地がふっくら膨らんでいて、本当においしいです」


「ん、生地をしぼる際は、必ず温かいうちに絞り、皮の焼き色がしっかりつくまで、オーブンは絶対に開けないことを守ればまずは失敗しないよ」


「そうなんですね」


 シュークリームは作ってみれば、意外と簡単だし時間もそんなにかからないのだよな。

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