第22話 やっぱりバイトはするとしようかね

 さて、そろそろ夕食の時間かな。


「彰浩ー、ご飯できたわよー」


「はーい、今行くよー」


 俺はダイニングに向かう。


 そして、ちょうどお父さんも帰ってきたようだ。


「彰浩、ただいま」


「お帰りなさい、お父さん。

 まだ仕事は忙しいの?」


「まあ、忙しくても、今月いっぱいまでだろう。

 もっとも新入社員の面倒も見ないといけないから、しばらくは定時上がりは無理だと思うがな」


「そっか、あんまり無理しないでね」


「ああ、大丈夫さ」


 俺のお父さんは工場で設計をしていて、”前”は俺も同じ工場へ入社して働いていた。


 取引先が区市町村などの役場なので、上半期の4月から9月末まではそこまで忙しくないが、10月を過ぎると終電帰りや土日出勤も珍しくなかったりする。


 まあ取引先が役場なので仕事自体は安定しているのはいいんだけどな。


「そういえばお父さんとお母さんって、どうやって知り合って結婚したの?」


 俺がそう聞くとお母さんはうれしそうに話しだした。


「あらあら、私とお父さんはね、同じ会社の同じ部署で働いてたの。

 いわゆる社内恋愛ね」


「へえ、お母さんもお父さんの会社で働いてたんだ」


「部署が同じだと、職場で過ごす時間の大半を共にするでしょ。

 そうするとお父さんがどんな人なのかもよくわかるのよ。

 私が失敗したときはフォローしてくれたしすごくうれしかったわ。

 それで、無事にプロジェクトが成功した時にはもっともっとうれしかったわ」


「なるほど、一緒に仕事をすれば相手の本性もよくわかるってわけか。

 人間って物事がうまくいかないときには素が出るもんな。

 高校生は何かと入用だし、俺もバイトしてみようかな」


「彰浩もようやく女の子に興味を持ち始めたのね。

 普通の男の子は女の子よりもちょっと遅くて、そういうのは中学生になってからって聞いていたけど、あなたにその様子がないからお母さんちょっと心配だったのよ」


「え? お母さんそう思ってたの?」


「お洒落をしようって考えたのもそれが理由なのかしら」


「ま、まあね」


 俺はそんなに女の子に興味がないように見えていたのか……いやまあ、小学校の時と変わらずに放課後には男友達とサッカーばかりしてたらそうも思われるか。


 でも、バレンタインのチョコをクラスメイトの女の子から、もらいたいなーくらいは思ってたんだけどな。


「だから、バイトで働いてみるというのも、いい経験だと思うわよ」


「うん、そうだね」


 夕食が終わったら、自室に戻って求人情報サイトにアクセスし、高校生が可能なバイトをチェックする。


 できれば女の子と一緒に働けそうな職場にしたいが……。


「お、パティスリーで高校生可能。

 時間は17:00〜22:00だけど20:30も可能なのか。

 時給は¥900だから高くはないけど、ケーキ・焼き菓子などのスイーツやイートインドリンク販売で、接客や会計、テイクアウト用の簡単なラッピングに店内清掃などのパティスリー経験者でなくても出来るならいいな。

 元気よくハキハキとしてる方募集。

 ってことならいけそうかな?」


 俺はさっそく求人サイトから応募をすることにした。


 コンビニへ行って履歴書を買ってくるとそれを書いて、コンビニのわきにあった証明写真でとった写真を貼って準備はOK。


 翌日に返信があり、本日面接可能ということで、この前弥生ちゃんに見繕ってもらった、私服を着て、多少なりとも外見を整えてから出かけることにした。


 ”パティスリーアンドゥトロワ”


 駅前のテナントの一階部分に入っているその店はオレンジの看板がよく目立つ。


「ここかな?」


 外が全面ガラス張りで中がよく見えるが、白を基調とした中々に綺麗でお洒落な店だな。


 それでいて格調高いということもなく、親しみやすい雰囲気だ。


 店内には女性客と女性の店員がいるが男の姿はない。


「うむむ、さすがにちょっと場違いすぎるかな……まあいいか」


 明るい店内に可愛い店員さんが受け付けにいるので声をかける。


「すみません本日面接希望の秦と申しますが」


「あ、はい、店長さーん、面接希望の人が来ましたよー」


 受付の女の子が、奥へと声をかけると、暗めのブラウンカラーの髪を首元辺りで切り揃えた、20代後半かな? 位に見える女性が出てきた。


「あ、面接希望の方ですか?」


「はい……そうです。

 どうぞよろしくお願いします」


「ああ、よかった。

 大手チェーン店さんだと、時給1200円とかですから、900円だとなかなか応募が来なかったんです。

 でも、前にバイトの子が辞めてしまったので困っていたのです。

 詳しいお話は中でしましょうか」


「あ、はい、お願いします」


 俺は奥にある休憩室? へと通された。


 小さめのテーブルにパイプいすが置かれているだけの殺風景な部屋だ。


「それでは、改めて自己紹介から始めますね。

 私は王生真理恵いくるみまりえ

 この店の店長をやってます」


「初めまして。

 秦彰浩です」


「さっそくだけど、まずは履歴書を見せてもらいますね」


「あ、はいどうぞ」


「ふむふむ、今までバイト経験はなし。

 あ、でも趣味でケーキやパンを焼けるというのは本当かな?」


「あ、はい、うちの母親の影響で」


「それは助かるかな。

 接客なんかも大丈夫?」


「そちらも、大丈夫だと思います」


「わかりました。

 最初は店内やキッチンの清掃、イートインの食器の片付けや食器洗いなどの雑務から入ります。

 そして、ケーキの販売とショーケースへの補充・陳列することもやっていただきますが、それにはまず販売されているケーキや洋菓子の種類と、イートインのメニューをちゃんと覚えなければなりませんよ」


「あ、はい、それも大丈夫だと思います」


「テイクアウト用の箱詰め方法やラッピングなども覚えてくださいね」


「はい」


「そういった仕事を覚えて、ステップアップすれば、紅茶やコーヒーの淹れ方や、ケーキの作り方もを覚えていただきたいですね。

 うちは個人経営なので、できれば何でもできてもらった方が助かりますので」


「はい、できるだけ、頑張りますね」


「じゃあ、もう一人のバイトの女の子を紹介しましょう。

 今日は顔合わせだけだけど、いつから働けるの?」


「あ、すみません。

 学校にどういった場所で働くかの報告と許可をもらわないといけないので、来週中に可能かどうかというところだと思います」


「わかりました。

 じゃあ表へ行きましょう」


「はい」


 そして受け付けをしている女の子のところへ一緒に行く。


「沙耶ちゃん、こちら新しいバイトの秦君」


「初めまして、こちらでお世話になります、秦彰浩で、高一です。

 未経験なので何もわかりませんが、よろしくお願いします」


「あはは、私も最初はそうだったから大丈夫ですよ。

 私は白檮山沙耶かしやまさや、高二ですよ」


白檮山かしやまさん、ですね。

 これから、どうぞよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくね。

 意外と力仕事も多いから助かるわ」


「え、そうなんですか?」


 俺がそういうと白檮山かしやまさんが店長の王生いくるみさんをジト目で見ていた。


「もうちょっとちゃんと説明しておいた方がいいと思いますよ?」


「あ、あはは、そうかな?」


 うーん、なんかちょっと不安になってきた。


 けどまあ、たぶん大丈夫だろう。


 少なくとも二人とも悪い人ではなさそうだし。

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