第19話 糖尿病の患者が避けるべきなのは脂質ではなくて糖質

 さて、お母さんが受けた特定健康診査の結果、糖尿病に高血圧もあって、さらには軽度な白内障もあることが分かった。


 風呂でのヒートショックによる心不全も、おそらくはそれが原因だったんだろう。


 実は俺も”前”は糖尿やら痛風やらをやっていたので、ある程度は糖尿病患者がとるべき食事は分かっている。


 そろそろお昼だし外食をとりながらお母さんに、外食時にどういうメニューを選ぶべきか話しながら昼食をとるとするか。


「お母さん、俺、おなかすいたよ。

 あそこのイタリアンレストランのサイデスカでお昼ご飯を食べていかない?」


「そうね、今日のお昼はお外で食べちゃいましょうか」


 サイデスカはイタリアンファミリーレストランチェーンで、徹底したコストダウンを通じて低価格メニューを充実させているが、メニューはかなり豊富で、お金がない学生にも人気な店だ。


 主要な客層は学生や若年層で、「サイデ」の愛称で親しまれている。


「お母さんはこういうところで食べないんだけど、大丈夫かしら?」


「お母さんは肉アレルギーで、和食のほうが好きだもんね。

 でも大丈夫。

 お母さんにも食べられて糖尿病患者にもいいメニューは俺が選ぶよ」


 お母さんは俺には俺が好きなハンバーグなどを作ってくれるが、当人は肉にアレルギーがあるので食べられない。


 とはいえエキスとして混ざってるぐらいなら大丈夫みたいなのが救いだけど。


「あらあら、それは心強いわね」


「とりあえず、店に入ろうよ」


「そうね」


 最近は一人サイデも増えているので、店内のテーブルの広さの種類はかなり多い。


「いらっしゃいませ、何名様ですか?」


「二人です」


「ではお待ちいただくためにあちらの紙にお名前と人数をお書きください」


「わかりました」


 ここはお約束ということで名前にはフリーザーと書き込み人数は2人と書く。


 ちなみにこんなことをやるのは”前”も含めて初めてだが、一回くらいやってみたかったんだよな。


 やがて、俺たちの名前が呼ばれた。


「2名様でお待ちのフリーザー様」


「さて行きますよ。

 ドリアンさん」


「一体何のことなの?」


「ああ、お母さんには通じなかったか。

 七つのバールのようなものを集めると、なんでも願いが叶うっていう、ドラゴンバールっていう漫画のネタなのだけどね」


 俺がそういうとお母さんはちょっと怒ったように言う。


「あのね、店員さんが困るようなことしちゃだめでしょ?」


「うへ、怒られた。

 ごめんなさい」


 とまあ俺たちは二人が対面に座れる、2人掛けのテーブルに案内された。


「お母さん、肉はだめだけど、卵や乳製品、エビなんかの甲殻類やイカやタコなんかの軟体類に貝は大丈夫だよね?」


「ええ、大丈夫よ」


「了解、ならオーダーしちゃうか」


 と俺はボタンを押して店員を呼ぶ。


「ご注文はお決まりですか?」


「はい、まずは小エビのサラダの大きい方。

 ドレッシングはオリーブオイルドレッシングで。

 あとはエスカルゴにほうれん草のソテー、青豆のサラダ、フレッシュチーズとトマトのサラダ。

 とりわけられるように小皿も二枚お願いします」


 俺の注文を聞きながら店員さんがハンディターミナルに注文を打ち込んでいく。


「イタリアンハンバーグとフォッカチオ、ミニライスもください」


「ドリンクバーはどうされますか?」


「ああ、それじゃ二人ともドリンクバーで」


「では注文を確認いたします」


 店員さんがオーダーを伝えるために厨房にハンディターミナルをもっていく。


「ドリンクバーとってくるね」


「ええ、お願いね」


ジュース類は砂糖が大量に入っているのでここは俺はウーロン茶、お母さんは煎茶一択。


「はい、お母さんどうぞ」


「なんで煎茶なの?」


「ジュースには砂糖がたっぷり入っているし、コーヒーや紅茶にも砂糖を入れるでしょう?

 俺は冷たいウーロン茶がよかったけどお母さんは体を冷やさないように暖かい煎茶がいいかなって」


「あらあら、ありがとう」


やがてサラダ類が運ばれてきた。


「じゃあ、お母さん、さっそく食べよう」


「そうね」


「いただきます」


「いただきます」


「んじゃ、まずはお母さんが先に食べて。

 残りは俺が食べちゃうから」


「なら私の分を取り分けちゃうわね」


お母さんはサラダを少しずつ取り分けて食べていく。


「んで、スマホで調べてみたんだけど糖尿病の場合の食べ方もそんなに難しくは考えなくても大丈夫。

 もちろん糖分が多いものはあんまり食べない方がいいけど、食べなさ過ぎてもダメだから、そこはバランスを考えて食べるのがいいみたい。

 で、野菜や海藻を先に食べる食べ方をすると血糖値が上がりにくくなるみたいだから、サイデの配膳は助かるよね。

 あ、お母さんは肉を食べられない分、チーズとエスカルゴはしっかり食べてな。

 ほうれん草とレタスと豆もまんべんなく、お母さんはライスで。

 糖尿病の合併症の一つの白内障の原因物質として注目されてるAGEsが多い食べ物は食べない方がいいらしいから、高温で焼いたパンより、炊いたご飯のほうがいいらしいよ

 肌荒れの原因にもなるらしいしね」


 そういうとお母さんはウフフと笑って言った。


「はいはい、これじゃあ、どっちが親かわからないわね」


「まあ、俺にとってお母さんは世界で一番大事な女性だから」


「あらあら、そういってくれるのはうれしいけど、そういうことをほかの女の子に言ったらだめよ?」


「マザコンに思われるから?」


「そうね。

 それにお母さんには、普通の女の子は勝てないもの」


「そんなもんかな」


 まあ確かに俺は”前”に早く母親を亡くしたため、普通以上に母親を偶像化・神格化してしまっていたと思う。


 デートしたり性的関係をもってくれた女性に対して母親と比較してしまっていたのかもな。


 そして幻想で異常に美化された母親に勝てる女性なんているわけもないか。


「だから彰浩もそろそろ、お母さん離れしないと。

 おしゃれな服を着てくれるようになったのはうれしいけどね」


「お母さん実は俺にお洒落な服を着せたかったの?」


「それはそうよ。

 でも、あなたは……」


「あー、ストップストップ。

 もうそれは、俺の中で黒歴史確定だから」


「はいはい」


「でまあ話を戻すけど、糖尿病患者は脂もとっちゃいけないと思われてるし、実際に常温で固形の油はあんまりよくないけどそれも適量ならいいみたいだよ。

 もっとも母さんはアレルギーがあるからそもそも食べられないけど。

 そして、液体の油はむしろちゃんととった方が太らないみたいだよ」


「そうなの?」


「うん、だからドレッシングはオリーブオイルドレッシングにしたんだ」


「いろいろ考えてくれるのね」


「へへ、まあね」


 そんな感じでお母さんにはなるべく糖質・タンパク質・脂質にミネラルやビタミン・ファイトケミカルのバランスが良いように食べてもらった。


 今後お母さんが外食するときには参考にしてもらえればいいと思う。


 日本食はヘルシーというイメージが強いけど、かけそばだけと、プラスてんぷらのかき揚げとかは、やはりバランスが悪いし、和食は意外と砂糖を大量に使うものが多いから、糖尿病の人間が食べるには向いていないものも多いんだよな。

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