第18話 未来を変えるためにお母さんを特定健康診査に連れて行こうか
さて、
「えへへ、動画投稿なんていうこと、今までは知らなかった。
けど、こういうのってすごく楽しいね」
「おう、自分たちが撮った動画が多くの人に見られてるっていうのが実感できるのは実際楽しいよな。
まあ、ど素人の初めての挑戦にしては、うまくいったんじゃないか?」
「それも私のおかげでしょ?」
ニコニコしながら言う
「ああ、実際今の
俺がそういうと
「あうあう、あああんたってさ……」
「ん?」
「なんでそんなあっさり女の子に向かって、真顔でかわいいとか言っちゃうわけ?」
「へ?
本当のことを言うのに、俺が何か躊躇する必要とかあるのか?」
「い、いや、普通なら少しは躊躇するでしょ?」
「まあ、俺はちょっとばかり普通じゃないんでな。
なんせ35歳童貞の大賢者様だ」
「それは動画内のネタでしょ」
「おう、そのとおりだ」
実際には”前”の35歳童貞の大賢者様というのは事実だったりする。
高校をボッチおたくのまま卒業後、仏教系大学に入った俺はTRPGサークルに入って、サークルの友達と徹夜でTRPGセッションしたり、カラオケしたり、ゲーセン行ったりするようになって、多少はコミュ力をつけた。
しかし女性との接触は一切ない大学生活を過ごした。
大学を卒業した後の就職先は工場での設計業務で、職場にほとんど女性がいないため、やはり女性との接触は一切ない状態だった。
そして俺が25歳の時にまずお母さんが死んだ。
死因は真冬の浴室でのヒートショックによる心不全。
入浴中の事故死は冬場に多く、全体の5割が12月から2月にかけて集中しているのだが、溺死を含め、年間約2万が入浴中に死んでいて、この人数は交通事故死の4倍近い数であったりもする。
しかしながら交通事故ほどには、浴室でのヒートショックが原因とみられる事故死は報道されてない。
石鹸で足を滑らせて頭を打ち怪我をするなんてことは、現実にはあまりないがな。
なので浴室が注意が必要な場所であることを意識している人はかなり少ないだろう。
実際、冬に風呂に入ると死ぬから風呂に入らないでなどとは、お母さんには言えないしな。
そしてお母さんが死んだあとお父さんもその後を追うように死んだ。
もともと過労気味だったところに、お母さんの死によるストレスが重なったのだろう。
お父さんは入浴中の脳溢血だった。
そんな感じで両親二人を続けて失った俺も、鬱になって3か月ほど会社を休み、その後会社を退職をした。
幸いというべきなのか両親の生命保険や雇用保険などもあったので1年ほどは普通に食いつないで行けた。
だが、ようやく動けるようになっても、働いていない期間が1年ほどあるというハンデもあって、求職活動をしても次の仕事に就くのは難しく職は決まらなかった。
そして、たまたま見つけた風俗系求人サイトで、近くにあるイメクラの求人募集を見て応募して採用されたことで風俗業界に足を踏み入れたんだ。
風俗では女の子はたくさんいるけど、お店の女の子とのプライベートでの交際などは厳禁だから、結局は交際相手などいないまま過ごしていた。
ただ、10年も風俗の仕事を続けて行くと女の子との対応の仕方などもだんだんこなれてくるようになって、そうなるとSNSや出会い系サイトなどで女の子と知り合って、電話番号を聞き出して、デートをしてホテルへ行くことができるようにはなっていった。
とはいえ”付き合ってください”みたいな告白があるわけでもない状態で、デートを繰り返した後、ホテルに行くところまで行くとなんだか冷めてしまい、連絡の回数が減ってだんだん疎遠になっていくというパターンが多かったが。
だから”前”もふくめて俺には彼女がいたことはないし、告白したこともされたこともないのは事実だ。
でまあ37歳を過ぎたあたりで、睡眠時間が足りないとやたらときつくなり、最終的には寝不足でおそらく死んで、現在に至るというわけだ。
なんでこうなったかの理由はとんと見当がつかないのだけどな。
「じゃあ、連絡取りやすいようにIDの交換しとこ?」
「ああ、そうだな。
連絡を取れるようにしておいた方がお互いよさそうだ」
というわけで上機嫌な
そして、家につき夕食を食べているときに俺はお母さんに聞いてみた。
「ねえ、お母さん。
学校だと入学してすぐに健康診断があるけど、お母さんも健康診断って受けてる?」
「いいえ、私みたいな専業主婦だとそういった健康診断は特にないのよ」
まあ、そうだよな。
健康診断は会社や学校などに所属していれば、必ず行わなければいけないが、個人事業主や専業主婦の場合、法律で規制されていないため受けていない場合がほとんどだ。
自治体で実施している健康診断を受診することができることはあまり知られていないしな。
「じゃあさ、明日健康診断受けに行かない?
特に何もなくても安心できるでしょ」
「まあ、そうねえ。
退職して後は一回も受けていないし、一回くらい受けておいた方がいいかもしれないわね」
「ちなみに市町村の助成で健康診断を受けると1万円くらいだけど、40歳以上なら特定健康診査を受けられてしかもタダだよ。
胸部エックス線検査はないけどほかの検査は健康診断とほとんど同じみたいだし」
「あら、無料なら受けてもいいわね」
なんでか知らないけど専業主婦は無料とか割引という言葉に弱いよな。
「んじゃ、明日の朝一番で近くの病院に行ってみよう。
不安があればがん検診も受けてみれば?」
「ええ、わかったわ」
「で、明日は血液検査があるから食べないで病院に行かないとだめみたいだね」
「そうなの?」
「水なら飲んでもいいみたいだけど、それ以外はお茶やウーロン茶もダメみたい」
「わかったわ」
というわけで翌日の土曜日。
土曜日でも午前中はやっていて特定健康診査を受けられる病院にやってきた。
特定健康診査は
視力・聴力と胸部エックス線がない代わりに眼底検査がある。
具体的には身体測定で、身長、体重、腹囲、BMIを算出し、血圧や血液検査で、中性脂肪やコレステロール、空腹時血糖にヘモグロビンA1c、尿検査では糖、蛋白、潜血、貧血検査などを行い、医師の判断で心電図検査や眼底検査なども行われる。
で、まあ結果から言えばお母さんは軽い白内障を発症しているのと糖尿病と高血圧があった。
「そういえば、最近ちょっと目が遠くなった気はしていたのだけど、老眼じゃなかったのね」
「まだ食事で十分コントロールできるみたいだし、食生活を変えていかないといけないね」
「食生活を変えるといってもどうすればいいのかしら?」
「詳しくは管理栄養士の先生に聞いた方がいいけど、そばやパスタみたいな炭水化物がほとんどのものを食べるのは辞めて、ご飯と魚とお浸し、パンと卵にサラダみたいにちゃんと主食のほかに、おかずと野菜を食べるようにした方がいいみたいだよ」
「そういえばお蕎麦は健康にいいってよく食べていたわ」
「そばを食べるなら、せめて卵とわかめを入れるとかすれば、ちょっとはバランスが取れると思う。
まあとりあえずはお母さんのおなか周りを細くしないとだめだと思うけど」
俺がそう言うと、さすがにお母さんは苦笑している。
「ダイエットね。
運動とかしないとだめかしら?」
「ジョギングとかの必要は特にないけど、ストレッチとか散歩は毎日した方がいいかな?
お母さんが買い物に車を使っているなら、なるべく自転車にした方がいいかもね」
「なるほど、じゃあ明日からはそうしてみるわね」
「そうしたら俺もできるだけ朝ご飯を作るの手伝うよ」
「あらあら、どういう風の吹き回し?」
「お母さんには長生きしてもらいたいしね」
お父さんのほうは企業戦士で過労気味なのはどうしようもないので、お母さんが死なないということをクリアしないとだめだろうな。
今のうちから糖尿病の対策をやっておけば、10年後にお母さんがヒートショックで死ぬのは防げると思いたいものだ。
なお、病院で待ってる間に
『あっという間に視聴回数が10000回を突破したよー。
チャンネル登録も100人超えたし、次はどうするの?』
ときたので
『んじゃ、次は火曜日に動画撮影するか』
と返信した。
そしたら速攻で、
『うん、すっごく楽しみー』
と戻ってきた。
もしも全く視聴もされず、登録もされなかったら
やっぱり外見がいいって得だよなぁ。
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