第10話 母親と従姉が俺のタンスの中をめぐって修羅場だがどうしてこうなった?
さて、弥生ちゃんも立ち直ったことだしそろそろ帰るとしようか。
「じゃあ、それじゃそろそろ俺は帰るね。
TDLの情報ありがと、何とか役に立てて見せるよ」
俺はそういうと弥生ちゃんは笑顔で言った。
「ううん、こっちこそ慰めてくれてありがとうね。
私のほうがお姉さんなのに。
あ、そうだ、あっくん。
SNSのID交換しとこ?」
そういって弥生ちゃんはスマホを掲げて見せた。
「あ、そうだね。
その方が連絡も早いだろうし」
俺たちはそれぞれIDを交換したがこれで連絡は入れやすいかな。
ついでとばかりに弥生ちゃんに聞くことにする。
「あとショッピングはいつの予定?」
「私は明日でもいいけどあっくんは?」
俺に用事が入ってるかもしれないと思ってるのかもしれないが、そんなものは当然ない。
「非モテの男には、休日に予定なんてそうそう入ってないよ弥生ちゃん」
「そうなんだ、じゃあさっそく明日行こうね。
あ、念のためあっくんが持ってる服を見ておきたいから、あっくんのお部屋で見せてもらっていい?」
「ああ、その方がいいかもしれないね。
何時に来るの?」
「朝の9時でどうかな?」
「了解、それじゃまた明日ね」
「うん、また明日」
というわけで明日には弥生ちゃんが俺の部屋に来るわけで、小学生・中学生の頃はお互いの部屋を行き来しても特に気にしたことはなかったけど、さすがに大学生になってる弥生ちゃんが自室へくるのとなると多少は気にしないとな。
とはいえ最近はシーツやまくらカバー、毛布などは自分で洗濯しているし、床の掃除も普通に掃除機やコロコロをかけてきれいにしている。
机の上などは雑巾なりウェットティッシュなりで定期的に拭いているし、エアコンのフィルターを水で洗い表面は中性洗剤を付けた雑巾で拭いてきれいにしてもいる。
この辺りも風俗店では店や女の子の待機場所の床や机、ソファーなどの掃除は店に入って一番最初にやることでもあるから習慣になってしまっているのだな。
トイレやレンタルルームのシャワールーム、ベッドなども含めて掃除・洗濯・裁縫といったことはイメクラで働いたことでめちゃくちゃ上達したし、女の子と適度な距離をとってそれなりに好かれる方法も身についた。
慣れとは恐ろしいものであるよな。
あとはタンスの中の衣服とかをたたみなおすか……などとやっていたら結構な時間になったので俺はちゃっちゃと寝ることにした。
俺はこの際にいろいろ見落としていたりしたことで、面倒なことになるとは思いもしなかった。
そして翌朝いつも通りに起きたら、シャワーや洗面を済ませ、今日は適当にお母さんセレクトの私服に着替えて朝ごはんを食べる。
「お母さん。
今日の9時に弥生ちゃんがうちに来るから」
「あらそうなの?
だいぶ久しぶりね」
「そうだよね。
まあちょっと部屋によっていくだけですぐでかけるけど」
「そうなの?
ならお茶とかご飯とかいらないかしら?」
「多分ね。
あと弥生ちゃん太ったって気にしてるから、あんまりお菓子とか出さない方がいいと思うよ」
「あらそうなの?」
「俺は弥生ちゃんが別に太ってるとは思わないけど、女の子はそういうの気にするみたいだしさ」
「女の子は体重とか年齢には敏感なのよ」
俺はお母さんも少しやせた方がいいよ、と言いたいところをこらえた。
ここで地雷原に踏み込む必要はないしな。
まあそんな感じでのんびりしていたらインターホンが鳴ったので俺が出ることにした。
「はい」
『おはよう、あっくん。
予定通り来たから玄関開けて』
「ちょっと待って」
俺は玄関のかぎを開けに行きドアを開けると弥生ちゃんが立っていた。
ずいぶん余所行きっぽいきれいな格好だな。
「なんか妙に気合入れてきてない?」
「だってショッピングに行くんだしね」
「まあ、確かにあんまりダサい恰好じゃいけないか。
とりあえず上がっていって」
「うん、お邪魔します」
俺は弥生ちゃんと一緒に俺の部屋へ。
「まあ汚い所だけど遠慮しないで入って」
「はいはい」
そして弥生ちゃんの目はまず本棚に向かった。
「なんか本棚の中が雑然としてるね」
本棚に並んでる漫画は男向けも女向けもあるし、小説もラノベもあればハーレクインロマンスに本格SFもあって、哲学書やら環境問題に関する本まである。
ついでにファッション雑誌なんかも並んでるからカオス極まりない。
俺はジャンルを問わずに広く浅く読んでいくタイプなんで、はっきり言えば内容に一貫性はない。
「少女漫画も結構あるのね……ってあっくん、これなに?」
弥生ちゃんが取り出した一見少女漫画に見えるそれはBL漫画だった。
ぶっちゃけ少女漫画もレディコミもTLもBLも俺の中では一緒くたにしていたがこれはしくった。
「あはは、面白そうだと思って本屋で買って、家でビニール破いて中身見たらカップルが男と男でびっくりしたんだけど、一度買った漫画ってなかなか捨てらんないんだよな。
なんで本棚に入れっぱなしだった、あははは」
ごまかすように笑ったがちっともごまかせてる気がしない。
まあ間違えて買ったのは嘘ではないが実のところ風俗店の待機場所にはこの手の漫画がたくさんあったりするので、すっかり慣れてしまったのも事実だ。
それ以前にヤオイっぽいアニパロ漫画を買ったこともあったからBLに余計に抵抗がなかったような気もするが。
まあ本棚はともかく電子書籍はもっともっとカオスなんだけど。
「そうなの?
もしかしてあっくんは男の子にしか興味がないのかと思っちゃったよ」
「まあ俺自身LGBTに対して特段偏見はないつもりだけど、俺自身は男しか興味がないはさすがにないからね」
「え、もしかして男もありなの?」
「んな、わけはないって。
俺は普通に
ただし二次元は除くとも言えるが。
んで弥生ちゃんはなんだかんだで中身を見てるんだが?
「それにしても……こんなことって実際あるのかな?」
「実際には女装がめちゃ似合う男なんていないし、下手な女の子よりよっぽどかわいい男の子もいないよ弥生ちゃん。
もっともボーディングスクールの男子校とかでは
「そ、そうだよね。
よほど特殊な環境でもない限りそんなことにはならないわよね」
これ以上話を続けると蛇どころかヒグマが出てきそうなので話を変えることにした。
「まあそれはともかく、お母さんセレクトについて見てもらうって話だったよね。
それはこれ」
俺は上着が入ってるタンスの引き出しを開けて見せた。
「あーこれは高校生が着たら外は歩けないよね……」
「お母さんの中では俺はまだ小学生扱いなんじゃないかとすら思うよ」
「まあうちのお母さんも同じような感じだからわかるけどね。
あ、こういうところは本当お母さんっぽいかも」
弥生ちゃんは着脱できるフードをつまみ上げて笑って言う。
「ん?
フードが?」
「そうそう取り外しできるフード。
なんでお母さんってこういった着脱可能な服が好きなんだろうね」
「子供が寒くないように風邪ひかないようにってことだと思うよ。
恰好よりまずは保温性ってね」
「ああ、それはあるかも」
「お母さんって俺とかが小学とか中学の時に好きだったものをずっと覚えていて、それ買ってくるんだと思う。
あと料理も1回美味いって言った料理をずっと出してくれたりするんだけど……」
俺はそういうと弥生ちゃんも苦笑していった。
「料理はまだいいけど小学の時に喜んだ時の服はちょっとよね」
「俺の場合はセールの売れ残りとか普通に買ってきてるっぽいしさ」
「私はよくお母さんと一緒に買い物に行くし、私の好みとか好みじゃないものは度々伝えてるのに、一緒じゃないときになぜか好みじゃない服を買ってくるのよね。
かといってお母さんのファッションセンスがだめってわけじゃないからどうしてそうなるのか謎なのだけど……。
まあそれはともかくいらない服は捨てて新しい服を買いましょう。
燃えるゴミ用のゴミ袋はあるかな?」
「え、でも家のなかで着る分にはあったかくていいんだけど?」
「あっくんがそうやって家の中で着るから気に入ってると思って、おばさまが買う服がそういう服ばっかりになるんじゃない?」
「あ、そういうことか……」
「だからダサい服は捨てないとだめだよ」
そんな話をしていたらお母さんがティーセットをお盆に乗せて部屋に入ってきた。
「いらっしゃい弥生ちゃん。
久しぶりだけど元気みたいでよかったわ」
「いえ、おばさまもお元気そうで何よりです」
「ところでせっかく彰浩に買ってあげた服を捨てるっていうのはどういうことかしら」
「おばさまのセンスは小学生用で止まってるからダサい服を着させられているあっくんがかわいそうってことです」
あれなんかめちゃ険悪な雰囲気……どうしてこうなった?
「見た目より暖かいかどうかが重要なの。
そうじゃないとおなか壊しちゃうでしょ」
いやお母さん、さすがにおなか出して寝てた頃と一緒にしないで……。
「そんなこと言っても下手すればいじめられますよ」
ダサいといじめられるのか……。
そしてまずは母さんが言う。
「お母さんが買ってきた服をごみとして捨てたりしないわよね?」
続けて弥生ちゃんが言う。
「ダサい服は全部捨てるよね。
断捨離は大切だし」
これはどっちかを選ぶともう片方を失望させてしまうパターンかぁ。
オリエンテーションのアトラクションみたいにみんなが乗りたいアトラクションを選ぶとかならみんなが満足できるけど、こういう時はそうはいかないからな。
ま、意見や利害というものは片方だけを選んだり、無理矢理に意見を一致させるものでなく、意見の落としどころを見つけて調整するものだけど。
「あ、うん、じゃあさ。
どう考えても小さくなってもう着ることができないものは、まず捨てようか。
洋服を新しく買うって言っても上下のセットを一つぐらいしか買える予算ないし」
「そうねそうするのがいいんじゃない」
母さんは嬉しそうにそう言う。
「確かに新しい服をたくさん買える余裕はないから、最低限のスぺースを空ければいいかもしれないわね」
と弥生ちゃんも俺の意図を理解するように答えてくれた。
弥生ちゃんの意見を却下したら俺は一生お母さんセレクトの服を着るはめになるかもしれないし、だからと言ってお母さんの機嫌を損ねたらお小遣いを減らされるかもしれない。
だから双方の意見を取り入れつつ実際問題として全部服を捨てたらそれこそタンスが空になることも含めて落としどころを提示して見せたわけだけど何とかなったかな。
そしたらお母さんが爆弾を投げ込んできた。
「大体、彰浩は毎日同じ色ばかり、特定のキャラクターが付いたものしか着なかったでしょ。
だから私も買うときはそうするようにしていたのよ?」
「え?!」
「つまりおばさまのセンスがダサいんじゃなくって、あっくんのセンスが問題だったんじゃない?」
「え? ええ???!
小さいころはそういうもんかもしれないけど、お、俺ももう高校生だし?」
「本当、困るわよねぇ」
母さんがため息をつくと弥生ちゃんも同意するようにうなずいた。
「そうですねぇ。
おばさまの苦労もわかりますよ」
なんで俺はディスられてるんだろう……解せぬ。
「とはいえ高校生くらいの男の子の着る服はよくわからないから、弥生ちゃんよろしく頼むわね」
「ええ、任せてくださいおば様」
修羅場になったかと思ったかと思ったらあっさり打ち解けて和やかに話たりするから本当女は怖いぜ。
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