第11話 お母さんと弥生ちゃんのおかげでダサいといわれない私服が買えて助かる
さて、お母さんと弥生ちゃんが夕日が見える河原での殴り合い(ただし殴り合いは拳ではなく口)をした後、友情を深めたことでとりあえず事態は解決したっぽい。
「あ、弥生ちゃん。
せっかく彰浩の服を買うんだったら4万円渡すからいいもの買ってあげてげね」
そういうとお母さんは財布から万札を四枚取り出して弥生ちゃんに手渡した。
「はい、おばさま私も2万円くらいは出そうと思います」
「あら、弥生ちゃんは本当にいい子ね」
「それほどでも」
「うふふふ」
「ふふふ」
あれ? なんか二人の笑顔が微妙に怖いけど、なんかまたちょっと空気が不穏になってきた?
「じゃ、じゃあさっそく服を買いに行こうぜ。
俺は洗面所でブレザーに着替えるから」
と俺が部屋を出ようとすると二人に会話が後ろで聞こえた。
「せっかくですからタンスの中の衣服はオークションサイトで売りに出しましょう」
「あら、そういう方法もあるのね」
こうしてお母さんセレクトの衣類は出所不明の家庭ロンダリングされるということだな。
お母さん衣服を買って渡される犠牲者にはいっそ殺せと思われるだろうが俺には何の権限もないんだ、すまん。
とりあえず洗面所にブレザーなどを持って行って着替えて、ドライヤーで髪をセットしなおして俺の部屋に向かう。
「弥生ちゃんお待たせ、まった?」
「ううん、今来たところだから」
「いやずっと家の中の俺の部屋にいたよね?」
「”まった?”って聞かれたらこう返すのが普通だよ?」
「いや、それどこの普通?
まあいいやほんとに待たせてごめん」
「大丈夫だよ、おばさまとお話してたし」
「そうそう、もっとゆっくりしていても大丈夫だったわよ」
どうやら俺が着替えている間、二人は優雅に茶をしばいていたらしい。
「じゃあ、さっそくショッピングに行こうよ。
場所はどこで買うの?」
「らららぽーとに行こうと思ってるよ。
メンズのファストファッションブランドショップも入ってるし」
「なるほど、じゃあ行こうか、らららぽーとへは電車で行くんだよね?」
「私が車出してもいいけど道が混むから電車のほうが早いからね」
らららぽーとへは電車で駅を三つ乗って移動した先で降りてからバスで移動すれば割と短時間で到着する。
「来たのは久しぶりだけど広いよな」
「それじゃまずはZARAZARAにいこっか?」
「でもZARAZARAって、メンズブランドじゃないような?」
「ううん、メンズもあるんだよ」
「へえ、そうなんださすが弥生ちゃん」
「いや、これくらいは普通知ってるよ」
「うぐ、安い服と言ったらウニクロくらいしか……」
「言っておくけどウニクロでおしゃれはセンスないときついからね?」
「それは分かる」
んでまずはアウタージャケットから。
「へえ6000円くらいからそれなりに良さげなのがあるんだなあ」
「そうだよ、うーんどれが似合うかな……」
ハンガーからアウタージャケットを取り出しては俺の前に掲げてあわせてせてみている弥生ちゃん。
「とりあえずはこれかな?
ちょっと試着してみて」
「はいはいじゃあ試着室で着てみるよ」
俺はブレザーを脱いでジャケットを羽織ってみた。
試着室の中の鏡で見るとシンプルかつ無難ではあるがいい雰囲気だと思う。
「どうだろう、これ?」
「うん、私の見立ては間違ってないね」
「じゃあこれにしよう」
同じようにシャツとパンツも選んでおよそ2万円なり。
「上下一式そろえると靴を入れなくても2万円かぁ」
俺は苦笑して言うが弥生ちゃんも苦笑して言う。
「一式で2万円なら安いほうだけどね」
「まあそうなんだろうけどね。
次はどこにいくのかな?」
「次はアベルにしようと思うの」
「アベルって安いの?」
「洋服のしもむら系列のブランドだからね」
「え、それって大丈夫なのかな?
しもむらってダサいってイメージがあるんだけど」
「大丈夫。
ちゃんとダサくなくて学生には人気のブランドだよ」
「そうなんだ、さすが弥生ちゃん」
「あっくんが不勉強なだけだよ?」
「うぐぐ、それを言われると返す言葉もないです」
「まあ、しょうがないけどね」
実際にショップの売り場に行くとおかれてる商品はしもむらに比べるとぐっとかっこいい気がする。
「ほへぇ、これは意外だなぁ」
「言ったでしょ、ちゃんとダサくないショップだって」
「さすが弥生ちゃん。
だてに女子高校生三年間やってなかったんだなぁ」
「そうそう、もうちょっと私を見直しなさいな」
「おみそれしました」
先ほどと同じように弥生ちゃんはハンガーからアウタージャケットを取り出しては俺の前に掲げてあわせてせてみている。
「さっきのやつとかぶるのもどうかと思うし……だけど、これだと少しダサく見えそうだし…こっちのほうがいいかな?
いやこっちのほうが?」
「なんだかすげー真剣に選んでくれているのには本当に申し訳なくなってくるなぁ」
俺がすまなそうに言うと弥生ちゃんは笑顔で言った。
「あはは、大丈夫だよ。
こうやってお洋服選ぶのは楽しいから」
「他人の服なのに?」
「そうだね」
「女の子って服を買うの好きだもんね」
「お買い物は楽しいよ。
いろいろな悩んで正解を見つけられたら猶更だから」
「衣服に正解なんてあるの?」
「衣装合わせには絶対に正解がないから面白いんだよ。
あっくん」
「そういうものなんだよね」
女性は買う洋服を決める時に可愛い!素敵!似合う!などの「イメージ」を基準にすることが多いのに対して男はどんな素材なのか?どんな機能があるのかという「スペック」で買う服を決めることが多い。
洋服以外の家電や雑貨、文房具でも男はそれを買うに当たり必要なスペックを満たしているかが優先だが、女性は色やデザインがかわいいか、部屋の雰囲気に合うかなどで決める傾向がある。
むろんこれは絶対ではないけど。
そして男は悩むのを嫌うが女は悩むのを楽しむというのもある。
これがホビーや車になると男女の価値が逆転して男はデザイン重視、女は実用性重視になったりするのが面白い。
「んじゃあ、これとこれをそれぞれ試着してみてよさげな方を買おうっか」
「了解」
俺は渡された二つをそれぞれ着て見せて聞いた。
「どっちがよさげ?」
「やっぱり先に渡した方だったね」
何がやっぱりなのかは俺にはさっぱりだが直感的なものなのだろう。
ここでの買い物も同じようにシャツとパンツも選んでおよそ2万円なり。
「ここもやっぱり2万円くらいなんだね」
「これ以上安いものを買うと安くてダサいになっちゃうからこれ以上は妥協できないぎりぎりの価格だね」
「で、あと一か所行くの?」
「うん、最後はグローバルワーカーに行ってみよう」
「そこ作業服売り場じゃないよね」
「もちろんこれも人気ブランドショップだよ」
ここでもあーでもないこーでもないと選んでアウターシャツに、シャツとパンツも選んでおよそ2万円なり。
「これで予算ギリギリでお買い物終了っと」
弥生ちゃんは達成感にあふれた表情で言った。
「うん、本当ありがとう。
お礼と言っては何だけどサーテイーンアイスクリームでも食べる?」
「うん、わたしサーテイーンアイスクリーム大好き!」
「んじゃ、バラエティパックの6個入り買って二人で分け合うか」
「うん、そうしよう!」
「フレーバーはどうしようか」
「まずチョコミントと抹茶とポッピングシャワーは外せないでしょ?」
「ああ、そのあたりは外せないな」
「あとはメロンとオレンジとレモン!」
「了解、んじゃ行ってくるから椅子で座って待ってて。
悪いけど荷物は見といてくれるかな」
「うん」
レギュラーの六個入りバラエティパックで2160円は安くないけど買ってもらった服の値段に比べれば全然安いし、こんなもんでお返しになるんだろうか?
「お待たせ、じゃあ弥生ちゃんから好きなものをどうぞ」
「それじゃあチョコミントから」
弥生ちゃんはスプーンでチョコミントをすくうと凄くおいしそうにほおばった。
「うーんやっぱりサーテイーンアイスクリームはおいしいよね」
俺もちまちまとスプーンでアイスを口に運ぶ。
「きっとスイーツは人間を幸せにするために存在してるんだよ」
「確かにそうかもね」
それから弥生ちゃんは改めて向き直っていった。
「一緒に女の子も行くならヒートテックタイツを買っておくように連絡しておいてあげるといいと思うよ」
「ヒートテックタイツか。
男は最悪ジャージを下に履けばいいけど女の子はそうもいかないもんな」
「そうそう、ヒートテックタイツは大事。
冷えは女の子の大敵だしね」
「うん、アドバイスありがとう」
「あとネクタイは、第二ボタンと第三ボタンの間に結び目がくるくらいにゆるく結んだほうががいいと思うよ」
「あー、やっぱりちょっとかっちりしめ過ぎかな?」
「うん、今はあんまり崩さないのが定番だからそれほど変でもないけどね」
「いやあ、やっぱり女の子の意見は参考になるな」
「あははは、私もあっ君の役に立てて何よりだよ」
そんな感じで土曜日ショッピングは終わったし、弥生ちゃんにはほんと感謝だよ。
あと
俺『当日はヒートテックタイツを買ってはいた方が温かいらしいよ』
俺『ちがうって』
まあこれでTDL準備は万全になる……かな?
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