第6話 女の子のちょっとした外見の変化にいち早く気づけというのは彼女いない歴=年齢の一人っ子にはキツイ

 さて、健康診断と部活見学の翌日はオリエンテーションだ。


「orientation」は、新しい環境への「適応」「順応」という意味で、そこから、新入生が「新しい学校環境に適応できるように教育、指導すること」のための会合やイベントのことを主に「オリエンテーション」と呼ぶ。


 で、実際になにをするのかと言えば、校内の新入生オリエンテーションでは、学校内の教室や特別教室・保健室・部活棟などの場所や使用目的を理解するため、またクラスメイトと仲良くなるために指定された教室をグループごとに回る。


 まあ部活勧誘で別教室・部活棟に行ってる生徒もいるけどな。


 それぞれの教室などで直接教室の使い方等を学んで簡単なゲームを行なったり、生徒指導などを受けたりしたあとで、改めて希望者を募って委員会や係を決め、それと共に校則の説明や、交通安全講習会、校歌の練習なども行う。


 中学とは違ってあちこちから来ている見知らぬ人間が多いので、新入生の友達作り・仲間作りを促進するわけだ。


 それとは別に行われる校外オリエンテーションのほうも目的は同じなのだが、行先はTDLトウキョウディスティニーランドらしい。


 待ち時間の間に班メンバーとワイワイ話ができればいいけど、それができないときついよなTDLトウキョウディスティニーランドは。


 まあそれはともかくいつものように教室に向かい入るところで中へ笑顔で挨拶をしたが今日はまだ西梅枝さいかちさんは来ていないみたいだ。


 でまあ席に着いたら真後ろの席の男子から声をかけられた。


「あ、おはよう、今日のオリエンテーション多分一緒の班になるからよろしく」


「ああ、こちらこそよろしくな。

 一応自己紹介しておくと俺は秦彰浩はたあきひろ

 君は広瀬君だったよね?」


「うん、僕は広瀬明人ひろせあきひと

 これからよろしく」


「ああ、こっちこそよろしくな」


「それにしても秦君は女の子と普通に喋れてすごいね」


「ん? すごいかな?

 男だからとか女だからとかあんまり気にしなくてもいいと思うんだけど」


「いや普通はそこは気にするでしょ?」


 軽く笑いながらそんな話をしていたら入口の方から西梅枝さいかちさんがあいさつする声が聞こえた。


「皆さんおはようございます」


 でいつも通り自分の隣の席に向かってくるわけだけど、あれ……なんか雰囲気変わってる?


 そしてにこやかにそして何かを期待するような雰囲気で西梅枝さいかちさんが俺に挨拶をしてきた。


「秦君、おはよ」


 これって風俗で働いてた時にはよく女の子に聞かれた”昨日は休みだったからネイルしてきたけどどうかなー”とか”今日は香水をシャネルのチャンス オー タンドゥルに変えてみたんだけどどうかな?”とか聞かれるときのあれだな。


 ネイル……はしてなさそうだし、香水……のわけもないし……髪型変えたのかな?


 よく見れば髪を上げてきてるみたいだな。


 しかしまあ、一人っ子で年齢=彼女いない歴の高校生男子に、髪型変えたんだけどわかるかな? は難易度ルナティックだよな。


 俺は風俗で働いてたからなんとなくそういうことに気がついてほしいオーラがわかるけど。


「おはよう、西梅枝さいかちさん、今日の髪型、すごく可愛いね。

 西梅枝さいかちさんの雰囲気に似合ってると思うよ」


「えへへ、そうかな?」


「うん、ちょっと華やかな感じだよね。

 西梅枝さいかちさんが今日遅かったのはセットに手間取ったのかな?」


「あー、秦君がそう言ってくれたからよかったよ。

 うん、慣れてないから結構大変だった」


「え、どうして?」


「私が髪の毛をいじっていたら妹が”お姉ちゃんも私も地味顔なんだからちょっと髪型変えたところで変わんないって”って言ってたから気が付いてもらえないかなーってちょっと思ってたから」


 うん、普通だったら気が付かないと思う。


 年が近くて仲がいい異性、例えば姉とか従妹とかにそういう風に言われなれていたら、また別だけどな。


 それはともかく……。


西梅枝さいかちさんって地味かな?

 俺はかなりかわいくて目立つ方だと思うけど」


「うわー、かわいいなんて、真顔で言われると照れるねー。

 でもお世辞でもうれしいけど」


「別にお世辞ってわけでもないけどな」


 俺たちがそんなことを言ってると広瀬君が目を丸くしていた。


「秦君って……かなりのたらし?」


「まさか、見た通りの彼女いない歴=年齢の非モテだよ?」


「秦君で彼女いない歴=年齢の非モテとか言われても……説得力ないよ?」


 広瀬君の言葉に西梅枝さいかちさんがうんうんうなずいて言う。


「これは天然なんだろうね」


 そして広瀬君もうなずく。


「それはたちが悪い」


 なんか二人にはえらく誤解されてるような気がするけど、たらしだの天然だの言われても”違う、そうじゃない”としか言えないんだがな。

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