第2話 入学式当日 自己紹介は大事だよ

 そして、一晩寝れば高校の入学式だ。


 朝起きた俺は念のためにシャワーを軽く浴びてから、鏡を見てドライヤーで髪型を整え、歯磨きの後で薬用マウスウォッシュで口をくちゅくちゅして口臭にも気を付けるようにする。


 いろいろやっていけば、ニキビも治っていくだろう……多分だけど。


 これで清潔感は出ると思う。


 そして爪を短く切って、やすり掛けもし、身だしなみを整え、朝食をとり昨日と同じように食器などを洗う。


 清潔感のあるフレッシュな新入生というイメージを損なわないようにしないとな。


「準備はできた?

 できたなら行きましょう」


 母さんはニコリと笑って言った。


「うん、大丈夫。

 行こう」


 俺はお母さんと一緒に高校へ向かった。


 校門に入ってすぐ脇に大きな桜が植えられていて、満開の桜の花びらがひらひらと落ちてきているのを見るといかにも入学式という感じがする。


「なんか桜が舞い散る入学式っていいね」


 俺がそういうとお母さんがうなずく


「そうね。

 最近は入学式までには桜の花が散ってしまうことも多かったから、よかったと思うわ。」


 で、昇降口の前に貼り出されたクラスのどれに所属するのかを確認し俺は行く。


 俺は1年1組だった。


 多分これは”前”と同じはずなんだけど実はよく覚えてなかったりする。


 あとこの高校は校則は割とゆるい学校だったはずだ。


 一回高校生活をしてはいるものの、社会人として忙しい生活をしていると、学生の時どうだったかなんて、ほとんどのことは忘れてしまったりするんだよな。


 そして保護者への説明会に向かうお母さんと別れて、1年1組の教室に入ると既に生徒が何人かが来ていた。


 しかし、中学の時は小学校が同じの友達もいたが、高校だといないので教室には微妙な空気が漂っている。


 できれば話しかけたいが、うまく話せなかったら気まずいし、どうしようか? みたいな感じだな。


 こういう時は無難に笑顔で挨拶するに限る。


「皆さん、おはようございます」


 まあ、俺の挨拶に対しての返事の挨拶は帰ってこなかったが、俺のほうを見た奴はそれなりにいたし、悪い印象は持たれなかったと思いたい。


 笑顔とあいさつは人間関係の潤滑材だし、高校は顔見知りが多かった今までとは違うのでイメージも変えやすい筈。


 俺は、俺の名前が書かれた札の貼られた机の椅子を引いてそれに座った。


 そして、鞄から確認のために提出物や筆記用具を出していた。


 そうしたら横の席の女の子から声をかけられた。


「あ、はじめまして。

 私、西梅枝さいかち絵里えりって言います

 西の梅の枝ってかいて”さいかち”です」


「へえ珍しい苗字だね。

 俺は秦彰浩はたあきひろ

 苗字はアーティストのハタ坊と同じやつだ。

 よろしくな西梅枝さいかちさん」


「はい、隣が話しかけやすそうな人でよかったです」


「こちらこそ話しかけてもらえて助かったよ。

 俺から女の子に話しかけると、なんか下心がありそうに思われるかもしれないしさ」


「秦君なら、大丈夫ですよ」


 初対面の相手だとやはり話しかけづらいが、話しかけやすい雰囲気やまっすぐな姿勢に笑顔と無難な挨拶をしておけば、なんとなく話しかけても大丈夫そうだと思えるから不思議だ。


 とはいえ人は第一印象でその人の印象の8割が決まるし、それを変えていくのは簡単ではないから笑顔と挨拶くらいはしておいて損はまったくない。


 で担任の先生が来るまで西梅枝さいかちさんと、他愛もないことを話していたんだが、時間になると担任の先生が入室して、入学式前に10分程度のショートホームルームが行われる。


 俺たちの担任は数学担当の中年男性だな。


 この時点では入学式の説明だけで、それが終わると入学式が行われる会場へと担任が生徒を誘導するので俺たちはそれについていく。


  教頭の開式の辞が宣言されて、入学式がはじまる。


 まず新入生が入場し、それを教職員、来賓、保護者が拍手で迎える。


 それが終われば国歌斉唱で司会の合図とともに全員起立して君が代を歌う。


 次いで、校長が新入生に対して入学を許可する旨の宣言を行う。


 この宣言が終わると晴れて入学が決まり「新入生」となるわけだな。


 続いては校長が新入生に対してお祝いの言葉をかけ、PTA会長、保護者代表、市議会議員、政治家などの来賓二名が祝辞を読み上げ、来賓の紹介や祝電の披露が行われる。


 そして新入生の代表が祝辞を受けてのお礼と抱負を読み上げる。


 まあ大体どこの学校でも同じような流れだろうが結構退屈だ。


 最後に新入生が退場し、拍手で見送られて入学式は無事終わった。


 入学式が終わったあとは、各教室に戻り、ロングホームルームが行われた。


 ここでまずは担任の自己紹介。


「さて、私が1年間このクラスの担任になりました秋山直人あきやまなおとです。

 数学の授業担当でもありますが、よろしく頼みます。

 では必要な提出物を皆さん出してください。

 それから出席番号順に自己紹介をお願いします」


 そして生徒一人一人の自己紹介などが行われる。


 でまあ新入生それぞれが挨拶していくが緊張してしまうのか、うまく言えないやつも結構いるな。


 そして俺の順番が来た。


 俺は教卓まで歩くとふっと息を吐いた後、クラス中を見回した後、顔をしっかりあげて、胸を張り、笑顔を作って大き目の声で少しゆっくりと自己紹介を始めた。


 緊張したり、もじもじして声が小さくなったり、目を合わせないでいると話しかけづらいイメージが付くし、あんまりおどおどしてると最悪いじめの対象になるかもしれないからな。


 逆にこういう時にどっしり構えて背筋を伸ばすだけで自信に満ちているように見えるし、なめられることもない。


「皆さん初めまして。

 俺は秦彰浩っていいます。

 趣味は読書で漫画・ラノベから哲学書まで幅広く読みますね。

 できれば趣味が合う人がいれば嬉しいです。

 皆さん、これからよろしくお願いします」


 ボッチオタクからは脱出したいが、だからと言って無理してまで多数の友達を作ろうとするつもりもない。


 趣味や話が合う人間が見つかればそれで十分だ。


 まあそういう意味では隣の席の女の子が話しかけてくれたのはすごく助かったけど。


 事務的な用事もないのに下手に異性に話しかけると下心があるように思われかねないからな。


 他人との距離の取り方やつめ方って簡単なようでいて結構難しいんだよな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る