610 通じぬ想い



 【 お詫びとお断り 】


 新年度となり多忙になりました(泣)

 なのでしばらく隔日投稿とさせていただきます(謝)



 ―――――――――――――――



 「なんじゃワニまでおるのか!」


 「やったれ、おっさん!」


 「今度はオオカミか!」


 「やったれ、小童!」


 魔獣ゴリラのあともサルやワニ、オオカミなどなどありとあらゆる魔獣が襲ってきたよ。

 本当はもっと急ぎたいのに少し歩いては闘うの繰り返しなんだ。だから遅々として進まないんだよね。


 おっさんは火魔法ぶっ放す以外は全部俺にやらせるし。


 「前方より10体来ます!2、3体は抜けると思います。お願いします!」


 「「「了解!」」」



 いつしか俺とルシウスのおっさんが斥候をしてたんだ。


 「おっさん言うな小童!」


 「小童言うなおっさん!」











 「「「(意外に仲良し?)」」」


 できる限りの魔獣は倒して進んでるんだけどね。やっぱり思ったほど早く行けないんだよなぁ。








 ゴロゴロゴロゴロ‥‥


 「‥‥」


 隊の後方では無言で下を向きながらリアカーを曳くバリーさん。


 狂犬団のメンディー君とケント君でさえ、バリーさんの護衛になったんだ。


 「なあバリー。ちょっと前の俺たちの恥ずかしい話を聞いてくれよ」


 「‥‥」


 「俺とケントはさ、お前と同じで教会学校卒業したあと帝都学園で6年過ごしたんだよ。ま、知ってるよな。

 これも知ってるかもしんねぇけど学園は1組から10組まで実力順なのよ。

 俺らずっと卒業するまでケツの10組でさ。だけど帝都学園って言やぁそれだけで箔がつくじゃん。そんでいい気になって6年遊び呆けてたんだよ」


 「‥‥」


 「学園卒業してもな、なにか仕事って決めるのもなんだか億劫でな。とりあえず冒険者にでもなって毎日面白おかしく生きてりゃいいやって。また遊び呆けだしたんだよ」


 「‥‥」


 ゴロゴロゴロゴロ‥‥


 いつしか第2分隊を始めとした女子団員さんたちもメンディー君たちの話を聞いてたんだって。


 「そんでしばらくして。遊び仲間の6年10組の後輩から頼まれたんだよ。

 『学園に留学してきた生意気な3年生を少し指導してやってくれ』ってな。

 そんなわけで俺ら1人5,000G、仲間20人が全員で10万Gで雇われてな。笑っちゃうだろ。後輩の3年生殴って金もらうって」


 「‥‥」


 「団長は留学してきた最初の挨拶で全生徒に宣言したんだってよ。『俺が1番だ。言うことを聞きたくない奴は何人でもいいからかかってこい』って」


 「‥‥」


 「そんなことなんも知らねえ俺ら20人がその3年生1人を囲んでな。かわいそうだから軽く殴るくらいにしてやろうって思ってたのが‥‥軽くしてもらったのが俺ら20人だったんだよ」


 「‥‥」


 「でな、その3年生がアレク団長だったんだよ。

 その後、あっという間に帝都学園中を狂犬団にまとめあげてな。俺らも狂犬団の成人組に入れてもらった」


 メンディー君に続いてケント君が話を引き受けたんだって。


 「言うこと聞けって団長は何言ったと思う?」


 「‥‥」


 「それがな教会の炊き出しを手伝えとか、孤児の保護の手伝いしろだぜ?信じられるか?」


 「‥‥」


 「しかも団長はそんな孤児が住めるような施設も自分の金使って自分の土魔法でとんでもないもの建てたりしてな。

 その土地も奴隷商のヤクザもんをぶっ倒して巻き上げたんだぜ。 

 クックック傑作だろ。

 ああ、俺らその施設、青雲館って言うんだけどな、そこに住まわせてもらってんだ。もちろんタダだぞ。風呂もあるし、団長が作ったうまい飯も食えるんだぞ。俺ら、ダンジョンのない日は子どもたちを教えてるんだ」


 「‥‥」


 「なぁバリー。

 団長はそんなことをなんの見返りも期待せずにやってんだぞ。

 剣も魔法もとんでもなく強い。金も信じられないくらい持ってる。

 そんな団長に俺ら半端もんが勝てると思うか?今までみたいに好き勝手できるか?」


 「‥‥」


 「俺はできねぇ。

 今までみたいに好き勝手やって、あの人に呆れられるのは俺自身が絶対に嫌なんだよ」


 「‥‥」


 「だからな、俺らは俺らにできることを少しずつでいいからちゃんとやろうって決めて毎日やってんだよ」


 「‥‥」


 「なぁバリー、お前も団長に会えたなんて幸運、そうそう無いんだぜ。

 だからよお前も‥」


 「うるさいうるさいうるさいうるさい!

 なんであんなガキの言うこと聞かなきゃいけないんだ!俺は俺だ!なにしようが勝手だろ!」


 「「‥‥」」


 「そうだなバリー‥‥」


 「なんで冒険者なんかに意見されるんだよ!放っといてくれ!」


 「‥‥ああ。でもなバリー‥‥機会なんてやつはいつまでも待っちゃくれないんだぜ」


 「‥‥」



 ―――――――――――――――



 ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン‥‥


 「休憩にするか。お願いできるかいアレク君」


 「はい、よろこんでー!」


 「あんた居酒屋の店員かよ!」


 「怖いわシルフィ!」










 

 「今日は金曜日だからカレーの日です」


 「ああアレク君、ペイズリーさんから聞いてるよ。

 海軍では金曜日にカレーが出るんだってね」


 「はい、そうなんですよ。週に1度決まった食事が出れば曜日感覚もズレないんですよね‥‥って古い文献に載ってましたから。あはははは」


 「団長俺らも手伝います」


 「ありがとうメンディー君、ケント君」


 狂犬団の2人も手伝ってくれたからとっても早く大鍋のカレーが提供できたよ。


 お肉も野菜もいっぱい。ゴロゴロ具材が入ったカレー。カレールーがあるからおいしくてとっても簡単なんだよね。


 「「私カレー初めて食べるわ」」


 「「俺もだ」」


 「今日は辛口のカレーです。苦手な人はごめんなさい。せめてお水をたくさん飲んでください」


 今日の夜ごはんはカレーとコッペパン。お代わりは少なめなんだ。代わりにといったらアレだけど、カレーが残ったお鍋にお湯とコンソメを注いだカレースープは飲み放題にしたけど‥‥まさか大鍋が空になるとは!


 「ウマッ!」


 「辛っ!」


 「「「辛ウマーーッ!」」」


 みんな大喜びで食べてくれたよ。


 「おっさん、うまいか?」


 「フン。まあまあだな」


 そうは言いつつお皿に残ったカレーをパンに付けて食べてくれてたからうれしいな。

 てかこのおっさん、やけに食べ慣れてるよな。なんで?


 食後はシャワーを浴びてもらったり、お茶を飲んだり、仮眠をしたりと適宜のんびりしてもらったよ。


 俺とキザエモンは刃こぼれしたみんなの刀を叩いてたりしてたんだ。


 トンカントンカントンカン‥‥


 「ところでアレク関、あの蜘蛛の糸はどうするんでごわす?」


 そうだよ!

 忘れてたよ、糸電話のことを!


 この蜘蛛の糸、ミスリルの含有量も高いからけっこう高性能の糸電話ができると思うんだよね。しかもミスリルだからそうそう切れることもないし。


 前に糸電話を発現したときは一方通行だったんだよね。喋ってるときは喋ることしかできないし、聞くときは聞くしかできない。


 でもさ、2本を同期したらいいんじゃないかって思ったんだ。これだったら同時に話すことも聞くこともできる。

 これぞ異世界ロマンじゃね?


 早速ミスリル糸を2本ネジネジして作ってみたよ。土魔法でティッシュ箱サイズのスピーカーとマイクも作ってみたよ。


 「おっさん。ちょっと実験に付き合ってくれよ」


 リアカーに一方を据え付けて。もう一方は俺が持って50メル、斥候の位置についた。


 「おっさん、喋るときはここに向かって喋るんだぞ。声はこっちから聞こえてくるからな。

 必ず最初に『しもしもー』って言えよ」


 「なんじゃそれは?おい?おい小童?!」


 「じゃあ実験するよ」


 食後に何かを始めた俺のまわりにみんなが集まってきたんだ。


 「しもしもー。おっさん聞こえてますかー?」


 マイクに向かって話したんだ。






















 「しもしもー。小童聞こえとるぞ‥‥です!」


 「「えっ?!」」


 「「なにこれ?!」」


 「「「すごーい!!」」」


 「しもしもー。カレーはうまかったですか?」


 「しもしもー。うまかったです」


 「しもしもー。おっさんの好きな食べものはなんですか?」


 「しもしもー。わしが好きなのはもちろんマヨネー‥なんでそんなことを言わなならんのじゃ!この小童めー!」


 わははははは

 ワハハハハハ

 わははははは


 ミスリル糸の糸電話は予想以上に使えるな。しかも電力要らずだし。


 「アレク君これはいったいなんなんだい?」


 「あーこれ、昔の人の知識で電話って言うんです。ミスリル糸を使えば離れた相手との会話も成り立つかなっていう実験なんです。成功しましたね」


 「離れた相手と会話ができるんだね!なんとも画期的なものだ」


 「おもしろいでしょ」


 「そうだね。ちなみにどのくらいのことができそうかい?」


 「はい。俺が帝都にいる間にやれるようにするのは、宮殿、騎士団本部、海軍本部、魔法軍本部、陸軍本部、帝都冒険者ギルド。各代表を会話できるように繋げますね。そしたら移動しなくても会話ができますよ」


 こくこく

 コクコク


 メイズさんとジャックさんの2人から固い握手を求められたよ。

 2人の間ではさらに飛躍した活用法ができたんだろうな。


 「ゆくゆくは帝都内各区、個人の家々にまで繋げることも可能ですよ。そしたら‥‥例の件も事前に危険を察知できますよね」


 「そうだね」


 「メイズさん。俺これを商業ギルドで登録します。使用には縛りをつけて」


 「ん?それはなぜ?」


 「ガキの希望なんですけど他国との戦争の道具には使ってほしくないのが本音です」


 糸電話(有線)が運用できるようになれば、通信の問題が解決するからね。ただでさえ中原最強の帝国が大きなアドバンテージを得ることになると思う。

 だけど俺はこの世界の文明を不必要に加速させたくない。まして戦争には。


 ここに来て思ったんだ。帝国はヴィヨルドと同じ、もしくはそれ以上に理性的な人が集まってるんだなって。だけど戦争は別だからね。


 「アレク君。今回の件が終わったあと。

 できるだけ君の要望に沿うように皆で進めていきたい課題だね」


 「はい。この件が終わったら検討してください」


 「(メイズ団長‥‥やはりアレク君は歴史に残る傑物になるでしょうな)」


 「(ああジャック副官。だからこそ、この国は彼と永く友好を結んでいきたいものだね)」


 「(はい)」





 【 バリーside 】


 気にいらねぇ、気にいらねぇ、気にいらねぇ!

 なんであんなガキの話に騎士団長たちが興味を持ってるんだよ!    

 糸電話?そんなもん、俺にだって考えられた。ただ俺がまだ経験が足りないだけなんだ!


 気にいらねぇ、気にいらねぇ、気にいらねぇ!


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