609 魔獣ゴリラへの一撃



 ルシウスのおっさんの高火力火魔法も効かないんだもん。 

 これじゃあ雷魔法でもゴリラの表面の体毛を焦がすだけかもしれないな。


 「契約魔法とはいえ、あまり他人に雷は見せないほうがいいわアレク」


 「だよね」


 今回のダンジョンに参加する人には俺の発現できる魔法に関して契約魔法で縛ってもらってる。守秘義務って言うの?


 とはいえ、自分が発現できる魔法をあまり人に知られるのは良くないもんね。



 「なんと!わしの火魔法が効かないのか!?」


 ゴリラやオランウータンの銀色の体毛もたぶんミスリル由来なんだろうな。てことは全身がミスリル魔獣の対策もしなきゃいけない。狂犬団の仲間も守らなきゃいけないんだけど、はっきり言って1人だけがお荷物だ。


 「耳が、耳が、耳が聞こえねぇーーー!」


 叫び続けるバリーさんを半ば無視した狂犬団の2人が、俺を探していたよ。


 「あれ?団長は?」


 「「どこだ?」」


 ゴリラの音対策を2人に告げに来た俺がすっとその気配もろともに消えたからね。


 「耳が、耳が、耳が聞こえねぇーーー!」


 「ウルセェ!バリー!」


 ゴンっ!


 バリーの後頭部を叩くメンディー君。


 「お前、騎士団さんの仲間にも俺たちにも、みんなに迷惑かけてるのにまだ気づかないのかよ!」


 「うるさい!耳が聞こえないんだよ!」


 「お前昔からなんにも変わんねぇな!」


 「うるさいうるさいうるさい!」


 「狂犬団の子たち、どいてくれる?このうるさいバリーの肩と耳だけは治すわ」


 「「はい‥‥」」


 「ちょっとだけ周囲の警戒をお願いしてもいい?」


 「「もちろんです!」」


 「バリー、じっとしてなさい。ヒール!」


 回復魔法を発現できる騎士団の女の人がバリーさんの肩と耳を治してくれたよ。


 「はい。どう?」


 コク


 「治った?」


 コク


 「バリーあなたそんなんじゃ‥‥」


 「もういいぞ」


 頭を左右に振って。手で女子団員さんのその先の言葉を止めたのはジャック副長だった。


 「バリー、このあと君はリアカーを曳くように」


 それだけを告げたジャックさんは対サル戦に戻っていったんだ。


 「‥‥」


 戦闘中でもあるんだけど、誰もバリーさんに話さなくなった。バリーさんのボッチが確定したんだ。



 ―――――――――――――――


 

 学校の体育館の天井あたりの高さ。気配を消した俺は、今ダンジョンの天井に逆さに立っている。

 ちょうどキザエモンのいる真上に。


 天井に逆さで立つ俺と何気に軽く目線を合わせたメイズさんとジャックさんが頷きながら軽く微笑んでくれたよ。


 こくこく

 コクコク


 目線は動かさず、眉毛と口角だけ上げたキザエモンも気付いてるな。

 ルシウスのおっさんはただ目を大きく見張っていたけど。


 他の騎士団員さんたちは残念ながら気付いてないかな。


 思い出すなぁ。キム先輩が昔こうして天井に逆さに立ってたんだよね。

 あのときはとにかく驚いたよ。キム先輩カッケーって。


 「でももうアレクにもできるでしょ。キムに感謝よね」


 「そうだねシルフィ」


 ボコボコボコとドラミングをした魔獣ゴリラが、悠々とキザエモンの土俵に上がったんだ。


 「フーッッ フーッッ フーッッ‥‥」


 凶悪そうに微笑みながら。もうお前なんか敵でもなんでもないって雰囲気アリアリで。


 これから蹂躙してやるぞって余裕ぶっこいてる魔獣ゴリラと再戦のキザエモンががっぷり4つでぶつかった。


 ダアアアァァァァンンンッッッ!


 今度は押し負けないキザエモンが5分の力でゴリラのぶちかましを受け止めた。


 「ウガッ ウガッ ウガアァッ!?」


 そのまま魔獣ゴリラの両腕ごとがっちりと締め上げるキザエモンに魔獣ゴリラは動けない!って言ってるんだと思うよ。


 「ウガッ ウガッ ウガアァッ!?」


 大きさはゴリラのほうが1回りも2回りも上回っているのに。ゴリラの両腕ごとを締めあげた不動のキザエモンが叫んだんだ。


 「おいたちの勝ちでごわす!」


 

















 すうぅぅっっ

 とんっ


 勝利を確信したキザエモンが目線を斜め上に上げる。


 「アレク関!」


 ニカッ

 ニコッ


 ゴリラの両肩に立った俺はそのまま脇差を抜いてゴリラの片耳を刺突。剣先はそのままもう片耳まで貫いた。


 ザクッッッ!


 「ウガガガガガッッッ‥‥‥‥」


 「離れろキザエモン!」


 脇差で耳を突くと同時に。念には念を入れて脇差を通して雷魔法も体内に流し込む。これなら周りの誰にもわからないはず。


 ビリビリビリビリビリビリッ‥‥


 全身を小刻みに震わせた魔獣ゴリラから白煙が立ち上った。


 シユュュュュューーーッッッ‥‥


 目、耳、鼻、口。身体の上部にあるすべての穴から焦げ臭い煙が上がったんだ。


 ズドーーーーンッッ!


 もんどり打って前に倒れる魔獣ゴリラ。


 「キキッ!?」


 「ギャーーッッ!」


 「ギャーーッッ!」


 わずかに残ったオランウータンたちサル魔獣たちは、我先に逃げていったよ。


 「「キザエモン!(アレク関!)」」


 軽くハイタッチした俺たちを見守ったメイズさんが言ったんだ。


 「よくやった。急ごう。もうすぐ追いつくよ」



 ―――――――――――――――



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