611 ミスリルゴーレムのたおしかた



 「カール兄ちゃん、明日も剣を教えてくれる?」


 「悪いな。明日からダンジョンなんだよ。だからしばらくは遊んであげられないなぁ」


 「そっかぁ、残念。じゃあ帰ったらダンジョンの話聞かせてよ!」


 「ああもちろんな。さあ上がって。背中を流してあげるからな」


 「「はーい」」


 カール君と子どもたちが風呂に入っている夢を見た。ニコニコしながら子どもの背中を流しているカール君の姿が湯煙の中に浮かぶ。


 「団長、僕の弟たちもまだこのくらいの歳なんですよ」


 「へぇーそうなんだ」


 やけにリアルな夢を見たんだ。






 ゴロゴロゴロゴロ‥‥


 後ろからリアカーを曳く音が少しゆっくり聞こえる。

 上り坂になったからだな。


 そういやずっと一本道だったのに。地形が変わったのかな。

 その坂道の途中で。


 「「おっさん!(小童!)」」


 2人がハモったんだ。

 それはダンジョンの床に無造作に放置された2口の刀だった。


 「おっさん!?」


 「ああ。これは騎士団員のものだ」


 「まさか‥‥」


 こくん


 おっさんがしかめっ面で重く頷いた。


 ダンジョンでは死んだ生物は吸収されるけど、刀や盾などの無生物はそのまま放置されることも多々あるんだよね。


 悲しいことに、ついに犠牲者が出たみたいなんだ。後続の騎士団員さんが刀を回収していたから、ご家族への遺品になるんだろうな。



 上り坂を登りきった頂点から下方が見えた。

 そこは盆地というか、すり鉢状に窪んだ体育館程度の広さがある地形だった。

 最奥は黒くて見渡せない。深い穴が空いているように見えるな。

 もしかして洞窟の下層へと繋がるのかな。


 5つ6つの大きな岩石が地面に転がっているのが見える。これらの岩石はすべて純度の高いミスリル鉱だった。 まるで伏せった人型みたいだったよ。


 岩石と同時に目についたのは、地面にぼこぼこと数多くの穴が等間隔で空いていることだった。

 俺のイメージではゲーセンのモグラ叩き?まるで中からモグラが出てきそうな感じの丸穴だった。


 その直後のことなんだ。


 「「!!」」


 それは唐突に探知できた多数の人の気配だった。ミスリル鉱の穴が人の気配を遮断してたみたい。


 「「見つかったぞ!(見つかりました!)」」


 斥候のおっさんと俺が同時に叫んだ。


 探知に引っかかったのは丸い穴から騎士団員さんやキース君が、ひょっこりと顔を覗かせたからなんだ。


 「アレク団長!」


 「キース君!良かった。無事なんだね」


 大声で叫ぶ俺に、同じような大声なんだけど、震える声のキース君が返事をしてくれたんだ。


 「メンディーとケントが蜘蛛に捕まりました。あとカールが‥‥カールが死にました!」


 「えっ!?」


 「なんだよ‥‥死んだ?キース君冗談がキツいな」


 「‥‥」


 「団長!この先は来ちゃだめです!」


 「キース君‥‥」


 それはキース君が俺に初めて発する悲壮感いっぱいの叫び声だった。


 「「キース!」」


 「メンディー、ケント!?お前ら無事だったんだな!」


 「ああ団長が蜘蛛を蹴散らして俺らを助けてくれたんだ」


 「なあカールは?カールはどこなんだよ?!」


 「‥‥」


 「お前らよかったよ。でも団長そこから下には来ちゃだめです!」


 「なにがあった?」


 「ゴーレムです!しかもミスリルのゴーレムですから騎士団さんもなす術がありません!

 しかもゴブリンソルジャー‥」


 そこに。


 ギギギギギギッッ。


 人型に見えた5つの岩石がゆっくり立ち上がったんだ。


 「「ゴーレムだ!」」


 「「ゴーレムよ!」」


 「「「ミスリルのゴーレムだ!」」」


 マジか!

 なんだこいつら、ミスリルゴーレムかよ!

 金ゴーレムのさらに最上位機種じゃん!


 人が伏せった形にみえた岩だと思ってたのがまさかのゴーレムだったんだ。


 ギギギギギギッッ。


 ササササッ


 5体のミスリルゴーレムの起動に合わせて、咄嗟に穴に潜るキース君と騎士団員たち。


 立ち上がったミスリルゴーレムがその手に持つハンマーを穴に向けて振り下ろしたんだ。


 ドガーンッッ!

 ドガーンッッ!

 ドガーンッッ!


 それはまさにリアルモグラ叩きの絵図だった。ピコピコハンマーがミスリル製なんだ。


 穴に潜って見えないキース君の声が聞こえる。


 「カールはこいつらに潰されました。あと騎士団さんも4人!

 ゴーレムはしばらく攻撃を続けたらまた静かになるんですが、そのタイミングがぜんぜん掴めないんです!」


 話してる途中で。キース君たちの気配も突然消えたんだ。

 みんな穴で息を潜めてるんだな。


 ドガーンッッ!

 ドガーンッッ!

 ドガーンッッ!


 たくさんの穴をハンマーで闇雲に叩きつけるミスリルゴーレムたち。こりゃたしかに直撃したら即死間違いなしだ。


 ドガーンッッ!

 ドガーンッッ!

 ドガーンッッ!



 ドガーンッッ!

 ドガーンッッ!

 ドガーンッッ!

















 しばらく続いたミスリルゴーレムの攻撃が止んで。電池が切れたみたいにゴーレムたちはその場で体操座りするみたいに床に座ったんだ。


 「誰か状況を話せる団員はいるかい?」


 メイズさんが声を上げたんだ。


 「メイズ団長。調査隊の隊長ヒュンメルです。

 調査隊は帰還組を3組送りました。昨日までに蜘蛛の糸に捕まったポーターが2人おります。現在4日ほどここに留まっていますが、騎士団員が4人、ポーターが1人、ゴーレムにやられました。同時に潜伏中のゴブリンソルジャーが2体。奴らの矢で5人負傷中です!」


 調査の騎士団員さんたちは最後の帰還組が死んだことは知らないんだな。ゴブリンソルジャーは1体俺が倒したから、あと1体だろうな。


 「ゴーレムには魔法も武器もまったく歯が立ちません!さらにゴブリンソルジャーの矢で身動きも取れない現状です」


 てことは‥‥やっぱりゴブリンソルジャーの排除が最優先課題だな。


 「メイズさん。ここは俺に任せてください。まず天井からゴブリンソルジャーを射ます。ゴブリンさえいなくなればゴーレムなんてどうとでもなりますから」


 「どうとでも?まさか!?

 ああ、アレク君だったね。うん、わかったよアレク君」


 「じゃあメイズさん‥‥」





















 俺は気配を消して天井の真ん中に逆さ立ちとなったんだ。ここなら四方が射程内だ。


 メイズさんが俺の言葉をキース君に伝えてくれる。


 「キース君。騎士団長のメイズだ」


 「はい」


 メイズ騎士団長の声が朗々と響きわたる。


 「狂犬団のアレク団長から君への指令を伝える。ゴーレムだけに気をつけてその場で立ちなさい」


 「「「(まさか‥‥)」」」


 「「「(そんなことしたら‥‥)」」」


 それはどう考えても、間違って聞こえるよね。騎士団員のために犠牲となって死ねということかって。


 もちろんそんなつもりは毛頭ないよ。

 俺が何かするだろうという意図はキース君にも伝わってるはずなんだ。ゴブリンソルジャーに知られずにね。そのために俺自身が気配を消してるってことキース君も気づいてくれてるはずなんだ。


 「了解しました!」


 あたりにミスリルゴーレムがいない中をキース君が穴から這い出て立ち上がったんだ。

 まるでどこからでも射かけろって言ってるみたいに。

 

 (ごめんなキース君。怖い思いさせて)


 「いた‥‥」


 シュッッ!


 もう1射!


 シュッッ!


 「グギャャーーッ!」


 パーーンッッ



 キース君を射かけるつもりで身体を顕したゴブリンソルジャーを正確に射抜く。もちろん念には念を入れて2射めを頭部に。スイカ割りのように割れたゴブリンソルジャー。

 これで脅威はなくなった。


 「もうあとはアレクの得意技じゃん!」


 「得意技言うなよシルフィ。まぁ得意技だけど」


 わははははは

 フフフフフフ


 はっきり言ってゴーレムは男のロマンなんだ。ロボはカッケーんだよね!


 だけど。

 敵としてみたら‥‥この世界のロボは土魔法を使える俺の敵じゃない。

 だってゴーレムは転けたら終わりなんだもん。


 すとんっ。


 天井から降りた俺目指して5体のゴーレムが迫ってきたよ。


 ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ‥‥


 見えるのかな?それともやっぱ温度センサーなのかな。

 あー平らな地面だからゴーレムは動けるんだよね。高低のあるところなら動けない。てかよく見たら穴のないところしか歩いてないし。


 「キザエモーン。ゴーレムと遊ぶか?キザエモン用に少し残しとくか?」


 「いいんでごわすか!がはははは」


 「団長!危ないです!こいつら団長の火魔法も水魔法も効きません。おそらくあの魔法も!」


 「「「アレク君!」」」


 「「団長!」」


 「小童!早く逃げろ!」


 あー騎士団の人たちも狂犬団のメンディー君たちも、誰も知らないんだよな。俺はゴーレムにとっては天敵の存在だってことに。


 とりあえず見本として2、3体倒しておこうかな。ゴーレムなんか怖がることはないんだってことをわかってもらおう。


 「見とけよキザエモン。ゴーレムは転けたらもう立てないんだよ」


 「そうでごわすな」


 「だからさ、こうやって穴に落としてもいいんだ」


 そう言いながら接近してくるゴーレムを落とし穴に落としたんだ。


 ドスーーーンッッ!

 ドスーーーンッッ!


 「なっキザエモン。カンタンだろ」


 「「「‥‥」」」


 騎士団の人たちが呆気にとられてたんだ。とくにこの何日かを恐怖の中で過ごしてた調査隊の人たちにしたら言葉も出ないだろうね。


 「キザエモンだったらこれできるんじゃね?」


 「どうするでごわすか?」


 「こうやって倒すんだよ」


 そう言った俺は向かってくるゴーレムの後ろにいきなり回って……。


 ダダダッッッ!


 「ゴーレムの後ろに回ってーー膝かっくーーんっ!」


 膝蹴りを喰らわした。


 ガクッッ























 ドスーーーンッッ!


 転けたらあとはもう動けないんだよね。

 後ろからそんなゴーレムに乗っかって、頭を力いっぱい引っこ抜いたんだ。


 「キザエモンもいけるだろ?」


 「わかったでごわすアレク関!」


 そんな俺を見て騎士団の人たちはこう思ってたんだって。


 (((速さが尋常じゃないからよ!ふつうの人間じゃ無理だよ!)))


 俺は倒したゴーレムの手からハンマーをぶんどって坂の下まで降りてきたキザエモンに手渡したんだ。

 だけど。


 「アレク関、おいどんの棍棒でも十分でごわすな?」


 「キザエモンの力ならいけるんじゃね?」


 「やってみるでごわす!」


 ダダダッッッ


 ゴーレムに近づいたキザエモンがやっぱり急速旋回して。ゴーレムに棍棒で膝かっくんしたんだ。


 ガーーーンッッッ!


 
















 ドスーーーンッッ!


 「勝てたでごわす!」


 「「イェーイ!」」


 キザエモンとハイタッチしたんだ。


 呆気に取られた騎士団の人たちも下に降りてきたんだよね。


 「小童。ミスリルゴーレムだぞ?ミスリルゴーレムをこんなふうに倒すなんて初めて見たわ!」


 「アレク君‥‥僕も初めて見たよ」


 「そうですか?俺金のゴーレムもこうやって倒しましたよ。ゴーレムなんか敵じゃないですって」


 「「「あははは‥‥」」」


 なんかみんな引いてるよな。


 「よっしゃ。あと1体もキザエモン倒しといてくれよ」


 「わかったでごわす」


 と。



 



 


 











 「そんなもん俺にだってできる!」


 そう言ったバリーさんがいきなり駆け出したんだ。


 「「バカもん!」」


 「「危ない!」」


 「「離れろ!」」


 みんなの声もむなしく。バリーさんがゴーレムの後ろに回る前に。

 ゴーレムのハンマーがバリーさんの背中に向けて放たれたんだ。



 ヒュッッッ!


 「「「キャーーーッ!」」」


 ―――――――――――――――


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