374 サンデー商会
帰省報告はシルカさんにも。
近所の雑貨屋さんといえば、サンデー商会のデニーホッパー村店なんだよな。
村唯一のお金を使える小さなお店ってイメージだったけど、いつのまにか居酒屋併設の大きなコンビニみたいになった。これには俺もびっくりしている。
貧しいだけだったデニーホッパー村。お金なんてもちろんないし、欲しいものは物々交換がメインだったからね。そんな村民もお金という貨幣経済の恩恵に与れるようになったんだ。サンデー商会以外にも村の噴水広場には何軒かの屋台まで出店してるんだよ。ツクネ串なんかも売ってるよ。観光客だけじゃなくて村人も利用してるんだ。エール飲んで肉串食べて楽しんでる人も増えたよ。
村のサンデー商会のスタートはシルカさんという山猫獣人さんが1人で切り盛りしてたんだ。明るくてしなやかな肢体のシルカさん。やや露出も多くて健康的且つセクシーなんだよな。俺的には目のやり場に困るからとっても迷惑なんだけどね!実にけしからん!アンナも大人になったらシルカさんみたいになるのかな。うーん、でもなんか家族のそんなハレンチな姿は見たくないような……。ハレンチって言葉もなんかオッさんみたいだな。
そんなシルカさんは孤軍奮闘してサンデー商会を切り盛りしてたはずなのに。いつのまにか隣の居酒屋と併せて3人の従業員さんを指揮するようになっていたんだ。
「シルカさんただいまー」
「わぁアレク君お帰りっス」
ピョンっと飛びこんで俺を抱きしめてくれたシルカさん。
あ〜いい匂いがするなぁ〜へへっ
「‥ク君、レク君、おーいアレク君聞いてるっスかー?」
「あわわわっ。ご、ごめんねシルカさん」
「相変わらずっスねーアレク君は」
フフフ
ふふふ
フフフ
若い女性ばかりの従業員さんたちがなぜか生暖かい目で俺を見ていた。ん?なんで?
「食堂のほうに座るっスか。まだ早いからお客さんもいないっスよ」
「うん」
「シルカさんは相変わらず元気だね」
「元気だけが取り柄っスよ」
「サンデーさんは元気?」
「いつもどおりっスよ。いつ寝てるんだろうっていうくらい毎日朝から晩まで元気いっぱいに領内のそこらじゅうに行ってるっスね」
「わはは。サンデーさんらしいね」
王室ご用達のミカサ商会ミカサ商会長がその才に惚れ込んだという孫娘のサンデーさん。俺も大好きなんだよな。あっ、もちろん商才や性格がだよ。女性としての容姿の魅力は‥‥ほんの少し。ウソ。その魅力もいっぱいあるんだけどね。
「でアレク君去年の夏からの話を聞きたいっス」
「あのねシルカさん。気を悪くしたらごめんね‥」
俺は学園ダンジョンの話をする前に、サンデー商会やミカサ商会には相談もせずにメイプルシロップの生産を始めたことを詫びた。
さすがというべきか、シルカさんはメイプルシロップの動向をしっかり掴んでいた。
「なんでアレク君が謝る必要があるんっスか。だいたいうちもミカサ商会さんもいつもアレク君に便宜を図ってもらってることに感謝してるんっスよ」
「そう言ってくれると気が楽なんだけどね‥」
「まあサンデー商会はこれからもずーっとアレク君と仲良くやっていきたいんっスよ。もちろん私もっスけどね」
と言いながら自然体に下から俺を見上げる笑顔に思わずドキドキした。
アンナもだけど猫獣人ってときどき反則なんだよな。あざといっていうの?うん。あざとかわいいだ。でもあざとかわいいのどこが悪いんだよ!大賛成だぜ。あんなふうに見つめられたら勘違いしてしまうんだよ。照れるぜまったく。
「アレク君。メイプルシロップは今のやり方が正解っスよ。ヴィヨルドの領都騎士団、冒険者ギルド、商業ギルドの3つが手を組んで何かをするって戦争以来初めてじゃないっスかね」
「うん」
「ただでさえ武闘派として名を馳せるヴィヨルドですからね。メイプルシロップについて難癖をつけてくる領なんかないんじゃないっスかね」
「そうだといいんだけどね」
「もちろんアレク君のアレク工房は王室ご用達のミカサ商会長の庇護下だと世間では思われてますし、その上でメイプルシロップの件でヴィヨルド領のバックアップがあるとも思われるようになりましたからね」
「うん。周りの大人、他人の力を借りてばかりいるんだけどね」
「フフフ、それは違うっスよ。借りるだけじゃなくってアレク君はちゃんと返してますよ。
もっともっと力をつけるまでは借りれるものはなんでも借りたらいいんっス。でも‥‥それでもちょっかいをかけてくる馬鹿は出てきそうですけどね」
「だろうね‥」
「アレク君は春休みが終わったらまたヴィヨルドに帰るんっスよね?」
「うん」
「じゃあ村にいる間にいっぱいアレク君と話をしとかなきゃサンデーさんに叱られるっスよ」
「あはは」
「で、なんかあるんっスよね?新作」
「あるよー」
こうして俺はシルカさんに新作を説明したんだ。
まずはリズ鍋。これはダンジョンから戻ってすぐにヴィヨルドの商業ギルドで登録してあるからあとは売り出すだけだよ。鍋の中底に保温する魔法陣を描いてあとは鍋の外側側面に魔石入れのスペースを作るだけ。それだけで冬でも温度が冷めない鍋、リズ鍋の完成だよ。これは俺も爆売れの自信がある。何せリズ先輩の名前を冠したリズ鍋だもん。
「じゃあアレク君、リズ鍋は説明書を添付して王都のミカサ商会さんに送っときますね。王都のアレク工房でリズ鍋を作ってミカサ商会とサンデー商会でバンバン売っていくっスよ」
「お願いするねシルカさん」
「これは売れるっスよ。しかも中原中で間違いなく売れるっスよ」
「だといいな」
「利益はアレク君とリズさんの折半でいいんっスよね?」
「うん。俺と領都のリズ先輩でお願いね」
「しかし話題の魔法使いリズさんとも仲良くなるとは。世の中おもしろいっスね」
「だよねー」
「それからね‥」
リズ鍋と並ぶもう1つの自信作がリアカーなんだ。この時代、馬車はあるのになぜか陸送の運搬手段は背負子だけなんだよ。
リアカーは安価な2輪タイプとより安定する4輪タイプを作ったんだ。このリアカーは個人はもとより中原の物流そのものを変えると思うよ。
「アレク君このリアカーはめちゃくちゃ便利っスね。ただ‥」
「パクられやすいよね」
「そうっスね。残念だけど」
「だからアレク工房製リアカーは頑丈で壊れにくいものにしなきゃね」
「これは本格的に鍛冶屋仕事専門の工房も考えなきゃいけないっスね」
「俺言うばっかだから。またシルカさんからサンデーさん、ミカサ会長たちに丸投げするからね」
「任せるっスよ!」
シルカさんからばーんと背中を叩かれた。ああ、これが信頼関係なんだろうな。
「それとねシルカさん。俺が履いてるこの戦闘靴‥」
俺が履いてる戦闘靴を片足脱いでシリカさんに渡した。あっ、臭くないだろうな。
「アレク君これ‥」
「うん、あとで俺が曳いてるリアカーのタイヤもみてね」
「これは‥‥すごいっスね‥」
戦闘靴の靴底とリアカーのタイヤに履いたもの。ゴムを触りながらシルカさんが呟いた。
「アレク君ちょっと両方貸してほしいっス」
「いいけど‥」
俺が履いてた靴をそそくさとシルカさんが履いたんだ。なんか恥ずかしいな。
ピョーン ピョーン
グリップを確かめるようにピョンピョンするシルカさん。
「なんですかこの柔らかさ。かといって柔らかすぎることもない適度な弾力は!」
「これね、ダンジョン内のゴムの木っていう木の樹液を固めたものなんだ。靴底やリアカーのタイヤに填めるといい感じでしょ?」
「いいどころかこれは革命っスよ!」
「いやいや革命は言い過ぎだよ」
「言い過ぎじゃないっス。これは革命っス!」
ピョンピョン跳ねながらそう力説するシルカさんだ。
「でね、このゴムの木はたぶん南の方、年中暑い地域に生えてるはずだからね。樹液がネバネバする木って感じで探してもらえばおそらくそんなに難しくなく見つかると思うよ」
「わかったっス!これは中原中を最優先で探させますっス」
ゴムの木は熱帯域を探せばそれほど難しくなく見つかると思っている。ゴムさえあれば靴事情は格段に進化するはずだよ。何せほとんどの人は裸足か木靴なんだ。冒険者や裕福な人は獣の皮をなめした程度の堅い靴を履いてるけどね。だからゴム底の靴はみんな履きたいと思うよね。
「まだあるんっスか?」
「あるけどまた明日にしようか。お客さんも入ってきたし」
「そうっスか‥残念だけど仕方ないっスね」
「まだまだいっぱいアイデアとお願いがあるからね」
「やっぱアレク君と話をするのは楽しいっスよ。実現すればすぐにすごい反響になるんっスからね。やりがいがあるっス」
「あはは」
「じゃあまた明日待ってるっスよ!」
あー春休みなのになるのに。やることいっぱいだよ。
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