273 38階層 告白



 「じゃあ今日はこのままここで野営ね」

 「「「はい」」」

 「夜警はまだキムやシャンク君には負担かな?」

 「いや俺はもう大丈夫だ」

 「僕も大丈夫です」

 「マリー先輩夜警は必要ないと思います」

 「えっ?」

 「はい、たぶんこの階層ではこのまま魔獣は1体も来ないと思います」

 「そう‥‥それはアレク君が知ってる何かに理由があるのね?」

 「はい‥‥」

 「‥‥うんわかったわ。なら余計ゆっくりできるわね」

 「そうだな。それもアレクとセーラのおかげだな」

 「そうよねー」

 「僕が倒れたあともアレク君は頑張ってくれたんだよね。セーラさんは僕の足まで治してくれたし」

 「いえ違います‥‥キム先輩、マリー先輩、シャンク先輩、今回俺は迷惑しかかけてません。セーラとリズ先輩がいなかったらお、俺は‥‥」

 「「アレク君?」」

 「アレク?」

 


 言葉が満足に出てこなかった。

 歯痒さというか、自分自身の情けなさと恥ずかしさに逃げ出したくなるくらいだった。

 でもちゃんと話さなきゃ。


 「まあとにかくゆっくりするんだから今日はゆっくり何が起こったのか話を聞こうか」

 「そうだな」

 「その前に僕なんだかとてもお腹が空きました」

 「私もです!」

 「じゃあアレク君何か作ってくれる?」

 「はい。でもすいません。その前に‥‥」

 「そう‥‥わかったわ」




 結局朝までゆっくり休憩することにした。例によって堅固な男子寮を発現したけど、おそらくこの階で魔獣に襲われることはもうないと思う。


 「すいません、俺先にブーリ隊のところに行ってご飯を作ってきます。あっちでも先輩たちにもちゃんと説明しなきゃいけないし。行ってきます。フライ!」


 いたたまれなくなって逃げるように野営食堂を出発したんだ。



 「マリー、アレクは飛べるようになったのか?!」

 「ええ私も初めて見たわ」

 「えっ!?僕も初めて見た!すごいよアレク君は」

 「マリー先輩が倒れてからです。一気にいろいろと進んだのは‥‥」

 「みたいね‥‥」

 「それも含めてあとでアレク本人から話があると思います」

 「そう。でもセーラさん、最後にはみんなが笑えるんだよね?」

 「はい!」

 「じゃあいいじゃない。ねぇキム?」

 「ああそれなら問題ない」

 「いいよねシャンク君?」

 「はい僕もぜんぜん問題ありません」

 「だってセーラさん。どうやら今回はセーラさんがすごくがんばってくれたみたいだしね」

 「はい‥‥う、ううっ。うわぁーん」


 そう言ったままセーラは泣き出したそうだ。そんなセーラをマリー先輩がずっと肩を抱いて背中をさすっていたそうだ。




 ▼



 「あれ?どうしたアレク?」

 「お前!?飛べるようになったのか?」

 「ギャハハハ、オメーは相変わらず予想の数段上をいくな」

 「でどうした?」

 「メシ作りにきました」

 「おーそりゃあうれしいなぁ」

 「俺たちブーリ隊はリズ以外何もやってないからな。それでも腹は減るんだよ」

 「ははは。たしかに何もしてなくてもお腹は空くね」

 「はい。じゃあ少し待っててください」

 「それと野営陣地も一応発現しときますけど、たぶん明日の朝までこの階層では魔獣は来ないないと思います」

 「そうなのか?」

 「ん。アレクが言うならそう。何だったらオニールだけ下にいても大丈夫」

 「なんで俺だけ1人で外なんだよ!」

 「今回はオニール像がないからオニールが代わりに立つのがいいの」

 「なんだよ、それ!」

 「早く像立てろよアレク」

 「はい‥でも俺‥」

 「チッ‥‥お前‥‥なんか調子狂うよなまったく!」

 「す、すいません。ほ、ほんとにすいません。うっうっ‥‥」



 みんな何も言わずに俺がメシを作ってる間も静かに待っててくれたんだ。俺はメシを作りながら‥‥とにかく泣き続けた。




 食事は鮭のおにぎりを作った。


 「これあとで食べてください」

 「ありがとうな」

 「楽しみだぞ」

 「早く食いたいからさっさと話せアレク」

 「そうだぞ」


 みんなが気を遣ってくれるのが余計に辛い。

 そしてしばらく沈黙のあと。


 ごくんっ。


 意を決して俺は話だした。


 「俺、先輩たちに隠してたことがあるんです。俺の本当の名前はショーン・サンダーと言います。

 父上の名はアレックス・サンダー、母上の名はセーラ・サンダーと言います」

 「話の途中でごめんね。アレク君それってもしかしてヴィンサンダー領の先代の領主様だよね」


 さすがビリー先輩だ。


 「はい、ビリー先輩の仰るとおりです」

 「「マジか‥‥」」


 オニール先輩やタイガー先輩たちは目を丸くして驚いている。リズ先輩は‥‥ずっと目を瞑っている。


 「母上は俺が産まれてすぐに亡くなりました。

 そして父上は俺の養育もあってすぐに後添えに迎えたのがオリビア・サンダー。家宰のアダムが何処から連れてきた女です。後に産まれた弟はシリウス・サンダー。確証はありませんが、俺や父上にはまったく似ていません。


 「まさか家宰似か?」

 「はい‥‥。そして家宰アダムは現在ヴィンサンダー領では「お館様」と呼ばれています。家宰アダム、継母オリビア・サンダー、弟シリウス・サンダーの3人が現在のヴィンサンダー領を動かしています」

 「悪名高いヴィンサンダー領のご当主様一行だね」

 「ああ俺も聞いたことあるな、それ」

 「で、それってあれか‥‥乗っ取りか‥‥」

 「真相はわかりません。ただ父上は俺が3歳のときに毒殺され、次いで俺も毒殺されました。が、モンデール神父様が一計を案じて俺を死んだこととして救ってくれました。以来俺はデニーホッパー村の農家の息子アレクとしてディル神父様、シスターナターシャの庇護の下、現在に至ります」

 「不倒に不断、知恵のナターシャさんがアレク君の後見なんだね」

 「はい」

 「どうりでアレク、お前の太刀筋は正統の王都騎士団の流れなんだな」

 「それだけじゃないよね。魔法も含めて王国超一流の師匠たちがアレク君を教えてくれたんだね」

 「はい‥‥」

 「でもそれで父ちゃんから自分まで殺されたら割に合わねえじゃないか」

 「オニールまずは続きを聞くの」

 「ああ、すまねぇ」


 「父上を殺し俺を殺したのはおそらく家宰や義母たちです。今も神父様を始め、俺を庇護してくれる人たちがその証拠を探してくれています。

 だけど‥‥俺の彼らへの憎しみは消えません。3歳から今まで多くの人に助けられてきたことに感謝の気持ちには変わりません。どれだけ感謝しても感謝したりません。ですが‥‥俺のその憎しみの気持ちは年々強くなるばかりでした。そしてその俺の弱い気持ちが今回の闇落ちに繋がりました……。

 俺は自分の中の弱い気持ちに真っ直ぐに向き合えることができなかったんです。

 とにかく強くなれればなんでも上手くいくんだと勘違いしてたんです。だから、リズ先輩とセーラが俺を救ってくれなければ俺はそのまま闇落ちして、結果的にみんなも生命の危険に遭っていたと思います。本当に、本当にごめんなさい」

 「「「‥‥」」」

 「いいじゃねぇか。親殺されて自分も殺されかけちゃ恨まないほうがおかしいぜ」

 「オニールの言うのには一理あるな」

 「それでも!それでも俺は間違えた方向を勝手に正しいって判断してました。リズ先輩には俺は強くなっただろうって言って‥‥」

 「アレク、オメー勘違いしてないか?」

 「えっ?」

 「オメーを救いに行くってリズが言ったとき何て言ったと思う?オメーを闇落ちさせないためだけに向かったと思うか?」

 「だって俺が闇落ちしたらみんなにも迷惑かけるし‥‥」

 「リズはなぁ、何も言わずに『一生1度切りのお願いだって』言ってこの場を離れたんだぞ?リズの気持ちがわかるか?」

 「闇落ちにしてもお前が話さなきゃリズから俺たちは聞かされなかったと思うぞ」

 「‥‥」

 「アレク君、君のこれまでに出会った人たち、もちろん僕たち6年生やシャンク君も含めてね‥‥君が復讐に駆られて闇落ちしたらみんな悲しむだろうね」

 「‥‥」

 「俺も復讐が悪いとは思わないが、アレクがこのままそんな小ちゃなことで堕ちていくのはみたくないな」

 「俺もだギャハハハ」

 「つまりな俺も含めてみんなお前が好きなんだよ。だから途中何があったって信じてるし、リズみたいに仲間であっても言いたくないことや聞かれたくないことは口外はしないんだよ」

 「逆にお前でもそうだろ」

 「仲間だからな」

 「仲間だからこそだぞ」

 「俺は‥‥正々堂々と父上と俺の汚名を晴らしたいです。だから俺はまだヴィンサンダー領農民の子どもアレクとしてこれからも一生懸命に生きていきます。明日からまたお願いします!」

 「よし、明日からまた頑張るぞ。もう2度とこの話はしないからな。お前はただの変態のばかな後輩アレクだからな」

 「オニールにばかって言われたら終わりなの」

 「なんでいつもそうなるんだよ!」

 「それがオニールだからなの」

 「「「そうだそうだ!」」」

 「意味わかんねーわ」

 「ヨシ、アレク戻れ。俺たちは今からメシ食うので忙しいからな」

 「‥‥はい」

 「じゃあ明日な」

 「「「いってらっしゃい!」」」

 「‥‥行ってきます!」



 行こう。みんなが待ってるボル隊へ。




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