272 帰還




 「セーラおまたせ」

 「お帰りなさいアレク」

 「リズ先輩アレクを救ってくれてありがとうございました」

 「ん」

 「セーラ‥‥ごめん、いっぱい心配かけた‥‥」

 「本当です!」

 「ごめん‥‥」

 「セーラ休憩室ではアレクにいっぱい別腹を作らせるの」

 「はいリズ先輩!そうですよね!」




 ▼




 「アレク、右手をセーラと繋いで。左手を私と繋ぐの」

 「はい」



 リズ先輩の指示は的確だった。

 俺の魔力を供給する形でセーラとリズ先輩が回復治癒魔法を施していく。俺たちが戻ってくるまでセーラが限りある魔力を「節約」しながら上手く保たせていたせいもあって、ここからはスムーズにいった。シャンク先輩の足も元どおりにつながった。青白い顔をしていたキム先輩とマリー先輩も血の気が戻った。みんなが元気になっていくのがはっきりとわかる。よかった。本当によかった。


 「セーラありがとう!リズ先輩ありがとう!」


 俺は何度も何度もお礼を言った。

 そして俺はあらためて大切な「友だち」に謝った。


 「本当にごめんシルフィ」

 「‥‥」

 「俺が馬鹿でした。あれだけシルフィにも師匠にも言われてたのに闇落ちしてしまいました」

 「‥‥」

 「本当に後悔しています」

 「‥‥」

 「俺自分が強くなったって勘違いしてました」

 「‥‥」

 「2度としませんからどうか俺を許してください」

 「‥‥」

 「ねぇシルフィ?」

 「ばかばかばーか!アレクのばーか!」


 そう言いながらシルフィは俺の頭をポカポカと叩きだした。


 「心配したんだからね!いっぱいいっぱい心配したんだからね!」

 「はい俺がバカでした。もう2度とシルフィを裏切りません!」

 「馬鹿なアレクなんかもう知らない!」

 「‥‥ごめんなさい」

 「知らない!」

 「シルフィもう許してあげなよ」


 シンディが助け舟を出してくれる。


 「‥‥今回だけは許してあげる。今回だけだからね!」

 「はい‥‥すいません‥‥」

 「ああそれとねアレク、みんなにぜんぶを話すんだよ。お母さんのことやお父さんのことも」

 「うん、ちゃんと話すよ。俺の心に隠してた闇もぜんぶ‥‥」

 「それがいいわ」

 「うん」

 「それとねアレクは自慢していいわ。お母さんはね、あんたなんか足元にも及ばないくらいすごかったんだから」

 「シルフィ母上を知ってるの?」

 「ええ‥‥」

 「おそらく次の春にはホークと一緒にあの魔法使いの子の里に行くことになるわ」

 「そのときアレクはいろんなことを知ることになるわ」

 「うん‥‥」




 ▼




 魔力は戻っていた。たぶん母上がそうしてくれたのだろう。

 メギドは使えなくなっていた。少しホッとした。アレは使っちゃいけない力なんだと痛感したんだ。

 まだ目覚めないけどマリー先輩、キム先輩、シャンク先輩の息遣いも安定している。あきらかに容態が良くなっている。




 「アレク服を脱いで横になるの」

 「はい?」

 「セーラ」

 「はい」


 何かを告げられたセーラは疑いもなくリズ先輩に首肯している。

 何だろう。何かわかんないけど言うとおりにしよう。


 「アレク今から痛いけど我慢するの」

 「はい‥‥ わかりました」


 それからリズ先輩は俺の胸にちいさなナイフを持って魔法陣を彫ったんだ。

 魔法陣はナイフの流れに沿って俺自身の血で型取られていった。


 「痛っ‥‥」


 それはもう歯を食いしばるくらい、すごくすごく痛かったんだよ。

 そして1点鐘余りが過ぎた。


 「できたの。最後の仕上げなの。セーラ」

 「はい、リズ先輩」


 横になったままの俺の前に立ったリズ先輩が詠唱する。


「\@td#@m‥」


 リズ先輩が唱える呪文に応じて俺の胸に描かれた魔法陣が浮かび上がる。

 その魔法陣の周りを囲んでリズ先輩とセーラの血判が配された。


 これってひょっとして‥‥。


 「セーラ」

 「はいリズ先輩」



 「 この者が闇落ちするときは

  この者が闇落ちするときは

 リズ・ガーデン、セーラ・ヴィクトリアの2名が

 リズ・ガーデン、セーラ・ヴィクトリアの2名が

 その生命を以ってこの者の闇落ちを防ぐものなり。

 その生命を以ってこの者の闇落ちを防ぐものなり。

 リズ・ガーデン、セーラ・ヴィクトリア両名の生命を以って

 リズ・ガーデン、セーラ・ヴィクトリア両名の生命を以って

 此処よりの誓約とする

 此処よりの誓約とする

 

「☆%##&¥‥‥」


 パッ!


 俺の胸に描かれた魔法陣が消えて無くなった。


 「お、俺は2人になんてことを‥‥」


 セーラとリズ先輩の2人はそれがさも当然のように微笑んだんだ。


 「ん。もしアレクがまた闇落ちしそうになったら私とセーラが助けるの」

 「はいリズ先輩」


 セーラがニッコリと首肯する。


 「それでもアレクが闇落ちしたら、その前に私たち2人の生命が無くなるの。だから私たちが死んだらアレクにゾンビになって祟ってやるの。これはその契約なの」

 「はいリズ先輩。でもゾンビよりもゴーストのほうがいいかもしれません」

 「ん。アレクはまたガクガクしておしっこを漏らすの」

 「えー俺漏らしてない‥‥たぶん‥‥ちょっぴり‥‥漏らしたかも‥‥」

 「アレクは仲間。家族以上の仲間なの。だからピンチは助けるのが家族なの」

 「はい!」

 「2人とも‥‥ありがとう。ありがとうございます」



 「じゃあ私はブーリ隊に戻るの。早く戻らないとオニールがまた騒ぎだすとたいへんなの」

 「わかりました」

 「「いってらっしゃい!」」

 「ん」


 そうしてリズ先輩が戻っていった。









 「「お帰り」」

 「ただいまなの」


 「お帰りリズ」

 「おつかれさん」

 「無事終わったみたいだね」

 「さすがリズだぞギャハハハ」

 「やっぱ俺たちの女神はすごいよな」

 「「「ああ」」」

 「オニールはもっと私を崇めるの」

 「ははーリズさまー」


 ワハハハハ

 ギャハハハ

 フフフフフ


 (でもセーラ様がアレクのお母さんだとはびっくりだったの。アレクはこれから大変な人生になるの……)





 ▼




 それから2点鐘くらいして先輩たちがみんな目を覚ました。

 みんな元どおりだ。

 魔獣は1体も襲ってこなかった。

 (そんな気がしてたけどね)




 ――――――――――――――



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