244 シュナウゼン
【 シュナウゼン家side 】
(こんな夜中に‥父様と母様、いったいどうしたんだろう?)
深夜。
ふと目を覚ましたミリア。
階下にただならぬ雰囲気を感じたミリアは父母の様子をこっそりと窺い見る。
ミリア・シュナウゼン
ヴィンサンダー領領都学園の1年生。
父スミス・シュナウゼンは、領都サウザニアの騎士団団長を永く勤める武人である。
スミス・シュナウゼン
その人となりは実直そのもの。領都サウザニアの治安維持を第1に、先代領主から拝命された職務を忠実に励む男であった。
「仕方ない、仕方ないんだ……」
「そ、そんな…」
「私がいけなかったんだ。あの男の言うがままに王都に滞在したばかりに‥‥」
「でもご領主様の命には逆らえなかったんでしょう」
「それでも、それでもだ‥‥」
「だって最初はホセ様もお金はかからないって!」
「仕方あるまい。お館様からホセが代表してパーティーの主催者に毎回の金子を渡していたと聞けば‥‥」
「それだって本当なのかさえ‥‥」
「今となってはな‥‥」
眠れない深夜、階下の食堂では父母の悲痛な声が聞こえてきた。母親の啜り泣く声も聞こえる。
「なんとかならないの?」
「その算段が見つからないからな‥‥」
「どうしましょう‥‥」
「永く奉公してくれた皆にはすまないが‥‥」
この翌日から。
シュナウゼン家に永年勤めてくれていた供回りの家人が少しずついなくなった。
元来質素倹約を旨としていたシュナウゼン家。だが娘のミリアでさえも驚くくらい、爪に火をともすような暮らしぶりとなった。
親子3人の食卓。
給仕をしてくれる家人はもちろんいなくなった。
食卓に上がるものもさらに寂しくなった。
蒸した芋と干し肉とクズ野菜のスープ、カビの生え始めた硬い黒パン。
それは貧民街の領都民並のもの。
もちろん灯りさえ満足に無くなった屋敷は皮肉なことにとても広く感じられるようになった。
そんなシュナウゼン家から家族団欒の笑いが無くなったのは必然のことといえよう。
「お館様、そろそろスミスから金の無心が来る頃でしょうな」
「次の臨時人頭税は騎士団、貴族に関わらず領国に住むすべての者からだからな」
「それにつけても徴収にあのようなやり方があるとは、いまだに感心しかありません」
「そうだろう、そうだろう、ククッ」
「あのやり方はいいことづくめだからなククッ」
「最後は私が責任を持って取り立てて参りますぞ」
「宜しく頼むぞホセ」
「ははー」
あからさまに媚びへつらう男はホセ。
元商人。身辺に何かと黒い噂の絶えないこの男は、金で爵位を買ったとも噂されるヴィヨルド領の準男爵である。
その息子の名はカーマン。
ヴィンサンダー領教会学校では主人公アレクの2級先輩。
現在、ヴィヨルド領領都学園3年生のカーマン、その男である。
「特に今回の高い人頭税は騎士団を狙い撃ちにしたようなものですからな。ワハハハ」
「ふん。夏から3月かかったか。けっこう粘ったがな」
「ハハハ。奴もよう頑張りましたな。そろそろ泣きついてきますぞ。これで春からは予定通りですな」
「ホセよ。お主が名実ともに騎士爵となるのももうじきのことよの」
「ははー。それもこれもお館様のおかげでございます。このホセ、ますますの忠義をお館様に捧げますぞ」
「頼むぞ、ホセ・シュナウゼンよ」
「ははー」
ハハハハハハ
わははははは
「しかし面倒な手続きでありますなぁ」
「なに、叙爵は王家しか出来ぬからな。今回はスミスとお主の立会いの下、私から願い出ねばならぬしきたりだから仕方あるまいて」
「私スミス・シュナウゼンは娘婿のカーマン殿に爵位も家督も譲りたく願い出る次第です!」
直立不動、堅い表情の姿勢はまさしくスミス・シュナウゼンを模したもの。
「うまいなホセ。ワハハハハ」
「畏れ入り奉ります!」
「ワハハハ。いずれにせよ、焦らぬことだ」
「ははー」
「我が忠実なる家臣のホセよ。お主に我が家訓を授けようぞ」
「ははー、お館様」
「『目的を遂行するには焦らずゆっくりと取り組むべし』だからな」
「これは良きお言葉。お館様からいただいたお言葉を我が家の家訓と致しまするぞ」
わはははは
アハハハハ
先にヴィンサンダー領で発布され、領都サウザニアのあちこちに掲示されたもの。
巧みに領民の不満を躱す「企み」がある内容であった。
【 臨時人頭税 】
不足する領庫を補うべく、臨時人頭税を10月12月02月に納めるように
領都サウザニアに於いても例外はない
尚、すべての領民に公平さを求める故、公職に就く者、また騎士団員も例外はない
領都内の者は別途、家人の数に応じて‥‥
領都騎士団を束ね、団員からの人望も厚いスミス・シュナウゼンの排除と領都騎士団の権威の失墜を狙って。
領都掌握を企む現領主とホセにとってスミス・シュナウゼンの排除は確定路線であった。
――――――――――――――
「うちの父ちゃんも税金が高いって泣いてたよ!シャーリーのとこは?」
「うちも叔父さんと叔母さんが、毎晩ウンウン唸ってるわよ!」
「俺んちもだ」
「俺んとこも」
「ミリアん家もたいへんだよな?」
「父様と母様がなんとかやってくれるわよ。あっ、先生が来るわ!それよりあんたたち3バカはもっと勉強しなきゃダメよ。シャーリーや私を見習いなさいよね!」
学校では努めて明るく振る舞うミリア。
「ミリア、シャーリー、今日学校の帰りに俺たちと‥‥」
「ごめん、今日は忙しいんだ。また明日ね、ばいばーい!」
「「「・・・」」」
仲間と遊んだり、外出することもなく、1人部屋で過ごす日々が増えたミリア。
「手紙……着いたかな。アレク、今ごろどうしてるのかなぁ」
遠く西の空を見上げては、夜な夜な涙するミリアであった。
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