243 別腹協奏曲
「アレク君このタマネギーは刻むんだよね?」
「はい。あとポテトサラダ用に2個スライスして晒しておいてください」
「この芋は茹でて皮を剥いポテトサラダだね」
「はい。味付けもお願いします」
「了解ー」
食事の準備。
下拵え、調理に、シャンク先輩が手伝ってくれる。美味しい食事を作るのにシャンク先輩の力は欠かせないよ。
何せ元々俺よりも調理が上手くて、センスがいいときてるからね。
この世界の料理はとってもシンプルだ。一般庶民はほとんどの食材を茹でるか焼くかの2択。味付けもそこに塩を加えるしかない。
シンプルで素材の味がわかるなんていうのは嘘ばっかりだ。だって肉は血抜きも満足じゃないことが多いし、解体してから食べるまで時間も経っている。だいたい冷蔵庫も無いから肉の臭みがとても強いんだ。
そんなこの世界の食事情だから、俺が持ち込んだ元の世界の料理は美味しく思えるんだと思う。そこにシャンク先輩の手が加わってさらにレベルアップしてると思うよ。
もちろん俺は肉の解体・血抜きもちゃんとしてるし、すぐにクーラーボックスで冷やすから肉の素材本来の味が出てるしね。
じーーーーーっ
よだれを垂らして見てるのはオニール先輩とリズ先輩。
「オニール先輩、リズ先輩、こっち来ちゃダメですよ!つまみ食い禁止ですからね!」
「「え〜。ケチ〜!」」
「ケチじゃありません!」
じーーーーーっ
なぜか睨んでくるのはセーラ……。
「セーラはこっちに来んなよ!理由は‥‥まぁアレだ、うん」
「フッ」
あー!シャンク先輩が大人がよくやる笑いをセーラにしたぞ!
「チ、チクショー」
セーラが恨みがましくシャンク先輩を睨んでいたよ。
でもセーラ‥‥なんかめっちゃ変わったよな。飾らなくて自然でいいんじゃないかな、はは。
▼
「お待たせしました。今日の夜ごはんです」
「「「よっ、待ってました!」」」
パチパチパチパチパチパチ
「「早く食いたい(の)!」」
特にオニール先輩とリズ先輩の食いつき具合がすごいな…。
◯30階層休憩室夜ごはんメニュー
サンドワームやオーク、魚などいろいろ肉のから揚げとフライ
骨付きオーク肉のグリル
オーク肉のツクネ(ハンバーグ)
スープ
タマネギーの酢漬け
ポテトサラダ
パン
シャンク先輩が美味しそうに盛り付けてくれる。
料理の盛り付けはセンスなんだよね。基本は手前を低く奥を高く、高低をつけると美味しく見えるんだ。あとは彩りだね。
入院生活の長かった俺の楽しみは、2次元世界だけだった。
リアルな生活の楽しみはたまにある行事食。彩りのいい食事は数少ない楽しみだった。といっても味の薄い病院食だったけどね。
閉鎖環境にあるダンジョンでは、せめて食事くらいは美味しいものを食べてもらいたいんだ。何を作っても美味しいってみんなは嬉しいことを言ってくれるんだけどね。
今日はアメリカンドックを作ったから、そのまま油を使った料理がメイン。
揚げものの油は劣化しやすい。だから何度も使い回さずにすぐに使い切りたいんだ。
特に肉や魚を揚げた油は匂い移りがてきめんだからね。
今日使った油は明日以降の野営照明になるよ。残りは新作の武器用にするんだ。
基本的に、魔獣の肉は肉本来の旨味が濃いんだよね。だからから揚げも美味しいよ。
小麦粉と片栗粉をブレンドしたカリカリ衣の、熱々で美味しいから揚げだよ。
挽いたパン粉を付けて揚げたフライも。
今回は少しアレンジしてある。
森で採れた木の実を使い、衣にアーモンドスライスや砕いた胡桃をまぶして揚げたんだ。
特に魚がこの調理法に合うと思う。これも絶対美味いよ。
オーク肉の骨付きグリルや粗挽き肉で作ったツクネ(ハンバーグ)は毎回人気の定番メシ。
オークは上質な牛赤身肉に近いからグリルしただけでも美味しいんだよね。
ツクネはもはやど定番メシ。それでも食べ飽きずにみんな喜んで食べてくれるよ。
骨からダシをひいたスープも定番の美味しさ。3日あるから、明日以降は風魔法で顆粒ブイヨンも作らなきゃな。
休憩室全体に美味しい肉の匂いが漂う。
作ってる俺のお腹もぐーぐー鳴ってるよ。
「さあ召しあがれ」
「「「アレクお母さん、いただきます!」」」
だーかーらーお母さんじゃないって!
「旨い!やっぱオーク肉はうめーよな」
「うめえなギャハハ」
みんな骨付きオーク肉をバクバクやっている。
手づかみでかぶりつくオーク肉のグリル。
オリジナル香草塩がオーク肉本来の旨さを引き立ててるよ。
外は焦げめがあるんだけど、ガブっとやると中から肉汁じゅわわなんだ。やっぱオーク肉は旨いよなあ。
「ツクネは安定の美味しさだね。僕は今日のデミグラスソース?この味も好きだなぁ」
ビリー先輩も気に入ってくれたツクネ(ハンバーグ)のデミグラスソース。
ツクネ(ハンバーグ)は定番の美味しさなんだ。今日はいつもよりさらに粗挽きで歯応えも楽しめるようにした。赤身のオーク挽肉のツクネは熱々で、肉汁が中から溢れてくるよ。
今日は下ろしたタマネギとオーク肉のダシからとったデミグラスソース仕様。
肉もソースもオーク肉由来だから一体感のある美味しさだね。
「から揚げも美味しいよ。から揚げは味がお肉によっても違うのね」
セーラも気に入ってくれたから揚げ。魔獣肉によって微妙に味も歯応えも違うところがおもしろいよね。
「フライは木の実の食感も楽しいわ。でも木の実好きのエルフでさえ、こんな料理法は知らないわよ」
「魚のフライはこんなふうに旨くなるんだな。海の魚ならもっと旨いだろうな」
スライスアーモンドをまぶした魚フライ。
マリー先輩もキム先輩も気に入ってくれた。木の実はスライスして衣にすると、食感もいいんだよね。
「タイガー先輩、パンにタマネギーの酢漬けを敷いてツクネを挟んでも美味しいですよ」
シャンク先輩がパンにデミグラスソース味のツクネをサンドしたものをタイガー先輩に作っている。ハンバーグサンドだ。
うんうん、俺も好きだなハンバーグサンドは。
「モグモグ。シャンク、これはすごく旨いぞ!たまらんぞ!」
「タイガーそんなに旨いのか?」
「ああゲージ、めちゃくちゃ旨いぞ!」
「シャンク、そんな旨いもんならオイにも作ってくれよ」
「はい、ゲージ先輩」
「シャンク、俺にも作ってくれよ」
「私も食べたいの」
「はい、ちょっと待っててくださいね」
わいわいがやがや
ぱくぱくモグモグ
みんなが揃っての夜ごはん。毎回楽しい時間だよな。
▼
「あ〜腹いっぱいだよ」
「美味しかったなぁ」
「30階層でこんなにもご馳走が食べられるなんて思いもよらなかったの」
「そういや去年‥‥いや‥‥やめよう」
チラチラとリズ先輩を見ながらオニール先輩が口籠った。
「オニール、いい判断だ」
キム先輩は明後日の方向を見ながら言った。
俺もキム先輩が言った言葉の意味がなんとなくわかってきた。
「キムの言うとおりだね」
「ふふ。そうね」
オニール先輩、マリー先輩も明後日の方向を見ながら和かに頷いていた。
でも・・・
「フッ」
リズ先輩をしっかり見ながらセーラが鼻で笑った。
「グラビティ!」
「フライ!」
即座にセーラに向けて重力魔法を発現するリズ先輩に、自らそれを回避するセーラ。
「フーッ!」
「シャーッ!」
「やめろ!お前ら。そういうのを『同じ穴のヨルムンガー』って言う――」
「グラビティ!」
「うわぁぁぁ〜〜〜やめろおぉぉぉぉ〜〜〜」
「リズ先輩ナイスです!」
お互い握手するリズ先輩とセーラがいた。
奈落の底まで落ちていったオニール先輩がいた……。
▼
「「今日の別腹は何なの?」」
うん、リズ先輩とセーラがハモる。
なんか恐いよ。
「今日は25階層でも食べたジェラートなんですが、味が違うものを2つ用意しました。前と同じでコーンも食べてもらってもいいですからね」
「「「お母さんはーい」」」
「今日、明日、明後日と3回分の別腹ですから、お代わりは1人2回までですからね!いいですね!」
「「「アレクのケチー!」」」
食べる前からケチと言うなよ……。
しかもなんでケチなんだよ!作ったら作っただけぜんぶ食べちゃうじゃないか!前回は俺も食べたかったんだよ!ほんとにもう!
今日の別腹(デザート)は25階層でも食べたミルクジェラートの別バージョン。
まずはミルクジェラートに、26階層で採集した胡桃やアーモンド、カシューナッツなどの木の実を入れたもの。
ジェラートは木の実を入れたら、コクも出て味も濃厚になるよね。カリカリっとした食感も楽しいし、何よりジェラートがさらに美味しくなるんだ。
もうひとつは栗。これもたくさん採れたから、ジェラートに蒸した栗をペーストにして練りこんだ。
茨城県や岐阜県で食べられる栗スイーツもめちゃくちゃ美味しいけど、ダンジョン栗も負けないくらいに濃厚な美味しさだよ。
マロンジェラートだけど、まるで栗そのものを食べてるような美味しさなんだ。
「「「旨ーーーい!」」」
そんなジェラートの2種盛は大好評だった。
「うまっ!」
「美味しいのっ!」
「ちょっ、何これ?」
「か〜うんめ〜!」
特にセーラ、リズ先輩、マリー先輩女子3人プラスオニール先輩の食いつきがすごかったよ。
――――――――――――――
さて、楽しい食事も終わった。
マリー先輩とタイガー先輩は全体の打合せ。
その後にマリー先輩とキム先輩のボル隊チームの打合せ。
戦闘靴や武器装具の手入れなどみんな思い思いのことをしている。
俺もさっきの続き、弓の補充から始めようかな。
対魔獣(魔物)別の弓矢。
アンデット用の聖水仕様の他に、火魔法の効果を持つ矢を作るんだ。
アラクネなど昆虫型の魔物には火魔法が効くからね。それに準じた矢なんだ。
鏑矢みたいに矢尻に大きな袋をつけて、中に油を詰める。魔物に命中すると中の油が破裂するんだ。その後の2射目で火矢を放てば対象の魔物を火だるまにできる。
「これはなかなかおもしろいね」
「はい。ビリー先輩、30本くらい作れると思いますからね」
「うん、じゃあ頼むね」
「はい!」
――――――――――――――
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