189 6階層
翌朝。
朝ごはんは簡単に済ませた。
パンとスープ。昨日の残りのツクネ(ハンバーグ)の粉芋添えだ。
「パンが柔らかくて美味しいの」
「気に入ってもらえてよかったです」
堅いパンが定番なんだけど、加水率を上げて発酵の時間を一晩とってあるから柔らかいパンも焼けるんだ。これにスープも粉芋を応用したポタージュスープ。
やってることは手抜きなんだけどね。
「飴を作ったんです。みなさん持ってってください」
冒険者にとって石を舐めることはわりとポピュラーなんだけど、飴ちゃんはないんだよな。メイプルシロップでこれも作れるから、持ってきたんだ。
ダンジョン探索中、昼間の糖分補給にもいいよね。
1個口にしたとたん、リズ先輩がめちゃくちゃ食いついてた。
「リズ先輩、飴は1回に1個ですよ!いっぺんに口に入れないでくださいね」
ほっぺたが膨らんでまるでリスだよ!
ガリガリガリッ!
「ゲージ先輩、飴は噛むもんじゃないです」
ガリガリやってんじゃねぇよ!
ガリガリガリッ!
「セーラも飴は噛んじゃだめだよ」
お前もかよ!
なんかお母さんになった気分だよ。
口いっぱいに頬張ったり、ガリガリ噛んだり。
みんな子どもかよ!
でもまあ、楽しいからいいかな。
「ビリー先輩これ、持っててください」
「これは?」
「ホーンシープの胆嚢から作った丸薬です。1粒でポイズン系(毒)や腹痛に効きます。
あとこっちの液体は、リズ先輩のヒールが使えないときやすぐにポイズンの効果がほしいときに。
1袋飲むと毒消しと1回分のヒールの代わりになります」
ホーンシープ(一角山羊)の胆嚢から作った丸薬と、途中で見つけた薬草をMIXして作ったパウチ(スライム袋の応用)のエナジードリンク。
これも今後必要になるかもしれないから。
「アレク君ありがとう。君は薬師もできるんだね」
「田舎の村だから何でもできるんですよ」
事実、医者や薬師がいない村だったから、民間医療的なことは自然とできるようになってたもんな。
丸薬作りも教わったニャンタおじさんに感謝だよ。
「もしリズが食事を作ったらこの丸薬が必要になるね」
ひそひそ声でビリー先輩が笑って言った。
「セーラもです」
俺もひそひそと笑いながら答えた。
「えーセーラもそうなのか!」
何気に聞いてたオニール先輩が言った。
「オニール先輩しーっ!」
「あっ、そうだよなぁ」
ワハハハ
あははは
わははは
3人大爆笑だった。
が・・・
! サッ!
! サッ!
突然、サッと避けるビリー先輩とオニール先輩。
えっ?何?
ズンッ!
え〜〜っ!
なぜか俺だけ足が地中にめり込むのだった…。
これで歩けるゲージ先輩を尊敬するよ…。
「「「いってらっしゃい!」」」
「「「いってきます!」」」
ブーリ隊が出発してから凡そ1時間後。俺たちも出発だ。
キム先輩から次の探索魔法についてのアドバイスがあった。
「アレク、今日は1日魔力を広げながら索敵をしろ。昨日の話のとおりだ」
「わかりました、キム先輩」
うんうんと頷くキム先輩。
「じゃあ行ってくる。あとでな」
「「「はい、いってらっしゃい」」」
トーンっ トーンっといつものように気配もなく走り去るキム先輩。
「セーラ、俺、昨日のフライも少しずつ練習するよ」
「はい。アレクならそのうちできると思います」
セーラからは聖魔法を学ぶことにした。
まずはフライ(浮揚)だ。
セーラが言うには、聖魔法は女神様の聖なるエネルギーを戴くことらしい。
でも聖なるエネルギーって何なんだろう。やっぱり女神様の力を借りることなんだろうか。
俺は精霊魔法に近いものかとも思うんだ。
まだまだぜんぜんわかんないけどね。
ただ物理的な攻撃が効くゾンビは別として、物理的な攻撃が効かないアンデットやゴーストや悪魔。
そんな奴らに効くのは聖魔法や浄化魔法、光魔法だけだからな。
何かのヒントがもう少しほしいところだよな。
▼
「あちぃー」
6階層にやって来た。
6階はこれまでと打って変わって密林、ジャングルだった。
しかも湿度も高く、温度も高い。
歩き始めてしばらくしたら、汗ダラダラだ。
道も無い密林かと思いきや、確かに道の跡らしきものは先へ先へと続いている。
ここもまた、この道を辿れば次の階層へと進めるだろう。
キキキッ‥キキキッ‥キキキッ‥キキキッ
ザワザワ‥ザワザワ‥ザワザワ‥ザワザワ
密林の中はさまざまな音、生気に溢れていた。
風の音、木々のざわめき、虫の羽音、鳥の鳴き声、何かの生き物の鳴き声等々。
これまでのように、外からの音を拾い集めるようなスタイルの索敵では、対応できない。
キム先輩の指示とおり、魔力を拡げる意識での索敵が有効だ。
静かな湖面に石を投げるイメージ。
或いはレーダーで敵機を捕捉するイメージ。
そんなイメージで、魔力を拡げて索敵しなきゃな。
ブーン ブーン ブーン ブーン ブーンブーン…
前方より微かな羽音が聞こえる。
「アレク、来るわよ!」
俺に憑く風の精霊シルフィが教えてくれる。
「わかったシルフィ」
うーん。
ホントはあんまりわかんない。
ハッキリ聞こえてくる音の前に索敵しなきゃいけないんだけど。
まだまだわからないなぁ。
今はまだ目視できるくらいになって初めて認識できるレベルだ。
ハッキリ言ってシルフィ頼り。
索敵能力としてはまだまだだ。
ブーンブーンブーン ブーン ブーン‥
デカっ!
猫くらいあるサイズの蜂が飛んできた。
黒黄ツートンの虎カラーの蜂。
昆虫の魔獣だ。
◯ 魔獣 キラービー
蜜蜂がそのまま大きくなったもの。30〜50㎝ほど。攻撃性は高くないが巣に近づく者には尻にある鋭利な毒針で攻撃してくる。
麻痺性のある毒を持つ。また一度に何度も刺されると生命にも関わる。
ブーン カチカチカチ‥
ブーン カチカチカチ‥
蜂は10匹ほど。
カチカチと牙のような歯を鳴らしながら空中の四方八方から襲ってくる。
ブーン カチカチカチ‥
近寄る蜂の羽根を斬れば問題はない。飛んでる空から落としてしまえば敵にもならない。
だから刀の迎撃は十分に可能だ。
ブーン ブーン
シュッ!
ザクッ!
ブーン ブーン
シュッ!
ザクッ!
ブーン ブーン
シュッ!
ザクッ!
羽根音を頼りに、近寄る蜂を刀で斬っていく。撃墜した蜂はそのまま刺突を加えて。
魔石も価値がないため、急所の1突きだ。
「ファイアボール!」
ゴゴォォォーー!
後方では、近寄る蜂にマリー先輩が火魔法で個別に撃破をしていた。
昆虫系の魔獣は火魔法には滅法弱い。
問題なく殲滅したキラービーの群れ。
あっ、そうか!
ひょっとしてコイツらの針は使えるかもしれない。
「ちょっと待っててください」
ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ
「アレク何してるの?」
「ああ、ちょっとコイツらの毒針をね…」
キラービーの尻の針を刈りとった俺はそれをすべて袋に詰めた。
と、前方に小屋くらい大きな蜂の巣も見つかった。
おー蜂の巣発見だ!
めちゃくちゃデカい100㎏超えの蜂の巣だよ。
蜜蝋。これも使えるな。
もちろん蜂蜜も採集しなきゃ。
「シャンク先輩は近寄ったらダメですよ」
こんなところで蜂蜜酔いしたらたいへんだもん。
「うん、わかった」
シャンク先輩が頭を掻きながらこう言った。
「セーラ手伝って」
「はいアレク」
セーラと2人で蜂の巣と蜂蜜を採集する。
「甘いねアレク」
「ああ甘いよな」
フフフ
あはは
バケツいっぱい採れる蜂蜜に危険なダンジョンにいるのをちょっぴり忘れてしまったよ。
メイプルシロップとは似ているけど、やっぱり違う甘さだ。
シャンク先輩の分の料理はメイプルシロップで作ろう。
でも蜂蜜酔いしたシャンク先輩は‥‥恐くて見たくないなあ。
ハンスとシナモンが蜂蜜酔いしたトールを語るときの恐怖に震える顔が忘れられないもん。ハンスでさえブルってるんだもんな。
蜂蜜は密閉式の壺を発現して入れた。
間違ってシャンク先輩が食べないようにね。
「アレク君そろそろ行くよー」
「すいませんマリー先輩。おまたせしました」
その後も蜂の魔獣は積極的に倒して、毒針を採取していった。
▼
立ったまま、すこし休憩をとる。
普段は食事を摂らないけど、今は栄養補給も大事なんだ。
朝、焼いたパンで作ったサンドイッチ。棒状のパンにスライスした魔獣肉と酢漬けタマネギーを挟んだバゲットサンド。
キム先輩にも渡してあるよ。
密林には湿地帯もあった。
密林の湿地帯だから、アイツらがいるよな、ぜったい‥‥。
ゲコゲコ…ゲコゲコ…ゲコゲコ…ゲコゲコ…ゲコゲコ…ゲコゲコ…
あ〜いたよ、いたよ、アイツらが居たよ。
大嫌いなアイツらだ…。
◯魔獣 カエル
全長5、60㎝ほどのカエルの魔獣。
身体中の粘膜からは堪らない異臭を放ち、身体に付着した粘液は数日は取れない。
食用可。足の魔獣肉は淡白ながら美味である。
「あのねシンディ、前にアレクがねー」
「なになに、アレクがどーしたの?」
「あーあーシルフィやめて、やめてー!お願いだから言わないでくれ!」
俺の願いも無視してシルフィがシンディに話した。
「アレクねー、ホークと修行でカエルの巣に放り込まれてねー」
「うんうん、それでー?」
「身体中ベタベタでカエル臭かったのよー!臭くて私、何日も近寄らなかったの。匂いが何日もとれなくてねー、アレクはうわーんって泣きまくってたのよー!」
泣きまくってねーよ。
盛りやがったな、シルフィめ!
半泣きにはなったけど。
ぷっ、あははははー
くっ、ククククッ
腹を抱えて大爆笑するシンディと必死に笑いを堪えるマリー先輩だ。
「なに?」
「どうしたの?」
「何でもないよ」
精霊の見えないシャンク先輩とセーラには意味のわからない会話だ。
「やめろよシルフィ、もうやめてくれよシルフィさん、やめてください‥」
ゲコゲコ…ゲコゲコ…ゲコゲコ…ゲコゲコ…ゲコゲコ ゲコゲコ ゲコゲコ…
「アレク来たわよ!アレクの友だちのカエルちゃんたちが」
「友だちじゃねーよ!」
ゲコゲコ…ゲコゲコ…ゲコゲコ…ゲコゲコ…ゲコゲコ…ゲコゲコ…ゲコゲコ
ピョンピョン ピョンピョン ピョンピョン ピョンピョン…
みるみるうちに大量の魔獣カエルが迫ってきた。
「くそー、お前らなんか友だちじゃねー!エアカッター!エアカッター!エアカッター!エアカッター!エアカッター!エアカッター!エアカッター!エアカッター!エアカッター!エアカッター!エアカッター!はーはーはーはーはーはー…」
全方位、半径50mにいる魔獣カエルを全力で駆逐してやった。
「ア、アレクどうしたの?なんか怒ってない?」
「セーラ、俺とセーラは友だちだよね?俺とカエルとどっちが好き?」
「えっ?何その選択肢?」
「ぷっ、アハハハハ」
「ギャハハハハ」
「お腹痛い、お腹痛い、笑わせないでよアレク、アハハハハ」
ついにはマリー先輩、シルフィ、シンディの3人が腹を抱えて大爆笑となった‥。
「くそー、お前らは後で食ってやる!」
臭いがつかないように手袋をして、カエルの足を剥いだ。
カエルの足肉は、鶏肉にそっくりというか、鶏肉以上に美味しい肉なんだ。
2度3度と魔獣カエルを倒しながら先へ進む。
回廊が目の前に見えてきた。
6階層も終わりのようだ。
そこにはキム先輩が待っていた。
今日はここで野営となる。
階層間の回廊の出入口は魔獣もほとんど出ないが、歩哨(見張り)は要る。
キム先輩、俺、シャンク先輩、マリー先輩の4人が順番に見張る。
2時間の時を刻む砂時計を作ったからね。
ズズズズズーーーーーーッ
土魔法でかまくらを作る。
歩哨以外の人はここで休む。
ジューーージューーー
魔獣肉のステーキ。こんがり色めも美味しいできたよ。
今日の夜ごはんも採りたての魔獣肉だ。
今日はさらにアイツらを美味しく食べるんだ。
アイツら、そう魔獣カエルだ。
「今日の夜ごはんは、けっこう自信作なんです!」
「へー。アレク君が作ってくれるのって何食べても美味しい気がするんだけど、今日は自信作なんだね」
「はい、マリー先輩。これはぜったいにうまいですから!」
そう、みんな大好きなものといえば、ハンバーグ、カレー、から揚げのご三家。
カエルの足を揚げたから揚げは鶏肉そっくりで尚且つ鶏肉より美味しい。
から揚げサイコー!
「いっきに噛むと熱いですからね、気をつけてください」
「美味しーい」
「ああ、これはうまいな」
「僕こんなの初めて食べるよ」
「私も初めて。とっても美味しいです」
デニーホッパー村ではわりとポピュラーになってきたけど、王国全体でみれば、揚げものはまだまだ「贅沢料理」だ。油自体が高価だからね。
明日の階層主が予想通りなら、たくさん油も採れるはずだ。だから憎いカエルもいっぱい狩ったんだ。
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