188 5階層休憩室


 よーし、美味し楽しのダンジョンパーティーだぜー!



「シャンク先輩これ手伝ってくれますか?」


「うん、こうでいい?」


「はい。さすがシャンク先輩です!」


「次はこれもお願いします」


「アレク、こうかなあ?」


「はい、これもばっちりです!」


 夜ご飯の準備。シャンク先輩には魔獣肉のミンチ作りや、串焼きの肉を串に刺すことなどをお願いしたのだが、さすがのシャンク先輩だ。見かけによらずといっては失礼なんだけど、料理の下ごしらえから細かく丁寧な仕事ぶりだった。俺いなくてもぜんぜん大丈夫だよ。

 出来上がった料理の盛りつけも、さすがだった。

 どう盛れば美味しそうに見えるのかの見栄えまでも自然にできるから大したものだ。





 それに引き換え――




「アレク、こうでいい?」


「い、いや‥‥‥」


「アレク、塩少々ってこれくらい?」


「い、いや‥‥‥」


「アレク、これ‥」


「セーラ、今日は俺のやることを見ててくれたらいいよ。説明しながらやるからな‥‥」


「そ、そう‥‥」



 うん、びっくりした。

 本当にびっくりした。

 『料理禁止』って言う言葉の意味がよくわかったよ。

 だってね、肉を一口大に切ってって言ったら、肉に包丁を縦に突き刺さすんだよ?

 ハンバーグ焼くの見ててって言ったら、片面は生焼けで片面は焦げを超えて炭化してるんだよ!

 極め付けは塩少々ふっといってお願いしたら、塩を掴んで握り拳いっぱいふりかけるんだよ。グーだよ、グー!

 うん、セーラは見た目可愛いんだけど真逆。暴力的なまでの料理のセンスだ‥。

 シャンク先輩とは違う意味で、見た目とは違うセーラの暴力的なお料理のほんのさわりだけ知った俺は心底驚いた。

 うん、これは教会でも料理は禁止になるだろうな‥‥。

 マリー先輩とキム先輩に至っては、2人でヒソヒソと密談を始めてからしばらくしてこう言ったんだ。


「セーラさん、こっちで見てよっか」


「はい‥‥」


 あー強制退場になったよ‥‥。


「セーラさん、ハッキリ言ってタイガーやゲージのほうがまだマシだわ。でも安心していいわよ。あなた、まだリズよりはマシよ!」


「あゝセーラ、安心しろ。リズはお前よりもっと凄いぞ‥」


 なにそれ!

 マシってどんなレベルなんだよ!

 凄いってどういう意味なんだよ!


 キム先輩なんかずーっと笑いを堪えてるし。

 最初恥ずかしそうに赤面してたセーラもセーラで、リズ先輩よりマシとか聞いたら、ホッとしてたもんな。

 大丈夫かよ!?


 うん、この学園ダンジョン中は俺、絶対怪我しないようにしよう。

 食事はダンジョン活動の生命線って言うから。

 セーラが近寄ったら違う意味で危ないな‥。




「セーラ、また今度教えるからな、また今度な‥」


「はい、アレク。楽しみにしてますね‥‥」


 なんか大人の言うような曖昧な挨拶を覚えた俺たちだった。





 さてさて、シャンク先輩が下ごしらえの準備を手伝ってくれたから、あとは早い。

 あっという間にパーティーの準備ができた。





 待ってる間に、ホーンシープ(一角山羊)の胆嚢と途中で見つけた薬草からパウチのエナジードリンクを作った。

 ポイズン系の魔獣対策を中心に作ったんだ。

 パウチは何かって?

 もちろんスライム袋だよ。

 これ、毒消しや腹痛からちょっとした回復薬としても、案外なんにでも効くんだ。



 ――――――――――――

 



 ギーーーーー


 休憩部屋の扉が開いた。

 ブーリ隊のみんなが入ってきた。


「「お帰りー!」」


 マリー先輩とキム先輩が言う。

 へー、休憩部屋のあいさつはこうなんだ。メモメモ。


「「「お帰りなさい!」」」


 シャンク先輩、セーラ、俺もそう言ったよ。


「「「ただいま」」」


 うん、みんな怪我もしてないみたいだ。よかった、よかった。



「ずいぶん早かったじゃない」


 極めて自然にそう言うマリー先輩。

(俺なんかみんなが無事で、なんかホッとしてるんだけどね)


「あゝ、リズが早く行け行けと煩くてな。ククク」


 ニヤリとタイガー先輩が応えた。


「そうなの。もっと早く来れたのにゲージがモタモタしてるから遅くなったの」


 なんか頬を膨らませているリズ先輩。

 てかリズ先輩、ゲージ先輩におぶさってない?どこか怪我したの?


「すまんなリズ。オイの足が遅くて。ギャハハ」


「ハハハ、リズにはゲージも勝てないなあ」


「いやゲージ、お前十分速かったぞ。俺なら一歩も動けないわ」


 ゲージ先輩、オニール先輩、ビリー先輩も笑っている。


「「「ワハハハ」」」


 ブーリ隊の先輩たちみんなが大笑いしている。

 ?

 なんかわかんないけど、ムードはとっても良いみたいだな。




「先輩たちお茶どうぞ」


 お茶とお茶請けのクッキーを用意する。


「アレク、待ってたの!」


 シュタッ。


 目を輝かせたリズ先輩が、とび箱から着地するように、ゲージ先輩の背からシュタッっと着地をした。


「リズ先輩、足どっか怪我したんですか?」


 やっぱちょっぴり心配だから、聞いてみたよ。

 リズ先輩、元気そうだけど、ゲージ先輩におぶさってたからな。



「ううん。なんでもないの‥」


 頬を赤らめて下を向くリズ先輩。

 マジ?

 顔赤いよ!

 えー?!

 リズ先輩、俺に会いたかったの?

 顔赤いよ!

 人生初のモテ期到来か、俺?!


「ああアレク君、心配しなくていいよ。強いて言えば、リズは寝不足ってとこかな。はは」


「ビリーもうるさいの!」


 赤い顔で頬を膨らませているリズ先輩。


「「「ワハハハハ」」」


 またまたみんなが大笑いしている。マリー先輩もキム先輩もだ。

 んー?わからん。




 ▼




 ぽりぽり、ぽりぽり、ぽりぽり‥‥


 クッキーを夢中になって食べているリズ先輩。

 あーリアル仔リスだよ、この人‥。


「アレク、このお菓子、とっても甘くておいしいの。こんなの初めて食べるの!

 これを食べるのが私の運命だったの。だから早くアレクに会えてよかったの」


「あはは。よかったです‥」


 あーやっぱり俺じゃなくて、俺が作るお菓子だったわけなのね、リズ先輩が会いたったのは‥。



「アレク、メシにしてくれよ。俺も楽しみだったんだよ」


「俺もだ」


 オニール先輩、タイガー先輩も言った。


「オイもだ。これじゃあ食った気がしねえぞギャハハ」


 ゲージ先輩の手のひらのクッキー。錠剤くらいに小さく見えた‥。






「打合せは食べてからね。アレク君、お願いね」


「はい」



 さあ食事タイム。

 ダンジョンパーティーの始まりだ!


 今回はメインの肉料理はおかわりたっぷりに用意した。手持ちの食糧は使わずに、途中で狩った魔獣肉を使った料理だからね。だから、量だけはたっぷりある。

 ただお皿は1枚だけだよ。荷物は減らしたいから。


「おまたせしました」


「「「待ってましたー!パチパチパチ」」」


 みんなから拍手が沸き上がる。俺もお腹がぺこぺこだよ!



 ワンプレートのごはん。

 リンゴーのスライスと粉芋をマヨネーズで和えたもののメイプルシロップがけ。

 ポテサラにメイプルシロップをかけたものに近いんだけどね、これけっこうおいしいんだよね。


 日持ちのよい野菜のタマネギーはいろいろ使える。今日は肉尽くしの料理だから、タマネギーのマリネを作った。これも酢に合わせるメイプルシロップの甘みが甘酸っぱさになるんだよね。さっぱりのタマネギーマリネがますます肉をおいしくしてくれるんだよね。




 一角うさぎとチューラットはハンバーグにしたよ。ハンバーグって言うのは俺だけで、ツクネの名前はもう誰もが知ってるんだけどね。

 それでも大人気の肉料理なんだよな。

 アルマジローは串焼きにした。

 これもそのままだったら硬すぎるんだけど、メイプルシロップとお酒に漬けて柔らかくした。

 適度な堅さは串焼きに美味しいはずだ。


 今日のメインは、骨付きホーンシープ(一角山羊)だ。

 スペアリブをニンニク、メイプルシロップ、酒、生姜に漬けたのをグリルしたよ。

 ガッツリボリュームのあるメニューだ。

 サイドには皮付きの芋とタマネギーもローストしてある。

 手や口をベタベタにしてかぶりついて食べてほしい。



 メイプルシロップを見つけてからいろんな料理やお菓子作りができるようになった。

 料理のレパートリーを拡げるメイプルシロップさまさまだよ。


 ワンプレートにハンバーグ(ツクネ)、串焼き、骨付き肉のグリル。お代わりはたっぷりあるからね。



「「「いただきます」」」


「美味い!」

「おいしー!」

「うめー!」

「うまーい!」

「うめーな!」



「アレク、オメー食堂やったらどうだ」


「いや、俺冒険者になりたいんで」


「そうだよな。ガハハ」


「アレク君、これ王都の貴族街でもまったく遜色ない料理だよ」


 ビリー先輩も褒めてくれる。


「ああ、食は王国より進んでる海洋国でも、お前に負けるぞ」


 キム先輩もだ。


「うん、食事にこだわりのあるエルフの里よりも美味しいわ」


 マリー先輩も。


「いや、俺デニーホッパー村の農民ですから」


 とにかくみんなから大絶賛だ。

 みんな喜んでくれてよかった。


「ありがとうアレク。とっても美味しかったの」


「ははリズ先輩。じゃあ別腹はないですか?」


「別腹?」


 あっ、この世界では言わないんだ。


「あ、あの女子はお腹がいっぱいになっても甘いものは食べたくなるっていうか……」


「アレク、俺も甘いのは好きだぞ」


「オイも食べたいぞ」


「はーい」


 タイガー先輩もシャンク先輩も甘党なんだ。

 てか、砂糖がほぼない世界だから、甘味の欲求は誰もがあるんだろうなあ。


「アレク僕も食べたい」


「私も食べたいです」


「すぐできますよー」


 シャンク先輩もセーラも食べたいよね。


「みなさん、すぐできますからねー」



 すぐにできるよ。

 だって水を注いで袋をモミモミして焼くだけだもん。

 そう、パンケーキだよ。


「あーパンケーキ!」


 マリー先輩が叫んだ。


「リズ、これ甘くて美味しいからびっくりするよ」


「マリー、わかるの。匂いが私を呼んでるの」


 じーーーーーっ


 俺がパンケーキを焼く横でかぶりつきで見ているリズ先輩。


 パンケーキの2枚重ね。上からメイプルシロップもたっぷりと。横にはリンゴーとブードも添えたよ。特にブードはこれで食べ切らないと傷むからね。


「食後のデザート、パンケーキです」


「「おいし〜いっ!」」


 リズ先輩とセーラがハモった。


「「うま〜い!」」


 タイガー先輩とゲージ先輩もハモった…。



 この「パンケーキの素」はビリー先輩に渡しておいた。明日からは野営もしていくことになるからね。

 ビリー先輩は生活魔法の水が出せるから、アレク袋の粉芋とあわせて、ブーリ隊の野営の食事に使ってもらうよ。



 夜ごはん。余るかもとたくさん作ってたんだけど、ほぼ食べ切ったから、本当に美味しかったのかな。パンケーキを含めて先輩たちみんなが喜んでくれて俺も嬉しいよ!




 ▼




 食後に打合せ。


「明日はブーリ隊が先行ね。6階層からはいよいよダンジョンらしくなるわよ。

 予定通り、各階層を1日のペースで。待ち合わせは10階層主の前の扉で5日めね」



 5階層までは一気に進んでこれたけど、6階層からはそうはいかないという。

 明日の6階層からは野営をしつつ、各階層を1日の予定で進んでいく。

 途中でボル隊ブーリ隊が前後してもいい。

 なんなら俺たちボル隊が先行しても。

 どちらかが前後しても10階層主の扉前で待ってたらいい。

 ちなみに階層主の扉前は基本的にあまり魔獣は近寄らないらしい。もちろんセーフティエリア(休憩部屋)のように絶対ではないらしいが。

 決め事は、どちらかの隊が魔獣と交戦中でも手助けをしないこと。

 ここで手助けをすれば、以降はダンジョンから10人1組のパーティーと認定され格段に難しくなるから。

 審査員でもいるのかなぁ。

 でもどこで見てるのかなぁ。誰が見てるのかなぁ。


 ワクワク感でなかなか眠れなかったよ。

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