183 1階層
(地下)1階層に入った早々。
擬態するブッシュウルフや単独でなく何体か徒党を組んで襲い来るゴブリン。最初の一角うさぎやチューラット、アルマジローも個々がだんだん強い魔獣になってきた。
そんな新たに出現した魔獣に、新パターンで攻撃してくる魔獣。これがダンジョンの洗礼なんだろうな。
低層階のうちに慣れろってことだよな。
シュッ!
突然。
後方から姿を隠したまま矢を射るゴブリンアーチャー。
先を行く俺に隠れて。じっと待機していたのだ。
セーラが横を通過するのを待って、その目と鼻の先、僅か3メル(3m)まで接近されたのだ。
至近距離の矢がセーラめがけて放たれた。
シュッ!
カァンッ!
セーラが発現していた魔法障壁に阻まれるゴブリンアーチャーの矢。
「隠れて撃つなんてアンタ卑怯よ!」
「ホントよ!」
ヒュンッ!
ヒュンッ!
マリー先輩に憑く風の精霊シンディと俺に憑く風の精霊シルフィの2人が、すかさずゴブリンアーチャーにエアカッターをお見舞いした。
ギャッ!
2人からのエアカッター。
瞬時に細切れとなるゴブリンアーチャー。
「僕、気付かなかった!ごめんねセーラ」
「いいえ、シャンク先輩。大丈夫ですから」
シャンク先輩が身を縮めてセーラに詫びているが、これは仕方ないよ。てか、俺も索敵精度をもっと上げなきゃな。
何よりセーラの横には、マリー先輩と風の精霊シンディがいるし、俺のシルフィも全方位を警戒してくれている。
セーラ自身も魔法障壁を発現してるし。
うん、安心感は抜群だよ。
「みんな行くよ」
「「「了解(です)」」」
ダッダッダッダッダッ‥‥
立ち止まることなく、俺たちは先を進むことを選択。
草原の中の道を進む。
広大なダンジョンも石造りの通路に沿って進めば迷うことはないと言う。
ギャギャッギャーー!
ザンッ!
ギャッ!
時おり襲い来る魔獣も切り捨てて前へ前へ。
単独から2、3体の魔獣はランダムに現れた。
ギャギャッギャーー!
ガルルルルルルーー!
ザンッ!
ギャッ!
ギャッ!
道々に鮮血のみ残っているのは、キム先輩が闘った跡だろう。魔獣の身体がないのはダンジョンに吸収されたんだろうな。
2時間くらい経っただろうか。
入った時と同じように、草原エリアは唐突に終わった。
明らかに人工物、石造りの通路。
再び回廊となった。
最初の回廊は光苔の仄かな明るさだったけど、この回廊にはなぜか灯火が灯されていた。
えー?
誰が火を点けたんだよ?
ツッコミどころ満載だよー!
なんてこと思ったけど、これも不思議ものですぐに慣れてきた。
灯火もそのうちに「こんなもんだ」と思うようになったんだ。
温度湿度も一定。
これもどっかに空調設備でもあるんじゃない?なんて思ったけど、あるわけない。
寒くもなく暑くもない。
湿度もほどほど。快適だよ。
回廊の一本道は時折直角に曲がった。
曲がり角に差しかかるたび、緊張感も増した。が、お化け屋敷みたいに、うわっ!って来ることはなかった。
もちろん、全神経を耳に集中してるよ。
時おり一角うさぎやワーウルフ、ゴブリンの死体が転がっていた。
これもたぶんキム先輩が闘ったやつだろう。すべて急所を一撃に貫かれていた。
ダンジョンの魔獣って怖いよなぁ。
助走もなしに最初っから疾走してくる一角うさぎや、牙みたいに歯が出たチューラット、走るアルマジローは俺初めて見たよ。
しばらくすると、回廊の前方が明るくなってきた。
前方からはっきりと光の明るさが見える。回廊(通路)も終わりに近づいたようだ。
次が2階層だな。
【 ブーリ隊side 】
ボル隊から遅れること3点鐘ほど。
タイガーを先頭に、探索に入るブーリ隊だ。
◎ ブーリ隊(後攻)
タイガー(斥候)
オニール(前衛遊撃)
リズ・ガーデン(聖魔法士)
ビリー・ジョーダン(弓士)
ゲージ(後衛、盾、ポーター)
聖魔法を発現できるリズとセーラの2人を両チームに配したとはいえ、ブーリ隊で魔法を発現できる者はリズだけだ。
ビリーが水魔法を発現できるとはいえ、生活魔法の「ウォーター」のみである。つまりは、ブーリ隊での魔法士は唯一リズのみなのである。
が、昨年の探索も共にした仲間5人に不安や心配はまるでない。
ギャギャーーッ!
シュッ!シュッ!
ギャッ ガフッ
斥候タイガーの露払い。
降り下ろす爪牙の鋭い切れ味。
1体どころか2、3体の魔獣でさえ一撃で葬り去っていくタイガー。
ギャギャーーッ!
ザンッ!ザンッッ!
ギャッ ガフッ
このタイガーがほぼ無双状態なのに加え、後に続くオニールの槍もまた容赦のない槍撃である。低層階の魔獣は一撃で急所を貫かれていく。
この2人で早、向かうところ敵なしの低層階。
事実、未だビリーは1射もしていない。
リズに至っては、ゲージにおぶさり夢心地の有り様だ。
「ゲージ、もっとゆっくり歩くの」
「リズなんでだ?」
「揺れて眠れないの」
「オメー遊びに来たんじゃねーぞギャハハ」
「もう!五月蝿いの!揺れ過ぎなの!」
ズシーーンッ!
おぶさるゲージに向けて重力魔法を放つリズ。リズ自身をゲージ以上の重さに変えてしがみつく。
ズシンッと足から地表にめり込むゲージ。
ズルズルズルズルッ‥‥
人族であれば、身体が沈んで一歩も歩けなくなるはずの重力魔法もゲージにかかれば、歩き難さのある泥土を歩くが如くである。
リズを乗せてズルズルと歩を進める。
「ギャハハ、リズ重い重い!歩き難いぞ!」
ズルズルズルズルッ‥‥
「お前らなぁ‥」
タイガーが呆れる。
「ワハハ、まぁリズとゲージだからなぁ‥」
オニールも応える。
「はは、違いない」
ビリーも同意する。
「「「わはははは」」」
一同からは悲壮感の欠けらもない、明るい旅路であった。
ポーターとして背には山のような荷物を背負い、さらにはリズをおぶって、悠々と歩くゲージ。
幼い容姿の魔法使いリズと屈強な鰐獣人のゲージ。2人の組合せの微笑ましさもブーリ隊をリラックスさせている一因だった。
「ゲージ、お腹が空いたの」
「おぉリズ。俺がなんかうまいもんを料理しようかギャハハ」
「リズ、ゲージに任せたら生肉を食わされるぞ」
ニヤリとオニールが言った。
「ははゲージとタイガーならあり得るな」
ビリーも笑いながら言う。
「急ぐの。アレクが何か美味しいのを作ってくれてるの」
「だったらオメー自分の足で歩け!」
「ゲージはいじわるなの」
ズーーンッ!
「ギャハハ重い、重いぞリズ!」
再び重力魔法を喰らうゲージだった。
「「「・・・わはははは」」」
5階層に向けて。まったく危なげなく進むブーリ隊である。
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