142 夏合宿の終わり


結局キーサッキー尽くしのBBQとなった。

みんなで楽しいご飯会になったのは違いない。



「さぁみんな、最後に花火をやるわよ」


「「「おおーー!!」」」


軽食を済ませた夜。

楽しかった夏合宿の終わり。みんなで花火をして楽しんだ。

寮長たちが手持ちの花火もたくさん用意してくれていた。


シュー ドーン

シュー ドーン


火魔法を発現できるキャロル他の寮生が3人、打ち上げ花火を発現してくれる。

「すげぇー」

「きれいだねー」

特にアリシアの発現力はすごく、本物並みにすばらしい打ち上げ花火を上げてくれている。

「アリシアさん、どうやってやるの?」

「えーっとね‥」

アリシアのまわりではいつしか勉強会も始まっていた。


シューパチパチパチ

手持ち花火も風情があっていいなぁ。

ここが異世界の海辺とは思えないよ、ホント。

手持ち花火を両手で持って走りまわるレベッカ寮長とハイルは、暗闇に浮かぶ大人の悪魔と子どもの悪魔にしか見えなかったけど‥。



座りのいい岩に座り、みんなの楽しそうな笑顔をぼんやりと見ていたら、隣にキャロルも座った。

「楽しかったね」

「本当だよな」

「アレクはいつ帰るの?」

「俺は明日かな。寮に戻ったその足で帰るよ」

「そっか。ヴィンサンダーまでは結構かかるんじゃないの?」

「えーっと、走って2日くらい?」

「それってアレクだからだよね?ふつうに行くと?」

「うーん、1週間ちょっとかな」

「やっぱり!」

「あはは‥」

「アレクはすごいね」

「慣れだよ慣れ!」

「ふふ。それは違うと思うけど‥」

少し黙ったあと、キャロルがポツポツと話し始めた。

「私ね、親は本当の親じゃないんだ」

「えっ?」

「かわいい弟が2人いるんだけど、私は弟たちを裏切ったんだ‥」

「?」

「私、グラシア(ヴィヨルド領第3の都市)近くの生まれでね。風魔法を早くから発現できたから町では割と有名だったんだ」

「へー」

「教会学校のあと、この学園に進学したかったんだけど、お父さんが仕事で失敗してね。たくさん借金を作ったの。お金もないから弟の教会学校も続けられないくらいになって。だから私は学園も諦めていたんだ」

「うん」

「お父さんにはお金持ちのお兄さんがいてね、前からずっと私を養子にほしいって言ってたんだって。お兄さん夫婦には子どもがいなかったから。

それで借金を返したいお父さんがお兄さんに頼んで。お父さんの借金をなくしたい思いと私の学園に行きたい思いが一致したっていうのかな?それとも私が居なくなるより弟2人の方が大事だったのかな?

とにかくそんな理由もあってお父さんの借金も、学園のお金も払ってもらって、私は今の家の養女になったんだ。だから、帰るのはその新しいお家」

「新しいお父さんとお母さんはキャロルに厳しいの?」

「ううん、違うよ。今のお父さんとお母さんは本当に私に優しくしてくれるんだ。本当の子どもみたいに。

でも結局私は‥‥学園に行きたいために弟たちを裏切ったんだよね‥」


「俺ね、俺を生んだその日に、ははう、母さんが死んだんだ。俺と引き換えにね」

「えっ⁉︎」

「でね、ちちう、父さんが新しい奥さんをもらったんだ。でもしばらくして父さんも死んじゃってね。義理の母と弟は俺を要らない、邪魔だって。で、俺は3歳でひとりぼっちになったんだ。そんな行くあてもない俺を神父様が今の両親のところへ連れてってくれたんだ。初めて会ったの、その日の夜中にいきなりだよ、夜中。信じられる?

なのに父さんと母さんは何処の誰とも知らない俺を息子としてその日から愛してくれたんだ」

「アレク‥」

「そのあともね、教会学校を卒業して違うヴィヨルド領の学園に行きたいって言った俺を真剣に心配してくれたんだ。がんばれよ、応援してるって‥」

「うん」

「だから今の家族のためにも俺はこの学園で頑張らなきゃなって思ってるんだ。

キャロルもそうだろ?

自分のためにも、家族のためにもがんばるのが理由だって。

俺たちができることって、今できることを精一杯やるしかないだろ?」

「うん。そうよね!」



ままならない人生なんて誰しもがあることなんだと思う。順風満帆なんて人は案外いないのかもしれない。

それでも、立ち止まって悔いてても仕方ない。ままならない人生に抗って、やるだけやってみる。ちゃんとやってたら助けてくれる人もいつか必ず現れるから。そんなふうに思って俺はこれからも生きていきたい。



「あーなんかキャロルとアレク、いい感じじゃない?」

「「えっ⁉︎」」

「そーだぞアレク!お前だけハーレム野郎は許さないぞ!このスケベ!」

「なんだよハーレム野郎って!しかもスケベって意味わかんねーよ!」

「お前だけキャロルと2人っきりで‥‥ひょっとしてキスしてたのか?」

「なんでいきなりそんな風に話がとぶんだ!お前こそレベッカ寮長とキ!」

「「アレク!」」

「あっ!えーっとお前こそレベッカ寮長とキキキキャロルとどっちが好きなんだ?」

「バカヤロー、モドキと女は比べるまでもないだろ!」

「言い方!ばかハイル!」

ハイルがキャロルの風魔法で転かされていた‥。




楽しかった夏合宿も終わる。

早く帰りたいな。

父さんにも母さんにもスザンヌにもヨハンにも、早く家族みんなに会いたいよ。

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