141 イカす村おこし
「レベッカ寮長、ナタリー寮長、村長さん。キーサッキー、ひょっとしたらなんとかできるかもしれません」
「「「え???」」」
海の魔獣キーサッキーを前に俺はそう言った。
キーサッキー、知ってるやつより3、4倍大きな剣先イカだ。
どう食べても美味しいはずなんだよ。でもデビルフッター(タコ)といっしょでこの世界の人には見た目で敬遠されているんだ。
食べて美味しいのがわかれば、寒漁村から脱却もできる。しかもこの村には温泉まである。なので認知さえされれば観光地となれる。
そうすれば、必ず元の賑わいが戻るはずだ。
いつのまにか寮生も村民もみんなが興味津々に見ていた。
「村長さん、キーサッキーはどこにいるんですか?」
「100メル(100m)も出たら、うじゃうじゃおるよ」
うん、これは災い転じて良い資源だよ。もし獲り過ぎていなくなればいなくなったで、本来の魚は戻ってくるだろうし。
「じゃあちょっと待っててくださいね」
こう言った俺は、腰の小刀でキーサッキー(剣先イカ)を1匹ササッと解体する。
「あらアレク君、あなた解体がすごく上手ね」
レベッカ寮長が感嘆の声を上げる。
「そうなんですよー。アレクったら解体がすごくて‥」
アリシアとキャロルがこないだ初級者ダンジョンにみんなで行ったときの話をナタリー寮長にも話している。
サッ サッ サッ
剣先イカの胴の部分を開き、皮を剥いで、細切りにしていく。みるみるうちにできたのは、そう、イカソーメンだ。
イカソーメンを平皿に載せて、魚醤を少々かける。これだけ。シンプルにして旨いイカソーメンの完成だ。
「キャロル、こいつを風魔法で水分をとばしてて」
「わかったわ」
次いで、ミミの部分(といっても軽くキャッチャーミットくらいの大きさだが)に塩をふり、風魔法で水分を抜き、一夜干し状態にする。そして魚醤をつけ焼きにして炙る。
たったこれだけ。
ただこれにマヨネーズが加われば最強の一品になる。
(本当は醤油マヨに一味パラりが理想だけど。いずれ一味も探さなきゃ)
2品め完成だ。
すかさず3品め。
ドーン
まずは得意のミートチョッパーを発現させる。
「「「おおーーすげぇーー」」」
みんなが驚いている。
「アリシア、キーサッキーをじゃんじゃんミンチにしてくれ」
「わかったー」
こないだやったばかりだからね。もう阿吽の呼吸って言うやつ?
剣先イカがどんどんミンチになっていく。
俺はこのイカミンチにBBQ用の焼き野菜にあったタマネギやその他の野菜を刻みあわせて、塩で味付けをする。隠し味はマヨネーズ。あとは焼くだけ。
転生前。俺の爺ちゃんの故郷の味、イカメンチだ。これは抜群に美味いはずだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「最初の料理はキーサッキーそうめん。そのまま食べてみて」
キーサッキーそうめん(イカそーめん)を恐る恐るフォークで掬って口に運ぶレベッカ寮長、ナタリー寮長、村長さん。
生食(刺身)の文化が無いから当然の反応だろう。しかも魔獣だし。でも鮮度が良いから絶対おいしいはず。
「「「おいしーい」」」
「食感がなんとも楽しいわ!」
「ねっとりしてクセになるわね」
「これは酒が欲しくなるわい」
「次はキーサッキーの頭の部分を風魔法で水分を抜いて炙ったよ。このままでもちろんおいしいんだけど、これをつけて食べてみて」
小皿にマヨネーズを出してつけてと言う俺。
「「あっ、マヨネーズ!」」
アリシアとキャロルが叫んだ。
そのまま一口食べてからマヨネーズを付けて再度食べる両寮長。
「なんじゃこりゃー!」
椅子から立ち上がるレベッカ寮長。
「何これ!付けたほうがめちゃくちゃおいしいわ!」
ナタリー寮長も立ち上がって叫んだ。
レベッカ姉妹(?)がマヨラーになった瞬間だった。
「これは‥‥エールにも合うのぉ」
口をモギュモギュさせながら、村長も喜んで食べていた。
「最後はこれ。メンチ。ツクネを知ってたらキーサッキーのツクネかな。多めの油で揚げ焼きにしたらもっとおいしいはずだけど、今日はBBQだからね。これはそのまま食べてみて」
イカメンチをフォークで割ってアツアツを口に頬張る。
「「「おいしーい」」」
レベッカ寮長も、ナタリー寮長も、村長も、漁村のみなさんも、まわりの寮生のみんなも大喜びだ。
もう文句なし。モグモグとおいしい顔が物語っているよ。
俺の爺ちゃんの故郷の味、イカメンチだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「アレク君、ありがとう、ありがとう」
「いえ村長さん。うまくいけばうれしいです」
合宿のあと、サンデー商会(ミカサ商会)に連絡することを村長さんに伝えた。
俺からの申し送りとして伝えたのは、キーサッキーそうめんはここに来ないと食べられない味としてもらった。
鮮度が大事なのはもちろんなんだけど、この漁村にもう一度活気をとりもどしたいからね。
キーサッキーそうめんを食べて温泉に入ってもらう。
温泉も湯めぐりができるように改築してもらうアイデアも出しておいた。モデルは婆ちゃんの実家、西日本兵庫県の城崎温泉だ。魔獣の心配もなくのんびりと湯巡りができれば観光地として充分成り立つはずだ。
キーサッキーの一夜干しは冷凍保存で王国各地に流通するようになった。
漁港には専用の工房も出来、雇用も生まれたそうだ。
マヨネーズとあわせて、キーサッキーの一夜干しが居酒屋メニューの鉄板として王国中に広まった。
イカメンチも名物料理となるのに時間はかからなかった。
いずれはイカ焼きそばやイカ飯なんかもいいんじゃないかな。
温泉の改築も始まったそうだ。
寂れていた漁村が、元に戻るのも早いだろう。
「「アレク君、ありがとうね」」
「きっとお祖母ちゃんも喜んでいるはずよ」
ナタリー寮長が俺の肩に手を置いた。
「ううっ。俺、寮長のお祖母さんにも‥‥食べてほしかったです」
「ううっ。なんでまたアレク君が泣いてるのよー!もうっ、ホントに良い子ね!お姉さんキスしていいかしら?」
「それだけは勘弁してください!」
「もうお兄ちゃん、せっかくのいい雰囲気が台無しよ!」
フフフ
ワハハ
あはは
「さあ今夜は合宿最後の夜よ!花火もするからね!」
楽しかった夏の合宿が終わろうとしていた。
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