138 閑話 諮問会


王都にて、各領の教育代表者による学園会議が開かれた。

教育にも重きを置く王都ならではの施作の一環である。


「久しいなモンデール」


ヴィヨルド領領都ヴィンランド学園長サミュエルがヴィンサンダー領領都サウザニアの教会学校長モンデールに声をかけた。


「お主の推薦で来た子ども、アレク君だったかな、あの子は強いな。

クラス分けでは天才と謳われているヴィヨルド領主の次男と闘って勝ったぞ。なんと首席だ」


「それは重畳重畳」


ニヤリと笑ったモンデール神父である。


「それで確認だがなモンデール、この秋の武闘祭で10傑となればダンジョンに潜ってもらうことになるが、いいんだな?」


「もちろんですよ」


「ワハハ。獅子はわが子を谷に落とすか」


「何ですかな?サミュエル学園長。シシワナニカヲとは?」


「ははは古い文献の言葉だよ」


「いずれにせよ、ダンジョンでもし何かあれば、それはアレク君に天命がなかっただけのことです。ただ私は彼が学園ダンジョンを経て、さらに大きく成長すると信じていますよ」


「相分かった」


(アレク君の実力から成績もいいだろうとは思ったが、首席になったとはな。これはまさに重畳よ。ディル師やシスターナターシャは知っているだろうか。いずれにせよ、さぞや喜ばれることだろう)





同じころ。

王都では王命に於いて内密の諮問会も召集されていた。

そこには賢者サイラスとその娘「知恵のナターシャ」との2つ名を持つシスターナターシャもいた。

幾人かの有識者から意見を聞く諮問会である。


「誘導魔法の正式採用について」


この議題を問う最終段階の諮問会だ。

会議では非公式に、死刑囚を対象とした実験の模様も披露された。


「実験には若手冒険者の注目株マジカルラブのみなさんにお越しいただきました」


司会役を務める若手司法官が言う。


有識者を前にお辞儀をするマジカルラブの女性3人組。そして、この女性3人組の魔法士による誘導魔法での犯罪者の尋問が行われた。

そこでは本来なら捕縛された犯罪者といえど、口をつぐむ内容となるいかなる尋問にも、澱みなく応える犯罪者がいた。



「今日は誘導魔法のご披露、ありがとうございました」


「「「いえいえ」」」


「マジカルラブのお3方は噂に違わぬ高位の魔法士ですね」


「いえ畏れいります。こちらこそ高名な知恵のナターシャ様にお会いできて光栄です。お時間があればいろいろとご教授をいただきたいんですけども。ちなみにナターシャ様は今はどちらで?」


「ヴィンサンダー領、田舎のデニーホッパー村なんですよ」


「あら、アレク君のところですね」


「ええ!?アレク君をご存知なんですか?」


「もちろん。サウザニアのギルドで会ったんですよ。すごい子ですよね、アレク君は」


「あら、そうでしたか」


共通の人物、それも双方にとって好ましい人物というものは両者の間を近くしてくれるものだ。

シスターナターシャとマジカルラブの間にも、急速に近しい空気感が流れた。


「そういやあの時も、サウザニアの食堂なんですけどね、アレク君から王都で最新の魔法は何かと聞かれて、私この誘導魔法のことを話したんですよ」


「なるほど。やはり縁は異なもの。わからないものですね」


「彼は今、やっぱりヴィヨルドですか?」


「ええ。学園でもう首席だそうですよ」


「「やっぱり!」」


フローラとタマラも大きく頷いた。


「サウザニアで進学先をどこにするか彼が悩んでとき、私たちにも質問してきましたからね。王都学園はいろいろと人間関係がたいへんだよと伝えたんですよ」


「アリス、貴族のナターシャさんにそれはマズいでしょう」


「いいえ、私もみなさんたちと同じですよ。あの口だけが達者な貴族は私には性に合いませんから」


ウフフ

まーフフフ


「私たちこれからヴィヨルドのダンジョンに行くんです。だからまたアレク君と会えるとうれしいです」


「アリスさんたちもアレク君と縁ができてるんですからおそらくは」


「だといいんですが。私たちのような者が言うのはアレなんですけど、アレク君は将来が楽しみな子ですね」


「ええ、ええ。本当に」




アリス、フローラ、タマラの冒険者マジックラブ。

近い将来。

女性3人組の冒険者として王国中に名を馳す彼女たちもアレクとの縁が再び結ばれて共闘、活躍するのはまだまだ先の話である。

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