136 夏休み


「はーい、みんな明日からお楽しみの夏休みだよ」


うおおーー!

やったーー!


「わかってると思うけど、夏休み明けにはすぐに武闘祭よ。遊んでばっかりいたらクラスが落ちるからね。それと宿題もちゃんとやるんだよ。

9月1日、みんな元気でまた会いましょー」


狸獣人の担任の先生が言った。


「「やったー夏休みだー!」」


シナモンとアリシアが手を上げてハイタッチをしている。



1学期が終わった。

クラス分け試験からあっという間だった。

それくらい毎日が楽しい。


3学期制も季節感も転生前とほぼ変わらないから違和感はない。ていうか、俺がまともに1学期を終えるなんてな。教会学校のときもそうだったけど、転生前は病床にいる時間のほうが長かったからな。

今の自分は幸せなんだと思う。



「アレク、夏合宿楽しみだね」


キャロルが言う。


「おー、めっちゃ楽しみだよな」


「花火もできるんだって」


「マジ?海辺で花火か!」


夏合宿!昼はBBQ、夜は海辺で花火!

これぞ青春だよ!


「楽しみねー!」


アリシアも言う。


「「うんうん」」


夏休みになった最初の1週間。寮生活者の希望者は男子寮と女子寮の合同海合宿がある。

(残念ながらマリー先輩は不参加だ)


「くそー!アリシアだけズルいぞ!キー!」


「へへーん」


(この合宿で私、アレクと何かあったりして!キャー)


シナモンは俺たち寮生だけが行く夏合宿に行きたい行きたいとずーっと羨ましがっていた。




夏休み。

ハンス、トール、シナモンの3人は秋の武闘祭に備えて教会の武技訓練場に通うという。

モーリスとセバスは領主一族でどこかへ避暑には行くが、それ以外は暇があれば武技訓練場に通うという。

セーラ、セロは通常とおりに教会での仕事。ただ夏休み中だけに幾分は楽だという。

これまた合間には修練を欠かさないと言っていた。

アリシアとキャロルと俺は寮の夏合宿のあとは帰省をする。

もちろん俺たちも修練は欠かさない。

(俺の場合、おそらく師匠が手ぐすね引いて待ってるだろうし)

そんなわけで、それぞれがそれぞれの夏休みを過ごす。

そして全員が秋の武闘祭を見据えている。



ーーーーーーーーーーーーーーー



合宿所(海の家)は、西の大海に面したちょっぴり寂しげな漁村にあった。

元は活気のある大きな漁村だったという。これが年々増えた海の魔獣のせいで廃れていったそうだ。

そんなわけで今では神父様もシスターもいなくなった教会を学園が買い取り、そのまま合宿所にしたという。建屋は大きく寮生の男女50人余りが余裕で宿泊できた。


合宿所近く。

海を望む近くの丘には、レベッカ寮長の祖母が暮らす家もあった。

その縁もあって旧教会を学園の合宿所にできたらしい。


「年に一度の合同合宿だからね、男子も女子も、アタシとナタリー寮長の言うことをよく聞いてしっかり楽しむのよ」


「「「はーい」」」


「お兄ちゃんはあんなこと言ってるけど、厳しいことは言いっこ無しよ。男子寮のみんなも女子寮のみんなも、夏合宿を楽しく過ごそうね!」


「「「はーい」」」


レベッカ寮長と女子寮長のナタリーさんは兄妹だった。

明るくて活動的な美人。スタイル抜群のナタリー女子寮長は1㎜もレベッカ寮長と似ていなかった。

もちろん不思議な?性癖もなかったので、ナタリー女子寮長は俺たち男子寮生からの人気もすごく高かった。


夏合宿。

大まかなスケジュールはあったが、基本的にはかなり自由だった。

座学をしたい者は座学をナタリー女子寮長や年長の先輩が教え、格闘や剣術をしたい者はレベッカ男子寮長や年長の先輩が教えてくれた。


同部屋のハイルは、クラス分けの日以来、人が変わったように座学に励むようになった。

本人曰く、「字の読み書きさえできるようになれば大丈夫だ」そうだ。

ん?

今日もナタリー寮長に教会学校幼年学校用の読み書き本を貸してもらって頭を抱えながら、うんうん言ってやっている‥。



俺はアリシアやキャロル、他にも魔法を発現できる子たちにアドバイスを与える、ちょっぴり偉そうな指導役を6年の先輩達と一緒にやったり、剣術の苦手な子たちにも指導したりして過ごしていた。

(学年の首席というものは、俺が思う以上に周りからは敬意を持って見られていた)


「アレク、どうしたら魔力量が増えるの?私、魔力量が少ないから、途中で発現力が失速するのよね」


キャロルが聞いてきた。


「毎日欠かさず努力すること、かな」


「どうやって?」


「俺は魔力を増やすためには魔石を毎日意識してニギニギしてるよ」


「あーそれ、小さなときに町の神父様にも教えてもらったわ」


「「私も」」


いつしかアリシアを含む、魔法を発現できる他の寮生も聴き入っていた。


「うん、たぶんみんなと一緒。おれがやってるのは魔石に魔力を籠めたり、魔石から魔力を吸い出したりするイメージをするやつ。キャロルもやってたんだよね」


「ええ、一緒だわ」


「うん。俺も村のシスターに教えてもらったよ。毎日欠かさずやれってね」


「そこからアレクは何かやり方を変えた?」


「俺?俺は変えたことは何もないよ。剣の練習も含めて、ただ朝晩決めたことを欠かさずやってるだけだよ。魔石は暇さえあればニギニギしてるけど」


「ああやっぱり!アレクは継続して修練してるんだ。でもね、修練をやり続けることってそれが1番難しいのよね」


「ん?」


「たとえばさ、今日は面倒臭いなあとかなるじゃん。アレクはそんなときは?」


「んー、俺は修練が楽しいから面倒臭くはならないかなあ。毎日やってたらいつのまにか昨日より成長してるし、成長してるのを実感できるのもうれしいし」


「やっぱりアレクはすごいね!」


「「「うん、うん」」」


まわりのみんなが頷いていた。


なぜかハイルは涙を流して「俺は感動したぞ!」と言っていた。

(何に感動したんだろう、謎だよ)




次回 送り花火12/17 21:00更新予定です



「いいね」のご評価、モチベーションになっています!

いつもご覧いただき、ありがとうございます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る