135 タイガー
ヴィヨルド領領都学園の校舎は大きく1年から3年の年少棟と、4年から6年の年長棟から成る。
そんな学園の年長棟の一室。
学園ダンジョンの攻略者たる10傑のみが使用できる会議室で。
「今年こそ記録を更新したいな」
筋骨隆々。それでいて俊敏さも窺える虎獣人のタイガーが、同級生のエルフのマリーに言った。
虎獣人のタイガー。現席次2位である。
「今年は1年生に聖魔法士の子、セーラさんが入ったから心強いわよ」
「ああ、聖魔法士はかなり大きなアドバンテージだよな」
「セーラさんの聖魔法による治癒に、私の精霊魔法の治癒。危険時の安全確率が一気に跳ね上がるわ。
何よりアンデット対策にも聖魔法士の存在は大きいからね。
あと確実に10傑に入る1年生もいるし」
精霊魔法を発現できるエルフのマリー。
現席次1位である。
「マリー、それってこないだのクラス分けのときの子‥アレク君だよな?」
「ええアレク君よ」
「アレク君か。たしかにすごかったな。魔法はもちろんだが、体術も俺のかわいい弟弟子のハンスといい勝負をしていたし。なによりあの剣術‥」
「ええ」
「モーリス様は天才ヘンリー様の弟とはいえ、同じ天才だとも言われていたしな。事実、今まで俺はモーリス様も天才だと思っていたよ」
マリーが続けて言う。
「それをアレク君はまるで相手にしなかった」
「ああ」
「フフ。タイガー、アレク君と闘ってみたいんでしょ」
「そりゃ当然強い奴とは闘りたいよ。お前ともな」
虎獣人のタイガーが犬歯をみせて笑う。
「アレク君、あの子は魔法、剣、体術のどれも使える。それに弓も使えるから、遠距離の選択肢も増えるわね」
「わはは。マリーと同じエルフみたいだな」
「ホントよ。お母さんにエルフの血が混じっているかもしれないわよ」
「その割にしっかり人族らしい顔だがな」
「フフフ、ホントね」
「でもアレク君が入ると私たちのチーム編成の選択肢も確実に広がるわ」
「ああ。楽しみな子が入ってくれたな」
「ええ」
タイガーとマリー、現席次1位2位の2人から見て、秋の武闘祭で1年生のアレクが10傑に入るであろうことは織り込み済みであった。
「今年こそ先へ進みたいわ」
「ああ今年こそ記録を上回る深層階の扉をこじ開けたいな」
学園ダンジョン深層階の更新又はその制覇を。そんな想いを募らせる2人であった。
【 タイガーside 】
いよいよ6年、最後の夏休みだ。秋に向けて身体はしっかり作ってきた。俺とマリーの目標は武闘祭ではない。目標はあくまでも学年最後の学園ダンジョンだ。
俺は学園10傑には3年生から入っている。入学時から10年に1人の逸材とも言われ、自分でもそう思っていた。
だが10傑になれたのは3年生からだ。
3年からでも10傑に入れることはすごいことなんだと周囲は言う。その通りだとも思うのだが、1人、同期のマリーだけは違っていた。
マリーは新1年から10傑に入っていた。
俺はそんなマリーに入学以来1度として勝てていない。
さすがは30年に1人の逸材、言葉の意味だけでも俺とは20年も違うわけだ。
マリーには一度も勝てないが、不思議と悔しくはない。
それは学園ダンジョンに挑む同志、生命を預け合う仲間との想いからだろう。
事実、過去5年のダンジョンではお互いがお互いを助け、助けられてきた。
ダンジョンでは何が起こるか予測不能だ。
過去には未だに行方不明の先輩もいる。
今年は聖魔法士の女の子が入学してくれた。これで危険回避率は格段に高くなる。
もう一つ。今年の希望は、新1年生で10傑に入るであろうアレク君の存在だ。
クラス分け試験で見せた彼のすごさ。魔術も格闘も剣術も新1年生とは思えないレベルの高さだった。
思わず俺も立ち合いたいと思うくらいに。
特にアレク君、彼の剣術。
わが領きっての天才騎士ヘンリー様の弟天才モーリス様が手も足も出なかった。モーリス様もこの1年さらにキレを増した剣技には、俺も模擬戦で苦戦するようになったというのにな。
アレク君の圧倒的とさえ思えるあの剣技には驚くばかりだった。
彼の剣技に触れ、しんとなったクラス分けの訓練所。
はっきりと笑っていたのはマリーだけだったな。
10傑で挑むという制約がある以上、案外そのチーム編成に必ずしも10傑が相応しいとは限らない。斥候、前衛、盾役、ヒール職、魔法職といったチームバランスがダンジョン攻略には不可欠だからだ。
そんな中、アレク君のように剣術に近接戦もこなせて、魔法や弓も使える。こんなユーティリティプレイヤーはダンジョン攻略にとって大きなアドバンテージだ。
だからこそ。
マリーともども今年こそは階層記録の更新、その想いを遂げたいものだ。
次回夏休み 12/17 12:00更新予定です
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます