087 経営者


 サンデー商会のサンデーさんが村に来た。俺にも会いに来てくれたようだ。

 俺は早速、先般あった話をした。

 サンデーさんはじっくり俺の話を聞いてくれた。



「アレク君、それは難しい問題よ。例えばね、あなたが作ったミートチョッパーね、王都でも大人気なのよ。スライム袋なんて、王国だけじゃなく中原中に広がるのも時間の問題っていうくらい流行っているのよ。アレク袋っていう名前で定着するくらいにね」


「あはは‥アレク袋。名前は恥ずかしいな」


 サンデーさんはニコニコとしながらも真面目に話してくれる。


「ミートチョッパーもスライム袋も、成功しても失敗してもそれはアレク君とウチの商会だけの問題よ。つまりはあなた自身の結果に落ち着くでしょ」


「はい」


「でも村のカウカウ牧場は違うわ。私からみてもおそらくは成功するでしょうね。でもね、今度は違った問題が起こるわ。ここからはアレク君には嫌な言い方をするわよ」


「うん」


 サンデーさんが真顔で言う。


「うまくいったらいったで関係のない人がその利益に与かろうと出てくるわ。聞いてると思うけど、ヴィンサンダー領の若い領主とその家族、あまり良い噂を聞かないからね。ミカサ商会が王家ご用達だからうちには何もしてこないけど、お金を融通してくれとかいろいろな話は同業者からきくわ。


 あとね、このままいけば村民の中でも、利益配分で不満が起こるわ。うちの家族は大家族だからもっとほしいって言う人とかね。


 逆に失敗したら失敗したで、直接関わっていないから責任をとることは嫌だという人もでるわ。残念だけどね‥。商会を経営している私からすればね、カウカウ牧場もアレク君だけが経営者だったら問題も簡単で済んだわ。さっきから私、嫌な言い方してるわね」


「違うよ。サンデーさんが俺のために言ってくれてるってわかってるから」



 こないだのシスターナターシャの話。

 今日のサンデーさんの話。

 どちらも正鵠を得ている。


「サンデーさんはどうやってるの?」


「だから私のところは商会なの。共同経営じゃないのよ。成功したら働いている人に成功報酬として多く与えて、失敗したらそれは私が責任をとるわ」


「わかります。そうなるよね」


「そう。アレク君なら分かると思うけど、他人と一緒にやるって難しいわ。家族でも難しいんだから」


「うん‥じゃあ俺はどうしたらいい?」


「だからね、まずは自分自身がちゃんとしていることよ。誰に見られても恥ずかしくない行動をすることね」


「はい」


「そうしていれば自然に組織はまとまるわ」


「サンデーさん、ありがとうございます」


 サンデーさんの話は、すっと俺の中に入った。本当にためになる話だった。


「それとね、アレク君。この先、誰が何を言ってきても、サンデー商会とお爺さまのミカサ商会はアレク君の味方だからね!」


「ありがとうございます!」


「あとね、大人の話になるけど‥」


 今度から村で何かをするときはちゃんとした契約書を交わすことを勧められた。なんか味気ない気もするがこれも仕方ないんだろうな。

 みんなが仲良く楽しく生きていける場所。今のデニーホッパー村が理想的なんだけどね。



 俺が大人になってヴィンサンダー領を取り戻せたら、誰もが楽しく生きていける領にしたいと思った。まだぜんぜん絵も描けないんだけどね。



 次回 ジャンの改心 11/12 21:00更新予定です

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