088 ジャンの改心


 「アレクちゃん、ジャン君の家へこれ持ってって」


 領都学校からの帰宅後。マリア母さんから、母さん自慢の芋料理を手渡された。

 今朝がた、チャンおじさんが過労で倒れたと言う。

 俺は、慈養強壮効果のある薬草もあわせ持ってお見舞いに行った。


 「おおー、アレク君わざわざすまんな」


 「チャンおじさん大丈夫なの?」


 「ほんとに大したことないんだよ。慣れん町長をやって気疲れしたんかな。ガハハ」


 「本当よー、心配したんだから。アレク君もわざわざ悪かったわねー」


 ジャンのお母さんもにこやかに笑っていた。

 実際、ベッドで横になっているチャンおじさんの顔色はそれほど悪くないように見えた。

 チャンおじさんの言う通り、過労なんだろう。

 ただ俺はどうしても亡き父上の弱っていく姿がダブって見えた。父上のあの病床の姿は今も俺の脳裏から離れない。ジャンもきっと辛いだろうな。


「じゃあおばさん、俺帰るね。何か俺ができることあればいつでも言ってよ」


「アレク君ありがとうね」


「おばさん、ジャンは?」


 ふふっと笑ったジャンのお母さんが奥を指差して言った。


「裏の作業場にいるわよ。ジャンもやる気になったみたいよ」


「アレク君、ジャンもようやくやる気になったみたいなんだよ。こんなんならまた倒れてもいいかもな、ガハハハ」


「あんた!」


 おばさんのゲンコツが落ちた…。



 裏の作業場では、ジャンが金魔法で鍬や鋤を錬成しては焼き入れをしていた。

 うん、下手くそだな。


「ジャン‥よし俺も手伝うわ」



「アレク、お前のほうが上手いな」


「そりゃ俺はチャンおじさんの鍛治仕事を見てたし、領都でもヴァルカンさんの手伝いをやってるからな」


「だよなー。アレクが一生懸命やってる間、俺はただ遊んでたもんな‥」


「おじさん、たいしたことなかったからいいじゃないか」


「あはは。毒でも盛らないと父ちゃんは死なねえよ」


「ジャン!冗談でもそんなこと言うな!」


「そうだな‥悪い。俺もこれからちゃんとやるよ。まだ間に合うかな、アレク?」


「当たり前だろ!まだじゃなくて、まだまだこれからだ!」


「ああ」


 ニカッとジャンが笑った。

 俺も大きくうなづいて笑った。


 チャンおじさんの過労は大したことがなくて、本当によかった。これからはますます町長職で忙しくなるチャンおじさんを手伝って、ジャンも鍛治をまじめに学んでいくそうだ。

 ジャンも心を入れ替えたわけだ。



 帰りにアンナの家にも立ち寄る。

 ニャンタおじさんにまた魔獣狩りに連れてってもらいたいからね。


「アレク!なんか久しぶりだねー。何して遊ぶ?それとも肉食べる?」


「アンナ‥」


 アンナが平常運転だったことになぜか安心する俺だった。


「アンナ、スザンヌはどうだ?お前らに迷惑かけてないか?」


「ううん、スザンヌは朝アレクの代わりに起こしてくれるし、計算はアンナよりよくできるよ」


「うん。アンナ‥お前は変わらないよな‥」


 思わずアンナの頭を撫でている俺。


(あ〜、やっと判ったわ!これよく大人が俺に向ける目線のやつと同じだよ!)


「アンナえらい?アレクに褒められたよー!」


 アンナはによによしていた。



 ▼



 帰宅後、スザンヌとヨハンと3人で遊んだ。さすがにスザンヌとヨハンの2人を乗せての馬役は疲れた。



「おいしいねーお兄ちゃん」


「ああ、うまいなー」


「うまうまー」


 夜ごはん。ゆで卵に塩をつけて食べた。アンナのお母さんからもらったコッケーの卵を母さんがゆで卵にしてくれたものだ。鶏の卵の倍くらいの大きさだから、食べ応えは充分だ。

 ヨハンには大きすぎるくらいだ。

 ゆで卵を食べながら、俺の考えは膨らむ。


(このコッケーの卵とオイル、酢を使って作れるものといえば、マヨネーズだ。茹で芋にはやっぱりマヨネーズだよねー。あとたこ焼きにもマヨネーズはアリアリだろう。

 あっ!粉ものだからお好み焼きもアリだよなー、もちろんマヨネーズをつけて。俺、マヨラーだったし。

 これは次の食品の目標が決まったな)



 次回 コロッケ 11/13 12:00更新予定です

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