078 水晶玉


 相変わらず精霊は見えない。

 うん、きっかけすら見出せない。

 でも開き直った。

 開き直って、昼間は腕立て伏せをしたり、坐禅を組んでみたり(やり方がわからないから自己流だけどね)して体力と魔力を放出する日々。

 夜は師匠から話を聞く日々。

 そして刀の素振り、ドラゴンの魔石の欠けらに魔力を注ぐこと、鉄の塊をニギニギしたりしている。

 これまでのルーティンが復活した。




 そろそろ修行期間も折り返しに近づいてきた。

 精霊?

 うん、ぜんぜん見えない。見える雰囲気も全くない。

 見えなくても居る。

 今もどこかこの辺に居るんだろう。

 頭ではわかろうとしてるんだけどね。

 やっぱり見えないものは見えない。

 あー、なんかむしゃくしゃしてきた。

 こんな時こそ歌だ、ダンスだよ、きっと!


 ♪ちゃららーららーちゃららーらららーマイムマイムマイムマイムちゃららー


 なぜか気に入ったので、あれ以来ひとり椅子取りゲームをやる俺。

 そんな1人遊びが毎日続いた‥。

(誰も見てないからできるんだよね)


 そんなこんなで10日が過ぎた日。


 進展の無いまま。11日め。


 師匠から水晶玉を渡された。


「アレク、この水晶玉が媒介となる。水晶玉を手に今日からもう10日間やってみろ。今度はこの場所から動いても構わん、飯はここに置いてやる」


「はい師匠‥」


「水晶玉は精霊とお前を繋げる媒介と考えろ」


「はい‥」


 俺は師匠に渡されたゴルフボールほどの水晶玉を手にした。

 暗闇の中、焚き火にあてると、キラキラと反射して見える。綺麗だな。


 翌朝。

 そんな水晶玉をニギニギしながら自然との調和を考え、精霊さんを見るようにこれまでと同じことを繰り返した。

 あーやっぱりダメだわ。

 何も見えない。

 精霊も現れない。

 でも‥

 ここ、黒の森ってなんか落ち着く場所なんだよなー。



 俺はすべての思考を絶った。



 何の意識もせず、リラックスして周りを見渡す。


 すると。

 なんとなくぽやーんとしたものが見えた。


 おや‥






 なんかふわふわしたものが漂ってる?

 光の玉のようなものが木々の間を漂っているように見えた。

 それは夕方、師匠が戻って来るまで見え続けた。


 もしかして‥。


「師匠、なんかふわふわしているものが見えます」


 夕方。

 戻ってきた師匠にさっそく報告をする。







「見えたか!アレク!」


「ようやく繋がったか!よしっ!」


 師匠が大きく頷いた。

 師匠は精霊が見えることを「繋がった」んだという。

 なんかの回路が繋がるってことなのかな。

 木々の間をふわふわ漂う光の玉。

 これが精霊なのか。

 飛んでるってことは、風の精霊なんだろうな。


「シルフさんこんにちは。あなたは風の精霊さんですか?」


 光の玉は俺の周りをふわふわと漂うように飛んでいる。

 まだ精霊の言葉は聞こえないが、精霊は確かに居る。俺の声に応じて飛び回っているみたいだ。


 あゝ精霊って本当にいたんだ。

 あーよかった。

 ほっと安心した俺だった。





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