079 見えた精霊


「うおおー!師匠、見えます!なんかぼやーっとみえます!」


 ホーク師匠に手渡された水晶を持ってからは早かった。

 水晶玉を媒介として、俺と精霊の回路が繋がったんだと思う。

 今まではまったく見えなかった精霊の姿が微かに見えてきたのだ。

 成果は日に日に顕著だった。


 それは最初、ぼやっとした光の玉のような微かなものだった。

 それが2日、3日と日を追うごとにさらにくっきりと見えてきた。


 森の木々の間を漂うのは風の精霊だろう。あまり動かず岩の上に居るのは土の精霊だろう。水の上に漂って居るのは水の精霊だろう。

 それぞれがそれぞれの領域に居る。


 ざっくりと精霊として一括りにするのではないこともわかった。風なら風の精霊が空気中に、土なら土の精霊が地面に、と意識して見えるものなのだ。

 水晶玉を媒介とした最初は仄かな光の玉に見えた風の精霊は、今ではシルエット越しの人形?それも空気中を漂っている小さな人形サイズのものが見えるようになった。


「師匠、ぼやっとした小さな人形みたいなのが見えてきました!」


「話しかけてみろ」


 師匠が言う。


「精霊さんこんにちは。俺、アレクと言います。はじめまして。今後ともよろしくご指導お願いします」


「アレク‥。いいか、卑屈になる必要はない。精霊との関係はあくまでも対等、使役するでも使役されるでもない。友人の位置付けだ」


「師匠、わかりました」


 名づけの重要性も習った。魔獣などを使役するティムとは違うが、名をつけることによってその精霊との間に契約に近い形で縁が繋がるそうだ。

 特に縁が繋がった精霊は、常に共にいてくれる存在になるそうだ。

 いいなあ。俺にもそんな親友のような精霊ができないかなあ。


 俺の周りをふわふわと漂っている精霊を見ながら、リラックスした俺はそう思うのだった。


(あーでも本当によかったよ、精霊さんが見えて。1人椅子取りゲームはぜんぜん関係なかったんだなー。師匠が俺にやらせたかったのは、俺が集中して自然を見ることじゃなかったんだ。意識を自分から切り離して、自然の中に染み込ませることだったんだよなー。たぶんこれ、俯瞰っていうんだよな。

 目が覚めるたびに、精霊さんがくっきりと見えてきてる。たぶん明日にはハッキリと見えるんだろうなー)



 明日には精霊さんがハッキリ見える。

 明日には精霊さんと会話もできる。

 なぜか、確信としてそう思えた。



「アレク、修行は終わりだ。よく頑張ったな」


 この夜、ホーク師匠から修行の終わりを告げられた。





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