056 後期教会学校へ
デニーホッパー村での前期初級学校(教会学校)が終了した。
次はモンデール神父様がいる領都サウザニアの教会学校だ。
実に3年ぶりの領都になる。
デニーホッパー村から領都サウザニアの教会学校へ通うのは俺とシャーリーの2人だけである。あとの仲間はそのままデニーホッパー村の教会学校に通うそうだ。
(本来ならば後期の幼年学校は多数の生徒と共に学ぶという決まりなのだが、新興の開拓村の特例として通学時間が短くて済むよう、前後期同一の教会学校が許されている)
俺は家から領都サウザニアの教会学校に通学するから村のみんなにも会えないことはない。
師匠(ディル神父様)との剣の修練はこれまでと変わらないし、シスターナターシャからいろいろ教わるのも変わらない。
そんなわけでデニーホッパー村の教会学校にはこれからも毎日顔を出す予定だ。
妹のスザンヌも通い始めたことだし。
だから寂しくない。
村から領都サウザニアまではふつうに半日くらいはかかる。なので、シャーリーは領都の親戚宅から通うそうだ。親戚は食堂をやっているらしく、水魔法が使えるシャーリーはその手伝いをしながら教会学校に通うそうだ。親戚は幼いときからシャーリーを可愛がってくれているらしい。
あの夜、モンデール神父様は1時間もかからないほどの速さで領都の教会からデニーホッパー村まで駆け抜けてくれた。今の俺はどうだろう。かなり速くはなったが、まだまだかかるだろう。
卒業するまでには俺も1時間かからずに走れるようになりたい。
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後期教会学校が始まる前、モンデール神父様がデニーホッパー村の教会に会いに来てくれた。
「アレク君、3年間しっかりがんばったね」
「はい‥神父様‥」
モンデール神父様の優しい笑顔に、ふいにあの日までのことが思い出された。
父上の笑顔、タマの笑顔、モンデール神父様の笑顔、マシュー爺の笑顔、薬師のルキアさんの笑顔。
悲しかった父上の葬儀と釈然としない俺の葬儀。
継母オリビアと家宰アダムの常軌を逸した親密ぶり。弟シリウスの癇癪。
嫌なこともたくさんあった。
いろいろな思いが溢れる。
不覚にも涙が溢れてきた。
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モンデール神父様、師匠(ディル神父様)、シスターナターシャと俺の4人で今後の話がなされた。
師匠もシスターナターシャも俺が領都サウザニアの領都学校に通学しても変わらずデニーホッパー村の教会学校で指導してくれる。
「アレク君、お父上アレックス・ヴィンサンダー様と君ショーン・ヴィンサンダーの死亡に関して家宰アダムたちが関与したとの決定的な証拠は未だに見つからない。まだまだ時間がかかるだろう」
「はい、わかります」
予想通りだ。
弟、継母、家宰の現ヴィンサンダー家の3人は俺の葬式を見届けた後しばらくして、王都に移り住んだそうだ。
現在、弟シリウスは王都学園に通っているらしい。
(王都学園は実力優先主義かと思いきや、「貴族等優先入学枠」もあるらしい)
継母オリビアと家宰アダムは王都で開かれる毎夜の舞踏会やパーティーの常連らしい。彼等の散財もあってヴィンサンダー家の蓄財はどんどん無くなっているようだ。それに呼応するかのように現ヴィンサンダー家が治める領地の各種の税は少しずつ値上がりをしているらしい。
それも含めて。
領地にほとんど居ない領主シリウス達の評判は芳しくないそうだ。
俺は弟シリウスに会えないことが残念なような、ホッとしたような複雑な気持ちだ。
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モンデール神父様からは、俺が彼等に負けないくらいの力をつけるまで開拓村の農家の息子アレクとしてヴィンサンダーの名を伏せることを勧められた。もちろん俺も神父様の言う通りだと思っている。
剣も魔法ももっともっと強くならねば。理不尽なことや悪意に負けないためにも。
あと悪目立ちを避けるため、現状使える5つの生活魔法も伏せて、強くなるまでは人前で使う魔法は1つのみとすることにした。
いろいろと悩んだが使う魔法は土魔法にした。
それはこれまでに使う機会も発現した回数もいちばん多い生活魔法だからだ。なにせデニーホッパーの畠の改良に、今も毎日のように発現しているから。
また土魔法は攻撃よりも防御に重きを置いているのもその理由だ。
それと‥‥土魔法は地味だから。俺にぴったりだ。
まだガキの俺は今後もし敵対する大人と戦っても、勝つことよりも生き延びることが最優先課題なんだと思う。
また現在のヴィンサンダー家から疑問を持たれないためにもモンデール神父様と俺とはふだん距離を取る予定だ。
何かの連絡事項があれば師匠かシスターナターシャが中継をしてくれる。
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「師匠、シスターナターシャ今までありがとうございました」
「アレク君、私はいつもここにいるわ。何も変わらないわ」
「はいシスター。これからも俺を教えてください」
「アレク、修練は毎日やるからな」
「はい師匠。変わらず俺をしごいてください」
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今日から領都の教会学校が始まる。
「アレク気をつけるんだぞ」
「うん」
「アレクちゃん遠いけど大丈夫よね?」
「大丈夫だよ。毎日帰ってくるし」
「お兄ちゃん、村の学校にも来てよね!」
「ああすぐに行くよ」
「じゃあ行ってきます!」
「「「いってらっしゃい!」」」
領都サウザニアの教会学校まで駆け出していく兄アレク。
兄と入れ替わるようにデニーホッパー教会学校に通うようになった妹は、そんな兄の姿が眩しく見えてたまらなかった。
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