057 入学式


 領都サウザニアの教会学校。

 生徒数は村の教会学校よりはるかに多く、全校生徒数は300人余り。

 授業は学年別のクラス編成だ。


 領都の教会学校は前期からの持ち上がりの生徒が多くいることから、便宜上前期から引き続いての学年編成となる。よって俺は4年生である。勉強するのはこれからの3年間だ。


 4年生の仲間は40人。半数以上が領都サウザニアから通う生徒だ。あとは隣のニールセン村から8人、デニーホッパー村からの俺たち2人の10人が新4年生である。


 入学式は新1年生20人と新4年生10人のために開催された。


 祭祀も行われる領都教会のメインホールに300人もの全校生徒が集う様は圧巻だった。何せ大勢の人自体を見る機会がほとんどなかったから俺。

 入学式の初めにモンデール神父様が話される。


 「ここに集う300人の誰1人欠けることなく1年を送れますよう祈念します。

 ここに集う300人の誰もが自分の目標が叶うよう祈念します。

 ここに集う300人の誰もが互いを思いやることができるよう祈念します。

 これを以って入学の挨拶に換えさせていただきます。女神様に感謝を」


 「「「女神様に感謝を」」」


 ホール全体に響き渡るモンデール神父様の挨拶だった。この教会学校でモンデール神父様は皆から校長先生と呼ばれていた。


 モンデール神父様(校長先生)も話された自分の目標。

 俺の目標は1にも2にも強くなることだ。魔法も剣もこの3年間でできるだけ強くなりたいと思っている。魔法では5つの生活魔法を次のステージである攻撃魔法に発現する。ただし悪目立ちを避けるためにふだんは土魔法のみの修練だ。土魔法はLevel3までは上げていたい。


 剣は師匠から褒められることが目標だ。何せ師匠からは毎日肩なり足なり全身を叩かれているからな。


 それと領都サウザニアの教会学校には本当に多くの蔵書がある。これだけ本があれば勉強も不足なくできるだろう。




 ▼




 今日から授業開始だ。


 「おはよー」


 「アレク君おはよー」


 シャーリーが隣の席へ座る。知らない子ばかりなのでなんか安心する。


 金髪サラサラヘアのシャーリーはサウザニアの子どもたちに混じっても美人だ。


 前後の席も隣村からの「新入生」のようだ。


 「おはよー」


 「「おはよー」」


 みんなにも挨拶したら「おはよー」と返してくれた。

 そこへ。


 「なんか田舎くせーな」


 シャーリーに意味のわからない難癖をつけてくる子どもがいた。


 「お前あれだろ?田舎のデニーなんちゃら村だろ。どおりで臭いはずだぜーギャハハ」


 「「本当だー田舎くせー」」


 追随する子どもを含めて3人がシャーリーを囃し立てる。

 シャーリーはこいつらを完璧に無視する。


 (えらいぞシャーリー)


 すると無視されのが気に食わなかったのか、最初の子どもがシャーリーの机の上の本をぶちまけた。


 「シカトするなよ!生意気だなー田舎もん!」


 激昂した先頭の子どもがシャーリーに詰め寄ろうとした。


 「おい!」


 これには俺も気分が悪くなり、思わず声を上げた。

 俺の剣幕に一瞬その子たちは怯んだ。


 「これから仲間になるんじゃないのか。まして俺たちは本当に田舎もんだ。領都のことも何もわからない。わからないからこそ街のお前たちが教えてくれないのか?」


 ここでこいつらが手を出してきたらまとめて‥‥と思いながら腰を屈めて臨戦態勢に入る俺。

 3人が下を向き押し黙った。


 (えっ?コイツら根性ねぇー。てかヤバい!ちょっと言いすぎたか俺?どうしよう?)


 いやーな沈黙が教室全体を覆いそうになった。みんながこちらに注目してるし。


 (どうしよう?このままだと俺がいじめっ子だ)


 パンパンパン!


 「「「痛っ!!!」」」


 そのとき3人組の後ろから連続して本で頭を叩く音がした。


 「ごめんねーこいつらバカだから。

 あなたかわいいから友だちになりたいって素直に言えないんだよねー。

 ホントにバカだから!」


 「「「痛い(痛えー)」」」


 「なんか文句ある?」


 「うっ‥ないよ‥」


 頭を抑えながら立ち去ろうとする3人。


 「まだよ。悪いことしたとき何って言うんだっけ?」


 「「「ご、ごめんなさい」」」


 「それから?」


 「「「俺(ら)が悪かったです。これから仲良くしてください!」」」


 (コイツらいい奴じゃん!しかもこれはアオハルじゃん!喧嘩をしたら仲直り。これぞ学園ものの王道的展開だよー!)


 ひたすら感動する俺だ。いかん、いかん、俺たちも仲直りの言葉をかけなきゃ!


 「おいシャーリー」


 「うん」


 俺たちは並んで頭を下げて握手を求めた。


 「デニーホッパー村から来たアレクです」


 「シャーリーです」


 「「仲良くしてください(ね)」」


 「あ、ああ。俺も‥サウザニアのデニスだ。デニーと呼んでくれ」


 「俺はイギー」


 「俺はマイケル」


 「「「よろしく」」」


 3人の親は領都で商いの仕事に就く平民だそうだ。

 握手をする俺たち。


 「じゃあ私も自己紹介しなきゃね。

 ミリア・シュナウゼンよ。よろしくね」


 キラキラとした笑顔で自己紹介をするミリア・シュナウゼン。

 サラッとした短めのブラウンの髪がよく似合うボーイッシュで小柄な美少女だ。

 名前通りに爵位を窺わせる彼女の父親はこのヴィンサンダー領の騎士爵を持つ貴族だそうだ。

 騎士ということは、ミリアの父親は嘗て壮健だった父上とともに戦場を駆け巡っていたのだろうか。俺はミリアに俺の父上はミリアの父上とともに‥と打ち明けたかった。

 そんなもどかしい思いにもなった俺だった。


 災い転じて何とやら。これ以降俺たち6人、特に男4人は本当に仲が良くなったのだった。

 とくにデニー、イギー、マイケルに俺アレクを足した4人は4馬鹿又は教会学校の不良4人組との不名誉な二つ名?まで付いたのだった。

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