054 閑話 アンナの憂鬱


 「アンナー帰るぞー」


 「はーい、ジャンちょっと待ってて」


 村の教会学校(前期)を卒業したというものの、アンナの日常は変わらなかった。

 上級生となったが、勉強していることはこれまでとまったく変わらない。

 ジャンと2人、相変わらず計算の勉強は苦手だ。


 変わらない毎日が悪いわけではない。お腹が空いて眠れないこともないし、魔獣や盗賊に怯えるわけでもないからだ。父さんも母さんも楽しそうにしているのはうれしい。そんな平和な毎日はしあわせだと思う。


 ただ‥なぜか少々つまらなかった。

 なぜかわからないけど。


 変わったことはもちろんたくさんある。

 何より食生活は格段に良くなった。

 もともと野菜は好きではなかった(茹で芋はまあまあ好きだけど)

 芋や麦の収穫が増えたのは良かったと思う。

 父さんも母さんも、村のみんなも喜んでいるからだ。

 それもこれも畠の土が良くなったからたくさん収穫できるようになったからだ。


 アレクは「土が‥何とかかんとかで良くなったからだ」と言っていた。


 そんな畠を荒らす魔獣のチューラットやアルマジローもずいぶんと数が減った。チューラットのハンバーグが大好きになったアンナにすれば逆に減り過ぎたチューラットが居なくなりはしないかと少々心配にもなる。


 これもアレクが「チューラットの硬い肉も‥何とかかんとかで美味しくなるからだ」と言っていた。


 母さんも、アレクが作った硬い肉を細かくてやわらかくするチョッパー何とかを便利だ便利だといつも喜んで言っているし。


 家の裏にはアレクが建てた背丈を超える高さの塀もできた。

 叩いても蹴ってもびくともしない頑丈な塀だ。


 この塀は最初はうちとアレクとジャンの家だけだったけど、今ではぐるっと村全体を囲っている。これもアレクが作ったやつだ。


 塀は大人の背よりも高いから魔獣や盗賊が入ってくる危険も無くなった。

 前は他所から悪いヒューマンがやって来て獣人の女の子を攫っていくとか怖い話を聞いたけど、そんな心配もしなくてよくなった。


 良くなったことはまだまだたくさんある。

 村人もずいぶんと増えて村自体も賑やかになった。

 商店もできた。


 サンデー商会のシルカさんは同じ山猫獣人で余計に親しみが湧く。

 ニャンタ父さんの後輩だし。


 学校の行き帰りがジャンといっしょなのは変わらない。

 春からはアレクの妹のスザンヌもいっしょだ。前はアレクが起こしてくれていた朝も今はスザンヌが代わって起こしてくれる。スザンヌは本当の妹みたいでかわいい。ただスザンヌは私よりもしっかりしてるし、計算も私よりできるけど。


 毎日は楽しい。


 だけど‥何か物足りなさも感じているアンナである。


 「あ〜あ、アレク帰ってこないかなぁ‥」


 「あーアンナお姉ちゃん、また今日も言ってるー。スザンヌと同じだねー」


 「ほんとねー」


 クスクス

 クスクス


 こうして、最後はいつも同じ会話になるのもお約束だった。

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