053 閑話 ヨゼフとマリア(後)
「君、大丈夫かい?この中でよく女性を守ったね。えらいぞ!」
ヨゼフに向かい労いの言葉をかけるモンデール神父。
併せてヨゼフの顔に手をかざす。
するとみるみるうちにヨゼフの顔から腫れもひき、血も止まった。ヨゼフの顔に精気が戻る。モンデール神父の聖魔法「ヒール」である。
「し、神父様‥こ、これは‥ヒールを‥私のような農民にあ、ありがとうございます‥」
ヨゼフは心から安堵した。
冷静に考えれば20人くらいの盗賊団に囲まれているのだから今も生命の危険に変わりはないはずなのだ。まして自分たちに武芸の心得はまったくない。だがヒールをかけてくれた神父様には不思議と後を任せても安心できるほどの圧倒的な安心感があった。
「なんだ神父。てめえどっから湧いてきやがった?いい度胸だな」
わらわらとモンデール神父の前を取り囲む15名ほどの盗賊団。
「もう1人忘れておらんか?」
いつのまにか。
盗賊の頭らしき男を倒している小柄なローブ姿の男。
ディル神父である。
「おい、気をつけろ!このジジイなかなかやるぞ」
「ほっほっ。盗賊に褒められても嬉しくもないわい」
息も切らさず。まるで散歩の途中のような雰囲気を漂わせるディル神父。
「ククッ。師よ。もう少し真面目にやってください」
そう苦笑いをしながらディル神父に文句を言うモンデール神父。彼は彼で片手でヨハンを癒しつつも、盗賊団を圧倒する脚力でヨゼフを殺そうとしていた盗賊の男を吹き飛ばしている。
「な、何者だ、こ、この神父たちは!」
「ぐはっ」
「あぁ」
「素人じゃねぇ‥」
「に、逃げ‥」
わずかな間で。
盗賊団は壊滅する。
総勢20名ほど。
短時間での出来事だった。
「神父様ありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
「あの‥あなたもありがとうございました」
「い‥いえ、無事でよかったです」
マリアはヨゼフに、ヨゼフはマリアに。
一瞬にしてお互いが心を奪われた瞬間だった。
その後の旅路はディル神父とモンデール神父の護衛もあり、無事に領都へと辿り着く一群。
「「「神父様ありがとうございました」」」
「あの‥神父様。本当にありがとうございました。おかげで助かりました」
移住を希望している若い女性農民のマリアがモンデール神父らに頭を下げる。
いつしかマリアの横に立つようになっていたヨゼフも頭を下げる。
「神父様、ありがとうございました」
「それもこれも女神様のご縁ですな」
ディル師が和かに2人を見る。
「はい。女神様のご縁に心からの感謝をいたします」
「お2人も開拓村に行かれるんでしたな。ではデニーホッパー村で会いましょうな」
「はい、ディル神父様」
「「あらためてありがとうございました」」
ヨゼフとマリアの出会い。
そこには偶然居合わせたディル神父とモンデール神父の助けがあった。
が、神父が語ったようにこの巡り合わせもまた女神様からの恩恵と信じる若い2人だった。こうしたこともあり、ヨゼフとマリアが敬虔な女神教の信者となるのだった。
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