025 閑話 TUKUNE
「モンデール神父様、今日もありがとうございました」
「はいショーン様、また来週。女神様のご加護がありますように」
教会の帰り、タマと手を繋いで屋敷へ帰る。
屋敷までは2時間くらいかかる。
馬車ならば30分もかからないだろうが、今は穀潰しとされる身だから自分で歩くのも仕方がないだろう。
あの息がつまる屋敷を離れられるだけでも幸いだ。
教会への道中は堂々とタマと手を繋げる嬉しさもあったし、歩き疲れたらタマがおぶってくれるのも嬉しかった。
帰りは教会近くの市場の屋台で、魔獣肉の串焼きを食べるのも楽しみの1つだった。
塩で炙っただけのシンプルな串焼き。
野趣あふれる自然の味わいというのだろうか、噛むほどに肉のジューシーな旨みが広がる串焼きなのだ。
もちろん俺に小遣いなどない。
なので、メイドのタマに奢って貰っている。
無一文の伯爵家の長男が俺なのだ。
今日もタマと一本ずつ、屋台横のベンチに腰かけ並んで食べる。
(ん?今日の串焼きはやたらと硬いな)
「どうですか坊っちゃん?」
「ん、タマ。今日のはめっちゃ硬いね」
その声が聞こえたのか、顔なじみとなった屋台のおっちゃんが申し訳なさそうに言った。
「悪いね、ショーン坊っちゃん。今日はいつものオーク肉が仕入れられなかったんだよ。リザード肉なんだがやっぱり硬いよな。いつもより売れいきも悪いし。まだ在庫もたくさんあるし、困ったなぁ」
頭を抱える屋台のおっちゃん。
あっ、そうか!
昔の知恵を引っ張り出した俺は、こんな提案を出してみた。
「おっちゃん、肉を包丁で細かく叩いてから、手で練るんだよ。一緒に塩も入れると粘りも出るからね。それを小さく丸に整形して串に刺して焼けば良いんじゃない」
「なるほど!細かく叩くのかい。それは思いもしなかったわ!貴族の料理法かい、坊っちゃん?」
「えっ!?あーそんなとこだよ」
「で、なんて名前の料理法なんだい?」
「えーっと、ツクネだったかな?あはは‥‥」
「さっそく作ってみるよショーン坊っちゃん!」
よほどツクネが気になったのか、はたまたそれほどまでに今日の売り上げが悪かったのか、早々に店仕舞いを始めた屋台のおっちゃんだった。
▼
帰宅後、店主はさっそくショーンに言われたアドバイスどおりを試してみる。
「こいつをら細かく刻んで塩を‥」
硬い肉を細かくして塩で揉んで練ったツクネを串に刺す。
「できた。こんな感じだよな」
硬かったリザード肉も適度な歯応えが美味しい肉へと変わった。
(旨い!これはいけるな!)
領都のみならず、辺境とされるこのヴィンサンダー領から生まれた名物料理がツクネ(又は肉団子)の串焼き。さらにこのツクネが派生してハンバーグとなり、一世を風靡する料理となるのは遠くないまたのお話…。
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