20 始動
「ショーン坊っちゃん、よーく見ていてくだされよ。この液を注いで色が変われば…」
何かの薬液を持ったルキアさんが言う。
採れたての俺のおしっこをみんなで見つめる。
(あうっ!なんだか恥ずかしい)
‥‥‥あっ、色が変わった!
ごく薄い色の黄金水が濃いピンク色の液体に変わった。
「やはりの…」
ルキアさんが厳しい顔をして言った。(ああ、いつも主治医の先生が俺に見せた顔と同じだ‥‥)
「ショーン坊っちゃん、落ち着いて聞いてくだされよ。坊っちゃんの息からは微かな異臭がしておりました。
これは腹の中にノクマリ草という草から作った毒薬の毒素が溜まっておるからじゃ。毒殺されたお父上と同じものですな」
ガーーンッ!
後頭部を何かで殴りつけられたような気がする。
「わが国を含めて中原にはノクマリ草自体が生えておりませぬ。あれは海洋諸国でしか生えておりませぬからな。なのでこの毒はとても珍しいものでしてな。ノクマリ草が生えておる西の海洋諸国では要人の毒殺に使われておりますわい。
この草の特徴は味がほとんどしないこと。なので飲み物にも食べ物にも何にでも混ぜられる。
少しずつ腹の中に溜まっていって、最後は死に至るんですな。
厄介なのは、大きく症状が顕れたときにはもう薬がほぼ効かないと言われておるのじゃ。ポーションやハイポーションなどの回復薬では効かないわけですな」
「えっ!?」
そんな毒を盛られていたなんて思いもしなかった。他人事みたいに思っていたのが、実は自分自身のことだって話がいきなり現実味を帯びてきた。
「で、おしっこの色から解るのが腹に溜まったノクマリ草の有無とその量。見てのとおり、ショーン坊っちゃんのおしっこの色が変わったじゃろ。これでショーン坊っちゃんが知らないうちにノクマリ草を使った薬物を摂取させられていたことが判るわけじゃな」
「そ、そんな‥‥」
獣人メイドのタマが俺の手をしっかりと握りしめながら言った。
小刻みに震えているタマの恐怖の感情が伝わってくる。
震えるタマの姿に。
逆に俺は冷静となれた。
「タマちゃん、心配せんでもええ。私らが坊っちゃんを守らないでどうする!」
薬師ルキアさんが大きく頷いた。
「この試薬から判る色の違いは、症状が軽いときは薄いピンク色。次いで症状が進行すると濃いピンク色。この色ですな。
さらに症状が進行すると赤色、紫色、黒色の順じゃな。赤色からはかなり危険じゃったから、今回の濃いピンク色は不幸中の幸いじゃった。今なら大丈夫じゃわい。知らずこのまま毎日摂らされ続けたら、1ヶ月とかからず赤色や紫色になったであろうな」
「あゝよかった‥‥」
タマが俺の身体を抱きしめる。俺も安堵感に包まれた。
「ショーン坊っちゃんのことはこの爺の一命にかけても、かならずお守りしますぞ!」
厩のマシュー爺の手が、タマに握られた俺の手に覆い重なる。
「爺‥」
「これから何が起ころうとも我らを信じてくだされよ!」
薬師ルキアさんの手がその上に重なる。
「ルキアさん‥」
「我ら鷹の爪もついておりますぞ!」
教会のモンデール神父様の手もその上に重なった。
「神父様‥」
「私もついてますからね!」
「タマ‥」
握られた獣人メイドのタマの手がさらにギュッと握られた。
重なるみんなの手の重みがなんだかとても心強かった。
「みんな‥」
「さて、これからの方針だが‥‥」
モンデール神父様が言われた。
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