007 暗雲
「モンデール神父様おはようございます」
「ショーン様おはようございます。今日も感心ですな」
週末の休養日
屋敷を離れられるこの日は、俺にとって唯一の「休養日」だ。
【 神父モンデールside 】
お館様の長男ショーン様は日曜朝の礼拝に、欠かさず参拝している。まだ幼いというのに。
女神様へ感謝する心持ちの良さは称賛すべきだ。
屋敷には後妻のオリビア様とオリビア様が産んだ弟のシリウス様がみえるが、親子共々一度も日曜礼拝に来たことがない。
信心深いショーン様。
ただ教会の行き帰り、メイドと2人きりなのは心配だ。お館様の正当なお世継ぎだというのに。
3歳児に自身の貴い価値や危険性を教え諭す者が屋敷にはいないのか。或いは何かの理由があるのか。やはり以前より危惧していた家宰アダムと後妻オリビア様になんらかのことがあるのか。
ショーン様は3歳児ながらも闊達で聡い子である。お館様と同じ、誰からも好かれる温かさを感じる。お顔も今は亡きセーラ様のお優しさにお館様の意志の強さを併せ持っている。
厩のマシューが危ぶには、継母オリビア様と家宰アダムのショーン様への扱いが怪しいと言う。
いつのまにかヴィンサンダー家の家宰に収まっていた男アダム。何度か話もしたが彼は賢い。出自がわからないのだ。
まさか2人が何かをすることはないとは思うが…。
お館様ご不在時にご令息ショーン様に何かあってはいけない。気をつけなければ。
【 メイドタマside 】
ショーン坊っちゃんが可哀想。
セーラ奥様が亡くなった上に、後妻のオリビア様には邪険にされて。
お忙しいお館様は近ごろお屋敷に不在がちだ。
お館様と亡きセーラ奥様は、獣人の私にも人族と分け隔てなく接してくれた。
なのに…。
今のオリビア奥様は私を含め獣人を蔑む。卑しい者を見るように。
弟のシリウス様も同じだ。
でもショーン坊っちゃんは違う。お館様、セーラ様と同じで誰にも分け隔てなく優しい眼差しで接してくれる。ときどきイヤらしい目をして抱きついてくるけど。
それにつけても、近ごろのオリビア奥様とシリウス様のショーン坊っちゃんへの対応は酷い。家宰のアダム様もそうだ。何も言わないどころか、オリビア様と一緒になってショーン坊っちゃんを虐めているようにも感じる。
何かあっても私がショーン坊っちゃんを守らなきゃ!
【 厩の爺、マシューside 】
この1、2年。
ヴィンサンダー家は何やらおかしい。
馬の世話で汚い身なりのワシがお屋敷内に入ることは稀じゃが、それでもこの異常な空気感はいったい何じゃろう。
昨日はたまたま剪定中の庭で、後妻のオリビア様と家宰のアダムが話す会話が聞こえてきた。
内容はわからなかったが、家宰のアダムに語りかけるオリビア様の言葉の端々から、2人が家宰とお館様の妻を越えたただならぬ関係じゃろうことが感じられた。
家宰のアダムはいつもどおり油断することなく慎重な物言いじゃったがの。
後妻のオリビア様はワシら使用人を明らかに蔑視しておる。ヒューマンでない獣人への差別意識はさらに酷い。
獣人メイドのタマが愚痴るのもよくわかる。
お忙しいお館様が屋敷を空ける日も増えた。
このままもしもショーン坊っちゃんに何かあれば、ヴィンサンダー家の世継ぎは弟シリウス様となるじゃろう。
毎日のように厩に来ては、ワシの昔話を目を輝かせて聞き入ってくれるショーン坊っちゃんは可愛い。
何か起こる前に。
これまで以上にワシが厩からしっかりと見張らなければなるまい。
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