002 誕生と死別


 ドクン ドクン ドクン ドクン‥‥


 落ち着く心音だ。

 何か絶対的な安心感に包まれているよう。

 この音を聞きながら、ずっと眠り続けていたい居心地の良さ。

 

 だが。

 そこから外へ押し出されるような感覚があった。

 穏やかな心音が消え、温かなうつわの中から外へ出された実感。
















 見えないながらも全身に感じる眩しさと、一斉に聴こえてくるさまざまな音。


 煩いなぁ。


 そんな喧騒とも言える世界の中に産まれ出てきた俺。


 オギャーオギャーオギャー‥

 (眩し〜いっ!)


 オギャーオギャーオギャー‥

 (煩〜いっ!)


 オギャッ!?

 (あっ!?)


 オギャーオギャーオギャー‥

 (赤ちゃんスタートの異世界転生だったんだ)


 オギャー!オギャー!オギャー!

 (ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!)


 産まれ出た瞬間に転生したと理解した俺。



 「元気いっぱいの男の子ですじゃ。跡取りのお誕生、お館様おめでとうございます」



 オギャーオギャーオギャー‥



 産まれたての俺はただただ泣くばかり。異世界転生ばんざーいと喜んでいたのだが・・・


 (チートも特典もありません)


 女神様のこの言葉を思い出した。


 オギャッ⁈オギャーオギャーオギャー‥

 (どうしよう⁈最弱じゃん)


 パニくる俺。

 全身で暴れているつもりだが、産婆の手の中で手足をばたつかせるのみだ。


 オギャーオギャーオギャー‥‥


 「元気なお子ですわい。はい、お母上様に抱いてもらいましょうかね」


 「あゝ…よかったわ…」


 「奥さま?奥さま?」


 「セーラ!おい!しっかりしろ!!」


















 ツーっと目元から一筋の涙が流れ落ち、そのまま母上は身罷ったそうだ。


 俺が産まれたすぐあとに。

 難産となった母上のセーラは、俺と入れ替わるように亡くなった。


 出産の厳しさ。

 未だ医療の進まないこの世界では、妊婦の死も乳児の死も割とよくある話だそうだ。








 北の辺境伯とよばれた偉丈夫 父アレックス・ヴィンサンダーはこの日、世継ぎの俺の誕生に喜び、愛する妻の死に悲しむという喜びと哀しみを一度に味わった。



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