003 企み

 俺が産まれて(母が亡くなって)しばらく。


 「お館様、未だお悲しみのところ申し訳ありませぬが、速やかに新たな奥方を迎えなければなりますまい。お世継ぎの養育にも母親の存在は欠かせませぬから」


 辺境伯家の家宰であるアダムが言う。

 細身の長身。神経質そうな外観の男である。


 一代にして領爵、辺境伯となったヴィンサンダー家は、歴史がない。

 寄子はいるものの、その関係性も未だ希薄と言えた。

 近隣諸侯は元より、中央への顔繋ぎ、寄子を含む家臣の育成、安定した領地経営等々。

 世継ぎの育成も急務である。


 「幸い寄子の男爵家に見映の良い娘がおりますので、すぐに手配致しますがよろしゅうございますか?」


 「あいわかった」


 「では早速男爵家へ向かいます」





 ▼





 家宰のアダムが新たなヴィンサンダー家の内儀を迎えるべく、婚儀を画策したその日の夜。




 小さな屋敷で。


 それでも平民のそれよりは大きい、貴族の屋敷で。

 その一室の扉をノックもせずに開ける男。

 家宰のアダムである。


 部屋にはアルコールが染みついた臭いが漂う。

 半裸のままベッドに横たわる女の腰を抱きながらアダムが言った。


 「オリビア、計画通りだ。支度しろ。これから楽しくなるぞ」


 「わかったわ、アダム」


 ニヤリと笑い合う家宰と女。


 こうしたことともつゆ知らず。

 父上は新たな妻を、俺は継母を迎えるのだった。



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