第8話 課外実習(2)

─学園迷宮第二層妖精の森フェアリー・フォレスト


 私達が懸念していた通り、課外実習は魔石の特徴についての勉強。

 魔石とは、簡単に言うと魔物の心臓のようなものである。魔力が多く込められており、魔物を倒した際に必ずドロップするものだ。

 そのため、魔物討伐の証として使われていたりその魔力の多さから魔道具アーティファクトの動力としても使われたりと我々魔法使いには切っても切れない代物なのである。


 今回の実習は、そんな魔石について学ぶこと。

 しかし、その魔石は用意されてはおらず第二層にいる魔物を討伐し入手したものを使うものだ。そのため四人ほどでグループを組み自分たちで魔物を狩る必要がある。

 

「それにしても、魔物討伐かぁ……。私、未だに魔物討伐慣れないんだよなぁ」

「あら、意外だわ。ユナって一時期冒険者をやってた、みたいな話をあなたのお父様から聞いたことがあるのだけれど」

「その時期は本当に一瞬だよ~……。受けてた依頼も魔物討伐とか多かったけれど、あまり得意じゃなかったし」


 私は魔法学園に入る二年ぐらい前からちょっとだけ冒険者として活動していた。(教えてもらった魔法や剣術の練習の一環としてだったが)

 

 それでも、八つ等級があるうちの上から三番目の銀級冒険者になることができたし、同年代の冒険者の友達もいたから楽しかった二年間だった。


「まあ私もそこまで魔物討伐は好きじゃないけれど……。って、もうナズ先生来てるじゃない」


 余裕を持って少し早めに来ていたが、どうやらもう実習開始の時間になったようだ。赤髪が特徴の子供先生、ナズ先生が私達の前に現れる。


「よーし、全員無事に第二層妖精の森フェアリー・フォレストに到着したな。今回の課外実習は先日連絡した通り魔石について学ぶこと。ただし、魔石はこちらでは用意してないので、グループを組んでこの階層の魔物を討伐すること!」

「先生! 一つ質問いいですか!?」

「ん? なんだそこのピンク髪。言ってみろ」

「フィルナです! 魔石の数や大きさは指定ありますかー?」


 魔石には大きさの質というのも存在している。

 上位の魔物ほど大きい魔石だったり魔力が多く込められた質の高い魔石だったりと魔物一匹一匹によって魔石は違うのだ。


「いや、最初の実習だしな。あまり無茶はさせられん。だから特に指定するつもりはないが、できればグループ全員に一つずつ行き渡るぐらいあると理想だな」

「了解しました〜! ありがとうございます!」


 つまり、特に倒す魔物は拘らなくて良いということだ。この階層によく現れる粘液獣スライムのような下級の魔物でも良いのは安心した。


「おう。最初の実習だし、あまり無理せず頑張れ。後、制限時間は二時間。二時間後にまたここで集合しておくように。私は少し用事があるので一時間ほど席を外すがその間は私の研究室所属の使い勝手の……じゃなかった、優秀な六年生を呼んでおいたので何かあったらこいつに相談しろ」

「ナズ先生、今聞き捨てならない言葉が聞こえたんですけど」


 !? もしかして、この声は……。

 

「だーもう気にするな!! ほら、自己紹介しろ!」

「はいはい。……六年のアロ・スタークだ。ナズ先生に比べたら頼りないとは思うが、質問にはできるだけ答える。よろしくな」

「アロ先輩!?」


 なんと、入学後試験で助けてくれその後も話を聞いてくれたアロ先輩がいるではないか。

 そのことに驚いて大声を出してしまい、クラスの注目が私達の方へ向く。


「ちょ、ちょっとユナ……!」

「あ、すみません……」

「なんだ、アロ。あの『彗星』がもう後輩と仲良くなってるとは。どういう風の吹き回しだ〜?」

「勘弁してくださいよ、ナズ先生。あの二人は入学後試験で知り合っただけですって」

「へ〜ほんとかねぇ? まあそういうことにしとくか。それじゃ、私はこれから用事を済ませてくるから、あとは任せたよ」


 そう言って先生は相棒の箒を魔法で召喚すると、そのまま飛び去っていってしまった。


「じゃ、これから課外実習らしいな。ここ、妖精の森フェアリー・フォレストは浅層と言っても今のお前らじゃ厳しいかもしれない魔物は存在している。気をつけて行動しろよ。それじゃ、それぞれグループでもう動いていいぞー。それと、そこの二人はちょっと来い」

「えっ!? 私達ですか!?」

「私はむしろ止めたんですけれど……」

「つべこべ言わずにこい!」


 こうして、アロ先輩の自己紹介を邪魔した私達はこっぴどく叱られてしまった。


 ▽


「よし、全員集まったね!」


 ピンク髪の短いポニーテールが似合う少女、フィルナが私達三人に元気な声で呼びかける。


「全員集まったね、って言ってもフィルナちゃんが最後だったような気が……」


 そんなフィルナにツッコむ長い青髪が特徴の優等生のララ。

 今日の実習はこの二人に私とレネちゃんを加えた四人のグループで行うことにしたのだ。


 先日『四人ほどのグループを組むように』という連絡が来た際、私とレネちゃんはどうしようか迷っていた時にこの二人が声をかけてくれたのだ。

 フィルナとララは私達と同じで幼馴染らしい。二人とも王国の貴族出身らしく、家同士が親しかったので昔から仲が良かったと聞いた。


「まあまあ。全員合流したし良かったよ」

「そうね。とりあえず、どこら辺まで移動しましょうか」


 この妖精の森フェアリー・フォレストは何キロルもの広さからなる大きな森である。

 私達がいる階層の入り口からそのまままっすぐ進むと二層の真ん中である『妖精の大樹フェアリー・コニファー』、そして真ん中から東西南北にランドマークとなる『妖精の木フェアリー・シュラブ』が存在している。


「確か、『妖精の大樹』フェアリー・コニファー『妖精の木』フェアリー・シュラブの周りは魔物が少ないんだっけ? じゃあ、どこか拠点にして探索したいなー!」


 フィルナちゃんが言った通り、妖精の大樹フェアリー・コニファーの周りは魔物が少なくなっている。その理由は妖精の加護があり魔物は近づきにくくなっているかららしい。逆に、離れていくと少しずつ魔物の数は多くなっていく。


「拠点……。いいと思う! だったら、『妖精の大樹』フェアリー・コニファー近くに行ってみるといいかも。距離的にもここから一番近いし、他のグループもいるから協力できるかも」

「そうね。そういえば、私達のポジションはどうしましょうか」


 ポジション。戦闘時自分が前衛か中衛か後衛で戦うかということである。

 一対一なら特に関係はないが、集団戦においてはポジション一つで勝敗は簡単に変わってしまうほど大切なものである。

 

「私は前衛! ララちゃんは後衛でお願いしたいな~!」

「剣術はそこまで自信がないので……。フィルナちゃんの言う通り私は後衛でお願いします」

「分かったわ。じゃあ、私はフィルナさんと一緒に前衛に入りますね」

「レネちゃんが前衛なら、私は中衛担当しようかな」

「よし、決まりね。私とフィルナさんが前衛、ユナが中衛、ララさんが後衛ね」


 バランスはしっかりとれているはずだ。

 後はしっかりと全員がそれぞれをカバーしながら動けるかが問題になってくるが、二層ならばあまり心配はいらないだろう。


「じゃあポジションも決まったし、早速妖精の大樹フェアリー・コニファーまで行こー!」

「「「おー!」」」


 こうして、危険に溢れた迷宮には相応しくない元気な声を響かせながら、私達四人は出発した。

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