第9話 課外実習(3)
「エレーネ! そっち行ったよー!」
フィルナちゃんが足元にいる
「分かってますわ!
途端、彼女は向かってくる
その杖剣は空を切った─。
と思われたが、彼女の剣先から斬撃のような一撃が飛ばされる。
その一撃はレネちゃんに噛みつこうとしていた
「ふぅ。やっと一息つけるわね」
先程まで大量にいた魔物たちだったが、今はもう一匹も見つけることができない。かれこれ数十分は戦い続けていたし、やっと少し休むことができるだろう。
「お疲れ様ー! それにしても、エレーネの剣術はすっごいねー!」
ララちゃんから飲み物をもらったフィルナちゃんがエレーネに話しかける。
「同感です……! 私は剣術が苦手なので憧れます」
「あら。ララさんも後衛からの的確な援護、とても助かりましたわ。私はそこまで魔法に自信がないので、尊敬します」
レネちゃんの言う通り、ララちゃんの魔法は凄かった。私が二体を相手にしていたら的確に一体は倒してくれたし、後ろから魔物が来ていたときも教えてくれたし、とても助かった。
「私もすっごい助かったよ。ありがと、ララちゃん!」
「あうぅ……。照れちゃいますぅ……」
恥ずかしがったララちゃんはそのまま自慢の長髪で顔を隠してしまって喋らなくなってしまった。
「あはは! とりあえずずっと戦ってたし、私少し休みたいなー!」
「そうね。最初の一体倒したら沢山現れて休む暇もなかったからいいんじゃないかしら。魔石の数にはもう余裕があるんだし」
そんな恥ずかしがるララちゃんを横目に、私達は交代で少しの休憩を取ることにした。
▽
「おい、例の計画の進捗はどうだ」
迷宮深層部のとある洞窟に低い女性の声が鳴り響いた。
その声に応えるかのように、暗闇から男が現れ女の前で跪く。
「概ね計画通りです。既に
「よろしい、よくやった。……下がっていいぞ、後はこちらから命令を出させてもらう」
「了解しました──
男は意味深な言葉をつぶやいた後、女の前から一瞬にして消え去った。
しかし、その光景は彼女にとっては日常茶飯事なのか特に驚くということはせず、先ほど男がいた方向とは逆の方向を向く。
向いた方向にある銅像に跪き、祈りをささげるかのように手を合わせるとおもむろに立ち上がる。
「やっとだ。やっと、この手で復讐をすることができる。この腐った世界に。この出来事は、世界が変わる序章となる」
そういって、彼女は魔法を使い同志に連絡をいれる。
「私だ。計画の準備は整った。─作戦開始だ」
▽
「それにしても魔物の数、やけに多かったね」
「そうね。でも、迷宮は『活発期』と『緩慢期』があるしたまたま被っただけじゃない?」
「そうかなぁ……。今月は『活発期』だった気がするんだけど」
『活発期』とは、その名の通り迷宮が活発になる時期のことである。この時期になると迷宮の構造が変化したり、魔物の行動が活発になったりするのでこの時期に潜る際は注意する必要がある。
逆に、『緩慢期』は魔物の行動が落ち着いたりする時期だ。
魔法の研究をしていた際に少し調べたことがあるが、今は『活発期』であったはずなのだが……。
「まあ、少し気を付けていく必要がある、とだけ思っていましょう。とりあえず、ある程度の魔石は集まっているので落ち着いていきましょ」
「……そうだね。数は集まってるし、ゆっくりやろうか。さっきみたいに大勢の魔物を相手にするのは嫌だし」
冒険者として活動していたが、いまだに魔物を斬るという感覚は慣れない、いや慣れたくないものだ。
そりゃあ死ぬかも、という状況だったら戦うがそれ以外だったらあまり戦いたくはないのだ。
実習の残り時間は一時間ほど。魔石の数にも余裕があるし、もう少し休んでいてもいいだろう、そう思っていた時だった。
「ねえ、なんか空暗くない? 上見てみてよ」
「……ほんとだ。さっきまで普通に明るかったのに。何かあったのかな?」
フィルナちゃんに言われた通り、空を見上げてみると先ほどまで迷宮を照らしていた疑似太陽が見えなくなっており少しずつ辺りが暗くなっていく。
幸い、夜ほど暗くはならないだろうがそれでも足元に注意しなければ転んでしまうだろう。
むしろ、魔石には余裕があるんだしこれからもう集合地点に戻ったほうが良いかもしれない。
「これ、早めに集合地点に戻ったほうがいいと思うわ。何かおかしい」
「私もそう思います。こんな現象、聞いたことないです」
「うー……。なんだか寒気がしてきた……。早く戻ったほうがいいと思うー!」
みんなこう思ってるし、早く帰り支度を始めよう─。
そう思った時だった。
「きゃあああああああああああああああああああ!」
「何、今の悲鳴!」
「あっちのほうから聞こえたわ! とりあえず向かいましょう!」
「わかった!」
慌てて悲鳴の方向へ向かうと、血を流して倒れているクラスメイトがいた。
かろうじて意識はあるようだが、このまま出血していたらまずい。
「あなた、大丈夫なの!?」
「エ、エレーネさん……。に、逃げて……!」
「何を言っているの!? あなたこのままだと死んじゃうわよ!」
「いいから、早く……!」
その瞬間、レネちゃんの上空に巨大な生物が現れた。
「ブルァアアアアアアアアア!!!!」
─この階層では聞かないような、咆哮をあげながら。
「なんで、この階層にいるの……!? ─
なんでそんな魔物がこんなところに……!!
「いや、考えるのは後だ! 今はレネちゃんが退く時間を稼がないと─
少しでも、レネちゃんが逃げる時間を稼ぐために風の弱点属性である火属性の魔法を使用する。
その意図をレネちゃんも察したのか、倒れているクラスメイトを背負って愚痴を吐きながらなんとか退いてくる。
「はぁ、はぁ……。なんで、こんな化け物がこの階層にいるのよ……!」
「考えてる暇なんてないぞユナ、エレーネ! 早く逃げないと!!」
「いや……逃げてる暇なんてない。私とレネちゃんが時間を稼ぐ! フィルナちゃんとララちゃんはこの子を背負ってあの先輩と先生を呼んできて!」
「何言ってるんですか!? 流石に二人で
ララちゃんのいう通り、二人でこいつを相手にするなんて自殺行為と等しいかもしれない。
「分かってる! だけど、ここで逃げてもどうせ追いつかれる」
「ッ!」
だけど、こいつを前に背中を向けて逃げるのも、はい殺してくださいと言っているのと変わらない。
─だったら、少しでも生き残る可能性が高い一手に、私は賭ける……!
「グルァアアアアアアアア!!!!」
「フィルナ、ララ! 行って、早く!」
「ッ! 分かった……! ララ、早く先生達を呼びに行くぞ!」
「……ええ! ユナさん、エレーネさん、死なないでくださいね!」
そうして二人は瀕死のクラスメイトを抱えながら、走り出していった。
「ごめんね、レネちゃん。巻き込んじゃって」
勝手に死ぬかもしれない事態に巻き込んでしまって申し訳ない、そう思いながらレネちゃんの方を向く。
「……今更謝らないで頂戴。あなたなら考えるとなんとなく分かってたわよ。─時間を稼いで、
そういう彼女はいつも通りのようにも見えた。
だけど─彼女の足は震えていた。
「……そうだね! 私達が死ぬにはまだ早いもんね!」
足が震える。手が動かない。
眼前に迫りくる死の恐怖にどうしても体の自由がきかない。
だけど、私達は戦うことを決意した。
─かくして、戦いの火蓋は落とされた。
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