第35話 忘れてた出会い

「あっ! いた! ソアラ!」


 いきなりラブルが飛びついてきた。

 両手を広げ、全力で跳躍してくる。


「ウゲッ!」


 ステータスがザコの俺は受け止めきれずに潰されて、地面に二人で転がってしまう。

 一瞬意識が飛んだかと思われた。 


「ちょっ! 何すんだよ!?」


 抗議の声を上げ、上にいたラブルを睨む。

 胸に顔を埋めて動こうとしない。

 不思議に思い、声をかける。


「ん? どうした!?」


「ふぇぇぇん! ソアラが死んじゃったぁぁ!」


 子供のように泣きじゃくりながら俺の胸に顔を埋めている。

 

 俺には何が何だかわからない。

 俺生きてるよな?


「いや、生きてるぞ? リスポーンしたからな」


「ぐすっ。ぐすっ。ううぇぇぇん!」


 一回泣き止んだかに見えたが、再び胸に顔を埋めて泣き始めた。

 こうなってしまってはお手上げな気がした。


「俺にどうしろと?」


 戸惑う俺を見兼ねてシエラがやってきた。

 ポンポンラブルの背中を擦りながら声をかける。


 おぉ。女神。

 助けてくれるのか。


「ほらっ。ラブル、どいてあげないとまたソアラが死んじゃうよ?」


 はっ!?

 そんなこと言ったら……


「いやだぁぁぁ! うぇぇぇん!」


 ほら、そうなっちまったじゃねぇか。

 女神じゃない。

 コイツは悪魔だった。


「おい。悪化させてないか?」


「うーん。重症ね」


「いや、シエラのせいじゃねぇか?」


 腕を組んで「うーん」と考えているシエラ。

 ラブルはまだ俺の胸で泣いている。


 カオス。


「ラブル、俺はもう大丈夫だ。生き返ったからな。お疲れさん会でもしよう。今日MVPが発表されるんだろう?」


「そうですね! 美味しいものでも食べましょう!」


 シエラも俺の言葉にノッてきてくれた。

 頭を撫でながら少し様子を見る。

 しばらくするとなく声が聞こえなくなった。


「ゔんっ」


 少し泣くのを我慢しながら頷いて起き上がるラブル。

 クシャクシャッと頭を撫でる。

 すると、顔を赤くしている。


「ラブル? ホントに大丈夫か?」


「うん……だ、大丈夫」


 プイッとそっぽを向いて少し離れる。

 離れられると少し寂しい思いもする。


「そうか? ならいいけど」


 この桃色の空気を察したのかシエラがパンッと手を叩いた。


「さっ! 何処かでお疲れさん会しながらMVPの発表見ましょう!」


「うん! でもさ、ソアラが取るのは間違いないよね!?」


 空元気なのか、大きい声を出して元気になったラブルがそう言う。


 そういえば、リアルでも失敗してへこんだ時は泣きそうになりながらもこっちを心配させないように空元気してたな。

 そういうとこはこっちの気を使ってな。

 あんなに感情出して泣いたのとか初めて見たかもしれないな。


 シエラが先頭に立って店を探すために歩いていく。

 俺とラブルもシエラに続いて歩き出す。


「いや、死に戻った分でどうなるかな……」


「でも、ラストの今日敵を倒したんだし、その他にもほとんどソアラが主導になってたでしょ?」


「そんな事ないぞ。実際に細かい指示出しはして貰ってたしな」


 そんなことを話して歩いていると、何やら集団でたむろしている連中がいる。


「ん? ありゃなんの集まりだ?」


 つい口に出てしまった。

 たむろってる連中の一人がこちらを向く。

 ハッとした顔をして指をさす。


「あっ! ソアラさんだ!」


 一人が声を上げると全員こっちを見た。


 えっ!?

 なに?

 恐いんだけど。


 人をかき分けて顔を見せたのはガイエンであった。

 両手を広げていかにも待ってましたとばかりにこちらに歩いてくる。


「おぉ! 英雄のお帰りだ! ラスボスと相打ちたぁ、カッコよすぎるぜ?」


「いやいや、詰めが甘かったよ。イマイチ読み切れていなかった。俺のミスだよ」


「かぁぁっ! アイツを相打ちで倒しておいてまだ満足してないのか!? すげぇなソアラ!」


 バシバシッと肩を叩いてくる。

 すごく愉快そうにしているが、叩かれているこっちはなんだかわからず、不愉快な気分になってくるのは仕方がないことだろう。


「痛い痛い!」


「お前が来るのを待ってたんだ。一番の功労者はソアラだからな! 皆で祝勝会しようぜ!」


 その誘いは嬉しいけど、ラブルがこれ以上期限を損ねるとあまりよろしくない気がする。

 そうなると答えは自ずと決まるものだ。


「あぁ、ごめん! ラブル達と────」


「いいよ! 皆でパァーッとやろう!」


 俺の返事を遮ってラブルが賛成の意見を出した。ラブルを見て目を見開く。


 お前こういう時はかまって欲しいのかと思ったんだが、違うのか?


「いいのか? お前そういうの嫌なんじゃ……」


「私だって大人です! 英雄は皆でお祝いした方がいいと思いましたので」


 胸をはり、胸をポンッと叩き偉そうにする。

 あぁ。こんな所でラブルが大人になったことを実感するとは。

 俺の日頃の努力だろうか。

 自分を褒めたくなる。


「そうか……大人になったんだな……ラブル……」


 目に涙を溜めていると。

 シエラが呆れていた。

 何でこんなとこで泣いているのかと。

 当たり前ではないかと。


「ソアラは保護者なの?」


「いや、いろいろと今までの苦労を考えると成長したのかなと思ったら泣けてきた」


 教育係の俺の苦労はシエラには分かるまい。

 シエラは友達としてラブルと接している。

 仕事上の付き合いでなければ俺の苦労は分からないことだろう。


「この子どんだけ酷いの!?」


「率直に言おう。猿以下だ」


 まぁ、こう表現するには訳があるんだが。


「それは……なんか……ドンマイ!」


「そこまでじゃないよぉ!」


 横から反論の声を上げたのはラブルだ。

 頬をふくらませて怒りをあらわにしている。


「しかし、以前、こいつは猿でもかからなかった罠に掛かっている」


 ラブルを指差して言う。 


「そうなの?」


 シエラがラブルを怪訝そうに見る。

 ラブルは顎に手を当てて思い出しているようだ。


「そんなこと……あったっけ?」


「あったぞ。ロープに引っかかって宙吊りになっただろう?」


「それは! UWOででしょ!? あれは、油断してたから……」


 顔を真っ赤にして口を尖らせて抗議する。

 拳を強くに握り、力一杯腕を伸ばして怒ってますといったポーズで睨みつけてくる。


「まぁ、そういう事にしておこう」


「なんか……ドンマイ」


 シエラに呆れられるラブル。


「いよーっし! 俺達が用意した店でパァーっと飲むぞぉー!」


 ガイエンが騒がしい。


 アイツ、ただ飲みたいだけじゃないか?

 でも、それについて行く奴らもいるからな。

 そういうノリも好まれてるのかもな。


 ガイエンについて行く。

 すると、少しして着いたのはここら辺にしては大きめの居酒屋だった。


「ハルちゃん! 今日は宜しくねぇー!」


 ガイエンが店員さんに声をかける。


「はぁーい! ガイエンさん、ありがとうございます! 貸し切り料金払って貸し切ってくれて助かります!」


「ハルちゃんのタメだもの! お安い御用さ!」


 横の温度が少し下がっている気が……。


 ひっ!


 横を見ると冷たい視線を向けているシエラの姿が。

 触れない方がいいかもしれないな……。


「ここプレイヤーの人が経営してるらしいねぇ」


 ラブルさん?

 その情報は今与えてはいけないのでは?


「ふぅーん……そうなんだぁ」


 すごい棒読みでその声を発すると腕を組んで不機嫌な雰囲気をあらわにした。

 そこに店主がやってきた。

 なんか凄く視線を感じる。


 パッと視線を感じた方を見る。

 すると、そこには見覚えのある子がいた。


「あーっ! やっぱり! 覚えてますか!? 私、セカドタウン進出に最初失敗した時に助けて貰ったんですよぉー!?」


 助けた?

 俺が?

 ……セカドタウンに来る時……あっ。

 いたな助けた子。


「あー。あの時の!」


 思わず指をさしてしまう。

 しかも、予想以上に嬉しい感じの声が出てしまった。


 横から冷気を感じる。

 チラッと、見ると冷気を発しているのはラブルであった。

 これからお疲れさん会なのだが、どうなる事やら。

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