第28話 作戦会議の始まり

 いつもの昼休み。


「いよいよ、明日だね?」


「そうだなぁ。ちょっと楽しみだな」


「えぇ? ちょっとなの? 私は、すっごく楽しみにしてるよ?」


「そんなにか?」


「なんか皆で一緒に協力してモンスター倒すって面白そうじゃない? ガイエンが指揮とるんだろうし、盛り上がりそうじゃない!?」


「あぁ。確かに盛り上がるだろうな」


「だよね! だよね!」


「おれ役に立つかなぁ……」


「なぁに言ってるの! 先輩は先見と言われる先を見通す人よ!? 役に立たないわけが無い!」


 胸を張っていう愛琉。


「なぜ、愛琉が威張るんだ……」


「まぁ、とにかく、先輩は役に立つってことです! 今日は張り切って作戦会議に参加しましょうね!」


「あぁ。そうだな。言ってても仕方ない。参加はするさ」


◇◆◇


 帰ってログイン。


 宿を出てトラオムレーベンのクランホームに行く。

 今回の作戦会議がそこで行われるからだ。

 なんでも、広さの設定を変更出来るホールがあるらしい。


 最大で野球場くらいの広さになるとか。

 凄いことである。

 ゲームだからそんなことが出来るのだろうが、便利だ。


 だが、タダでは手に入らないのだ。

 かなりの額のゴールドを出資して付けたようなのだ。

 トップクランはやることが違う。


 クランホームに行くとロックが扉の前に立っていた。

 一々出迎えるのが面倒だからここで扉の開け閉めをしてるんだろう。


「あっ、ソアラさんもご到着ですね。もう結構な人数が来てますよ? これもソアラさんの人徳ですね!」


「えっ!? そんなに? いやー俺じゃなくてバリーが集めたんですけどね」


「しかし、そのバリーさんとはソアラさんがお知り合いになられたということ。それはソアラさんの人柄だ」


「そうですかねぇ? ちょっと行くの怖いな……」


「そう言わずに、ささっ、どうぞ!」


 中に案内されて渋々入っていく。

 なんか凄いことになってないか?

 バリー、どんだけ声掛けたんだよ。


 ホームの扉を開ける。

 すると、体育館ぐらいの大きさの空間が広がっていた。


「なっ!? なんだ!? この人数!?」


 人、人、人。

 ざっと三百人は居そうだった。


「あっ! ソアラの兄貴! どうですか!? この人数! 結構集まりましたよ! もう少し集まるかと思ったんっすけど、もう協力するクラン決めてるヤツらもいんで……」


「いや、十分集まったと思うぞ……凄いなバリー……」


「あ、有難いっす! ソアラの兄貴にそう言って貰えて感無量っす!」


 なんかいつの間にか俺が兄貴になってるし……。

 どうしたんだよバリー。


「こちらこそありがとな。大変だっただろ? こんな人数集めるの」


「そんな事ないっす! 知ってるヤツらとトラオムレーベンを推してるクランに声掛けまくったっす!」


 推しのクランとか知ってるのが凄いよ。

 なんつう情報力なんだ。


「おっ! バリーさん、この人が先見のソアラさんですか?」


「そうだぞ! ちゃんと挨拶しろよ!? 俺達デイブレイクはこの人達のクランプリディクターの下についてトップクランのトラオムレーベンと共に戦うんだ!」


 ん?

 俺達の下に付く?

 お……おい。

 そんな話になってたか?


「バ、バリー? 俺達の下につくのか?」


「勿論っす! どこまでもついて行くっす! ソアラの兄貴! ほら! お前も!」


「自分はアルっつうもんっす! よろしくお願いしゃす!」

 

 なんか凄いあれなノリだな。

 舎弟感が凄いな。

 まぁ、悪いやつじゃないしな。


「宜しくな。一緒に頑張ろうな?」


「「はいっす!」」


 そんな話をしていると、会議の時間になったようだ。

 ガイエンとロックが正面に姿を現した。


「おぉ。凄い人数が集まったなぁ……あれ? ソアラがどこにいるか分かんねぇじゃねぇか! ソアラ!?」


 なんか分からんけど、めっちゃ呼ばれてる。

 えっ!?

 俺そこに行かなきゃ行けないの?


「はぁーい! ここにいまーす!」


 横を見るとラブルが手を挙げていた。


「ちょっ、お前!」


「はいはい。観念するぅー」


 背中を押されてどうにも出なきゃ行けない雰囲気になってしまった。


 仕方ないなぁ。

 でも、前に出るのやだなぁ。


「ソアラの兄貴が主体になってるんっすか!? すげぇっすよぉ!」


 そんな声をバリーが上げた。

 すると、凄い周りにいた人達からの視線が集まる。


「あれ? あれって……」


「先見だっけ? 今回は……」


「あいつが俺達を集めたの……」


 口々に俺の事を話している。

 気まづいことこの上ない。


「おーい! ソアラを通してやってくれ!」


 ズラッと道ができる。

 ガイエンまでの一本道だ。

 その一本道を歩いて前にでる。


「おぃー。俺が前に出る必要があったか?」


 ガイエンにジト目で訴える。

 目を見開いて驚いているのはあちらも同じ。


「お前さ、自分がバリーに頼んで声掛けて集まってくれた人達だぞ? 逆になんで、お前が挨拶しないで俺が挨拶するんだよ?」


 そう言われればそうであった。

 全くその通りでございました。


「そりゃそうか……」


 前に向き直りざっと三百人はいるプレイヤーに声をかける。


「えーー。今日はこの作戦会議に集まってくれてどうもありがとう! バリーに声掛けをお願いしたのは俺なんだ。みんなトラオムレーベンと協力したいと集まってくれただろう。それでは、トラオムレーベンのクランマスター、ガイエンから挨拶をしてもらおう」


 ガイエンに、前に出るように促して自分は後ろに下がる。


 あー。

 緊張した。

 後は任せたわ。


 安堵してガイエンの背中を眺める。


「えー。俺達と共に戦いたいと思い、集まってくれたみんなに、礼を言いたい。どうもありがとう! 今回のこの作戦の指揮は、プリディクターのソアラにやってもらおうと思う。それが嫌な奴は申し訳ねぇがこの作戦からは降りてくれ」


「「「「「………………」」」」」


 みんな周りを見て様子を伺っている。


 一人手を挙げる者がいた。


「あのぉー。ちょっと聞きたいんですけど……」


 手を挙げたのは小柄な水色のおカッパの女の子であった。

 凄い度胸である。


「おう! なんでも聞いてくれ!」


 ガイエンが対応する。

 この空気の中質問するのは、相当な勇気が必要だっただろう。

 それでも、聞いておきたいこととは。


「あの……指揮は、ガイエンさんはとらないんでしょうか?」


 そりゃ、聞きたいわな。

 急に俺に指揮を振ってくるとか。

 「何故俺に!?」って感じだし。


「それなら簡単だ。俺は、こういう時の指揮は、とれないからだ」


「とれ……ない?」


「そう。突っ込めー! みたいなのは指揮できるけど、ここはこうして、こっちはこうしてみたいな指示は出来ねぇんだよ。頭わりーからな」


 横でロックが頭を抱えている。


「だから、私がほとんどの指示をいつもは出しているんです……しかし、明日は私がリアルで用事があり、参加出来ないのです。そこで、ソアラならできるだろう。となった訳です」


「そういう事でしたか! 分かりました! それなら私は、ソアラさんの指示に従います!」


 そう宣言したのだった。

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