第26話 勧誘

「ねぇ、昨日の決闘、なんで受けたの?」


 決闘の次の日の昼休み、愛琉に質問攻めにあっていた。


「んー? なんか受けた方が面倒が無くて良いだろ?」


「でもさ、負けてたら私達と離れ離れだったんだよ?」


「はははっ。あいつの言ってることをよく聞いてたか? 愛琉達を解放すること。そんなの別に縛ってないから何も変わらないだろ? それに、不正を認めること。なんにも不正をしてないのに認めることなんてない。これは運営に証明して貰うつもりだった」


「そうなの!? じゃあ……」


「うん。負けても何にも損しない決闘だったんだよ。アイツがそこまで考えてなくて助かったな?」


「なんか心配して損した!」


「違うのを勝利条件にされてても、負ける気は無かったけどな。けど、そういう風に条件を付けるように進めたつもりだしな」


「狙ってたの?」


「んー。だな。そういうこと」


「ふーん。流石、先見のソアラってことね」


「なんだそれ?」


「凄くない!? なんかネットで話題になってて、あの罠師が凄い! みたいなのでのってるのよ? そして、付いた二つ名が【先見(せんけん)】なのよ」


「そんなの付いてたんだ」


「先輩、ちょっとした有名人になってるんだよ?」


「マジか……。」


 頭を抱える。


「まぁ、しばらくは騒がしいと思いますよ?」


「あんまり、目立たないといいんだが……」


◇◆◇


 ログインして道具屋に罠の素材を買い足しに行こうと宿を出た。


 道具屋に向かう道すがら、視線をチラホラと感じる。


「あっ! すみません。先見のソアラさんですよね?」


 女性のプレイヤーが声を掛けてきた。

 

「はぁ。ソアラですが……」


「やっぱり! あの、昨日の決闘見ました! 何もさせないで完封する感じ! カッコよかったです!」


「はぁ。ありがとうございます……」


「そのぉ、クランとかって、入ってるんですか?」


「はい。三人だけですけど……」


「もう入ってるんですねぇ。私も入ろうかなぁ」


「えっ!? あーー、身内のクランなんで、居づらいと思いますよ?」


「そうなんですか? それじゃあ、しょうがないですね。応援してます!」


 言いたい事だけ言って帰って行った。


 はあぁ。

 何なんだ?

 無駄に疲れた。


 再び歩き出す。


「あのー。すみませーん─────」


 同じ話を何度もするはめに。

 道具屋に着いた時はもう疲れが……。


 道具を買い足して次は武器屋。

 武器屋に行く道中も何度も声を掛けられる。

 広場のベンチに腰掛けて人通りがない方を向き、一息つく。


 そこで気づいた。

 耳のイヤリングを触る。

 換装して透明になる。


「あれ? さっき先見さんいたと思ったんだけどなぁ」


「どこいった?」


「あれー? 声掛けたかったのになぁ」


 次々と違う方を探しに行く。

 人がいなくなった。


 はぁ。取り敢えず隠れられたな。

 これが続くようだと疲れてしょうがないぞ。

 なんか対策を取らないとなぁ。


 暫くじっとしていると、歩いてくるピンクと青い髪。


「ソアラーこの辺にいるでしょー?」


 近づいて行ってイヤリングに触れる。

 姿が現れた。


「あっ、いた! これ被ってください!」


 シエラがローブを差し出してくる。

 フードを目深に被り、移動する。

 シエラは初期装備になっている。


「なんか悪いな」


「ちょっと会って欲しい人がいるんです」


「ん? あぁ。いいけど……?」


 誰に会うのか詳しくは聞かされないまま宿屋に行く。

 ここなら個室だ。

 案内された部屋に入る。


 そこに居たのは、しらないガタイのいい美丈夫だった。

 なんか装備が……。


「あぁ、初めまして。私はガイエンというトラオムレーベンというクランのマスターをしている。今回はシエラに連絡を貰ってな」


「あっ、初めまして。シエラがこの人を?」


 シエラに「何故この人を?」という顔で見ている。


「ホントは、ラブルとソアラには知られたくなかったんですけど、この人リアルの旦那なんです」


「「…………えぇっ!?」」


「あれ? いつも話してるのは旦那さんの事だったの?」


 ラブルもこの事は知らなかったようだ。

 

「そう。で、呼んだのはこの人が有名だからこういう時には力になるかなと思ったの。ソアラの為だからですよ? 本当はガチ勢なのが嫌でクラン抜けたんで、UWOではあんまり関わらないようにしてたんですよ」


「有名?……ガイエン……ガイ……」


 えっ?

 ランキングで最近トップが入れ替わったなぁ。

 って見てた人がたしか……。


「えぇっ!? 最近トップになった人!?」


「ハッハッハッ! ランキング覚えてくれてありがとう。どうにか頑張ってトップになったんだよ」


「うわぁ。すげぇ」


「俺からしたら、エンジョイ勢でこの前のイベント10位以内に入ったのが凄いと思うよ?」


「ちょっと! ソアラは年上よ?」


「あっ。そうなんだ……」


「いや、良いよ。このゲームでは先輩だし、リアルの年を持ち出したくない。こんなオッサンがゲームしてんのかと思われたら悲しいし……」


「ブッ! ハッハッハッ! ソアラ気にすんなよ! 今の状態だと俺よりは確実に年下に見えるぜ?」


「そうか?」


「あぁ。なぁ、ソアラ、俺はソアラが気に入った。人となりはまだ分からねぇが、悪いヤツじゃねぇのはわかる。俺達のクランに入らねぇか? そうすれば、騒ぎは収まる。一応、今はトップクランだからな」


「それは……良い申し出だと思う……けど、プリディクターはせっかく作ったクランで、俺がリーダーだ。無くしたくはない」


「ふむ。まぁ作ったクランは愛着湧くわな。うん。じゃあ、プリディクターの先見のソアラと同盟を結ぶ事にしよう。それで、手出しは出来ねぇと思う」


「なるほど。それならいいか」


「ガイエン、たまには使える頭なのね?」


 シエラが上から目線で目を細めて言う。


「ったりめぇだろ? こちとらガチ勢の頭はってんだからよぉ!」


「ふんっ。ゲームのことしか考えてないくせに」


「あぁ!?」


「まぁまぁ! 落ち着いて! ねっ!? じゃあ、それで進めてちょうだい!」


 ラブルが間に入って宥める。

 なんとか収まり、解散した。


 そして、後日、現在のトップクラン、トラオムレーベンは、プリディクターと同盟関係を作ったことを意思表明した。


 そのプリディクターのリーダーが先見のソアラであることも知れ渡ったのだった。

 

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