第23話 これってデート?

「ねぇ、これとこれどっちがいいかなぁ?」


 聞いてくるのは愛琉。

 

「んー。こっちの方がいいんじゃないか?」


 それに答えているのは、俺である。


 これは、デートになるんじゃないかい?

 どうしてこうなった?


◇◆◇


 時は昨日の仕事が終わった後のログインしたUWOでの出来事であった。


 罠作成に没頭していたとき。


「ほらっ! 早く行ってきなさい!」


「えぇ……でも……行ってくれるかなぁ」


「聞いてみないとわからないでしょ!? 早く行ってきなさい!」


 何やらラブルとシエラがワチャワチャしている。


 何の話してんだ?

 何で見えるとこで話すんだよ。

 気になるだろうが。


 ラブルがやって来た。

 少しモジモジしている。


「どうした?」


「あ、あの……その……明日って休みじゃない?」


「そうだなぁ」


「なんか予定ある?」


「明日はゲームする位しかやる事ないな」


「じゃあ、私のお父さんの誕生日プレゼント選びたいんだけど、男の人のお店に一人で入るのは……ちょっと難易度高くて……」


「あぁ。確かに入りにくい店はありそうだよなぁ」


「それで、一緒に来て欲しいんですけど……」


「お、おう。俺でいいのか?」


「うん。他に頼める人いないし……」


 そうか。

 女子大って言ってたしな。

 男友達は多くないのか……。


「そういう事ならいいぞ」


「ホント!? やったっ! 待ち合わせは、明日の午前十時に会社の最寄りの駅前で! それじゃ!」


 ラブルは去っていった。

 頼まれたら断れない俺。

 でも、ちょっと嬉しい自分がいる。


◇◆◇


 次の日の朝。


 何時もより早く目が覚めてしまう。

 何時も食べない朝ご飯を食べ。

 入念に歯を磨く。


 何も無いよ。

 男友達がいないから助ける為に一緒に行くんだから。


 一張羅を引っ張り出す。

 白Tシャツにセットアップの黒の上下。

 もう三十だから大人でいないと。


 愛琉は26だろう?

 まだまだ若い感じで来るのか?

 大人な感じで来るかな?


 声をかけた方が良いんだろうか?

 綺麗だね。

 わざとらしいか?


 可愛いじゃん。

 キザったらしいか?

 偉そうか?


 やべぇ。

 どういう顔していったらいいんだ。

 髪どうしよ。


 いつも通りでいいか?

 逆に違う髪型して行ったら気合入ってるのバレバレだろうよ。

 普段通りで行こう。


 あっ、ヤベッ。

 もう出ないと間に合わない!

 なんでこんなに時間が経つのが早いんだ!


 自分の身だしなみを確認するのに時間かけすぎた!

 急いで最寄り駅に行く。

 はぁ。汗かいちまう。

 匂い大丈夫かな?


 クンックンッ。

 一応対策はして来たから大丈夫だな。

 なんか匂いなんか気にして意識してるみたいじゃんか。


 やべっ!

 降りないと。

 どいてどいて降りる降りる。


 あぁ。

 待ち合わせ場所は駅前。

 はぁ。なんで緊張してんだよ。


 ただ、お父様のプレゼント選びなんだから。

 俺はただ、ついて行くだけ。

 ただの置物と一緒だ。


「あっ! 先輩、こっちです!」


 もういる!

 何で!?

 まだ十分前だよ!?


「おう! 早いな!」


 今は秋になる頃合い。

 愛琉は大人っぽく下は薄緑のスキニー。

 上が黒の首元のざっくり開いたカットソー。

 そして茶色のロング丈のシャツ。


 ちょっと頭が停止した。

 凄く大人っぽくていい。

 ヤバいな。意識してしまう。


 いつもは制服だからなぁ。

 ギャップが……。

 ギャップに弱いんだよなぁ。


 身長は普通くらいで160cm前後だ。

 俺が175cm位で平均的。

 ちょっとお腹はポニョっとしている。


「い、今来たところですよ! はいっ!」


 それは、昔から定番のやつ……。

 本当は男がやる奴だけどな。

 すまない。愛琉。


「それで、どこか親父さんのプレゼント選びに行きたい店はあるのか?」


「あの、新しく出来たショッピングモール……あるでしょ?」


「あぁ! できたのあったな。ここからすぐだよな?」


「うん。そこに行きたいんだけど……」


「いいよ。俺は愛琉が行くところについて行くだけだから」


「そうだけど……それ以外も見よ?」


 下から見上げる視線。

 ちょっと待って。

 そんな目で見ないで。

 可愛いと思ってしまうぞ。


「お、おう。いいぞ」


「やったっ! じゃあ、お父さんのプレゼントなんだけど、一緒に選ぼう? ネクタイがいいかなって思ってるんだぁ」


 お父様へのネクタイ……。

 一緒に選ばない方がいいのでは?


 ショッピングモールに着くと、ネクタイを取り扱っている店に行く。


 確かにここの店に女の子一人は入りづらいかもな。

 しっかし、愛琉の親父さんだから、五十代位だろ?

 あんまり派手じゃないのが……。


 いや、でも、部長は若くいたいから会えて明るい色を選んで「似合ってますよ」待ちをしている節がある。


 そう考えると、少し明るい色の方が……。


「やっぱり男の人が居た方が入りやすい。ありがとうございます!」


「愛琉の役に立てて良かった。どうだ? 良いのありそうか?」


「うーん。難しいですねぇ。ちょっと若く見えて欲しいので、柄が良いかなと思ったんですけどこれとかは若過ぎますよね?」


 愛琉が聞いてきた柄は赤と青のチェックのネクタイだった。


 んー。そういうのしてる人もいるよ。

 けど、難易度が高い気がするんだよなぁ。

 娘の選んだ物だからって頑張ってしていって、周りの社員にお世辞言われるのは苦しいだろうなぁ。


「んーとな、若過ぎるってことはない。けど、合わせるの難しいと思うんだよ。スーツが何色持ってるかも分かんないだろ?」


「あっ……うん。わかんない」


「柄だったら、この小紋柄。小さい柄のもので色は明るいのがいいなら青とか、黄色系がいいんじゃないかな。結構どんなスーツにでも似合うと思うぞ」


「そうなの? 先輩と来てよかった!」


 眩しい笑顔がこっちに向けられる。

 眩しい。

 愛琉、眩しいよ。

 意識しちゃうって……。


「そ、そうか?」


「うん! じゃあ、これにしようかなぁ」


 青い小紋柄を選んだようだ。


「それならいいと思う」


「うん! 買ってくる!」


 お会計を済ませると戻ってきた。


「ねぇ、お店見て回ろ?」


 手を掴まれ、引っ張られる。


「お、おう」


 えっ!?

 手繋いじゃってるよ?


「あそこみたいの!」


 女物の服屋さんだった。

 いいよ。

 いいんだけどさ。


 そこで冒頭に戻る。

 

「ねぇ、これとこれどっちがいいかなぁ?」


 聞いてくるのは愛琉。

 

「んー。こっちの方がいいんじゃないか?」


 それに答えているのは、俺である。


 これ、カップルがする会話じゃないかな?

 いいのか?

 俺とこんな会話して。


「じゃあ、こっちにしよう!」


 定番の俺が選んだ方じゃない方を選ぶと思いきや、俺の選んだ方を選んだ。


 そういうパターンもあるのか。

 これは勉強になる。

 親父さんのプレゼント買ったけど……まだ帰らないようだ。


 これってデート?

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