第10話 疑惑

「はぁぁぁ。何でこうなっちまったんだ……」


 リアルの昼休みである。

 屋上で頭を抱える俺。

 その横では平然と弁当を食べている愛琉。


「どうしたの?」


「どうしたもこうしたもあるか!? なんでお前はそんなに落ち着いてんだよ!?」


「だってぇ、しょうがないでしょ? バタバタしても、噂は消えないよ?」


 この話し方で違和感を抱いた方も居られるのでは無いだろうか。

 まさか、ゲームでの弊害がこんなところで出るとは……。


 時間は朝に遡る。


◇◆◇


「おはよーございます」


 朝出社して挨拶しながら席に着くと。


「おはよー」


 愛琉が挨拶してきた。


「おう。はよー」


 この挨拶で周りの人は違和感を抱いたようだ。


 仕事の最中も。


「先輩。これどうしたらいいと思う?」


「んー? これは、××商事に送るやつだから避けといてくれ」


「わかったぁ」


 この会話を聞かれたために社内がザワついたのだ。


「付き合ってるんじゃないか?」


「実は、同棲してるんじゃない?」


「前から仲良いとは思ってたのよねぇ」


 気づいた時には時が既に遅かった。


 やばい。

 これは不味いぞ。


 そして、昼休みになり、頭を抱えていたのであった。


「先輩は、私と付き合ってる噂が嫌なの?」


「いや、そういうことじゃないだろ? 付き合ってもないのにそんな噂流れたら愛琉だって困るだろ?」


「んー。別に困んないよ?」


「いや、良くない! ちゃんと説明してこよう!」


 そう言って同期の女性社員を呼ぶ。

 そして、説明をした。

 今回噂になってるようなことはなくて、ただ一緒に同じゲームをしてて、たまたま同じチームのようなものを作ってゲーム内でタメ口だから、それに引きづられてタメ口になってるだけだと。


 必死に説明した。

 そして、同僚はわかった。そういう事なら私が広めて上げる。と言ってくれた。

 けど、貸しだからね。と。


 貸し作っちまったよコノヤロー!

 どうしてくれるんだ愛琉ぅぅぅーーー!


 屋上に戻る。


「説明してきた。ゲームでタメ口になっててリアルでもそうなっちゃったって事にしてもらったぞ。これで誤解は解けた」


「ふーん。別に良かったのに……」


「ん? なんか言ったか?」


「なんでもないですー」


 そう言うと屋上から降りていった。


 はぁ。

 誤解が解けてよかった。


◇◆◇


「……って事があってぇ、そんなに拒否することある!?」


「まぁまぁ、気を使ってくれたんだからそんな事言わずに」


 ログインすると、ラブルとシエラが話し込んでいた。


「どうした?」


「何でもないわよ!」


 ラブルにプイッとされる。


 俺が何かしたか?

 ログインしたばっかりなんだが。

 シエラが呆れたように笑っている。


 ラブルが出ていってしまったので、シエラに聞いてみることにした。


「俺なんかしたか?」


「うーん。自分の今日の行いを振り返ってみる事ね。それで気づけないなら、重症」


「今日の行い?」


 出社して……誤解されて……誤解を解いて……ログイン。

 なんもしてないじゃん。

 愛琉の為にやった事だからなぁ。


「何にもしてない……」


「はぁぁぁ。そう。これは諦めるしかないわね」


「何を?」


「いえ。いいの。暫く私とラブルは金策に励むわ。そっちは素材集め頑張って!」


「お? おう。頑張るわ」


「じゃ、また!」


 そういうとラブルは部屋を出ていった。


 えっ?

 俺何かしでかした?

 ……いやいや、何もしてないって。


 してないよな?

 ……してないよ。

 まぁ、しばらく会わないならいいか。


 罠でも作ろうかな。

 昨日作れなかったからなぁ。


 メニューから罠の作成メニューを開く。

 罠のレシピでアクティブになってるやつを探す。


「あった!」


 アクティブになってる罠があった。


 ワイルドボアの頭骨とゴムとロープの組み合わせらしい。

 これがどんな罠になるのか楽しみだ。

 作成っと。


 ………………作成に成功しました。


 失敗はないとわかっていても緊張しちゃうな。


 えーっと、他にはパワーゴリラの素材を使った罠もあるのかぁ。


 パワーゴリラの腕から手までの骨とゴムとロープと地属性の魔石だな。

 素材を選択して作成ボタンをタップする。


 ………………作成に成功しました。


 うん。

 これもどんな罠なのか楽しみだ。

 落とし穴系ではないから直接攻撃系だな。

 それと落とし穴を組み合わせた方が狩るにはいいよなぁ。


 この街ファスタウンの周辺だとDランクが限界のはずだから、次の街セカドタウンに行かないと次なるモンスターは出てこない。


 それなら、俺は次の街に行こう。

 ラブル達も好きにやるみたいだしいいよな。


 マップを見る。

 次の街までは森一つを越えなきゃ行けないみたいだ。

 真っ直ぐ突っきるか。


 一直線に森へと入っていく。

 茂みに隠れながら、モンスターが居ないか警戒しながら進む。


 すると、少し先に別のプレイヤーがいる。

 何やら苦戦しているようだ。


「なんでこんな所にDランクのムーンベアがいるのよ!? くっ! きゃぁぁ!」


 見ていたプレイヤーは爪で切り裂かれて倒れてしまう。


 これはマズイな。

 こっちに誘き寄せるか。


 慎重に素早く思考を巡らせる。

 ここにこれ、こっちにこれ、ここにはこれ。


 罠を設置し終えるとムーンベアの元へ駆け寄り、ナイフを投擲する。

 少し切り裂くことに成功した。


「グラァァァァ!」


 怒りながらこちらを向いた。

 目を離さないように後ろにジリジリ下がる。

 クマの対処方である。


 こちらが下がるとあちらも二足歩行でこちらに一歩ずつ踏み出してくる。

 そのまま下がる。

 ここで、罠師の特性が発揮される。


 自分の仕掛けた罠にはかからないという特性があり、例えば落とし穴なの上を歩いても自分は平気だが、他のプレイヤーやモンスターは罠にかかるのだ。


 その特性を活かし、そのまま後ろに下がり罠を通過する。

 ムーンベアが罠の領域にきた。

 俺も穴を発動できる地点まで戻ってこれた。


 ロープを切って一つの罠を発動させる。


ザクザクッ


 ムーンベアの胸にナイフが刺さる。

 が、浅くしか刺さらない。


「グルァァァ!」


 こちらの仕業だと分かったのだろう。

 走ろうとして四足歩行をしようと腕を着いたところで落とし穴が発動。


ズズゥゥゥゥンッ


「グォォォ」


 鉄クズの敷き詰めた落とし穴に落ちた為、ダメージはあるようだ。


「グルルルルルァァァァ」


 最後の力を振り絞って落とし穴を登ってくる。

 身体が大きいため使った罠だとムーンベアが立つと頭が少し出るくらいの穴であった。

 その為、登ろうとすれば登れる。


 数メートル離れたところにいる俺の姿を見ながら怒り狂って落とし穴を登ってくる。


 最後の罠を発動。

 ロープを切る。


グオォォォォォ


 モンスターの雄叫びのような音を鳴らしながらワイルドボアの頭骨が突進していく。

 エフェクトがワイルドボアそのものが突進していっているように見える。


「おぉ。カッコイイ」


ズドォォォォォォンッ


 衝撃でムーンベアを吹き飛ばし、落とし穴の中に再び落とす。

 頭から落ちた為致命傷になったようだ。

 素材と魔石を落として光となった。


「ふーーーっ。紙一重だったな。一応もう一枚罠は用意してたが、何とかなったな」


 罠を解除してアイテムを取得する。

 また素材が手に入った。


 ホクホク顔で取得した素材をチェックする。


「あのっ! 助けてくれて、ありがとうございました!」


 そう声をかけてきたのは先程のプレイヤーだった。

 若そうだ。


「たまたま通りかかって見過ごせなかっただけだから。気にしないで?」


「私、剣士なんですけどムーンベアには歯が立たなくて。こんな所で遭遇するなんて運がなかったです」


「なんでこっちの森にいたの? ここの森ってセカドタウンへの通過点だからDランクは出るんじゃないかな?」


「私……レベルが上がってきたので、セカドタウンに行けると思ったんです。けど、まだ足りないってわかりました! 出直します!」


「その方がいいかもねぇ」


「あのー。Dランク倒したくらいだからランクが高いんですよね……? どうやったら強くなれますか?」


「俺は他の職業の事は何も分からないよ。それに、ランクはFだよ? じゃあね!」


 手を振って次の街に進む。


◇◆◇


 その頃、音を聞き付け近くにいたラブル達は倒した後の会話を聞いていた。


「……じゃあね!」


 ソアラが去っていくのを見送る女プレイヤー。


「最低ランクなのにあんなに強いなんてすごい……。あっ、名前聞き忘れちゃった。セカドタウンに行ったら探して、お礼に食事でも誘おう!」


 そう言ってファスタウンに戻って行った。


「ラブル大変ね? ライバル増えたわよ?」


「ぐぬぬぬ。なんでフラグ立てて歩くのよあの人は!」


「なんか他にもフラグ立ってる人居るんじゃない?」


 シエラがそう言うとラブルがワタワタしだした。


「えっ!? もしかして他にもライバルが? 何とかして阻止せねば! 私達も後を追うわよ!」


 結局ラブル達もセカドタウンを目指すのであった。

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