第13話 盗賊パァァァァンッ祭り

 盗賊団は滅びない。

 いくつ潰しても、次々と新しいのが湧いてくる。


 ボクは研究材料の調達と、治安維持と、アレがなかなか完成しない腹いせのために、それらを潰して回っていた。

 一石二鳥ならぬ一石三鳥だ。やらない理由はどこにもないよね。


「うわああああ! 白いオオカミと金髪の少女だあああ!」

「引きちぎられる! 逃げろおおおおおおっ!」


 盗賊たちの間でボクはすっかり有名人らしい。

 こちらの姿を見ただけで、盗賊はパニックを起こして、洞窟の奥へと逃げていく。


「ボクのことを知っているなら、盗賊団なんて解散すればいいのに」


「そういう常識がないから盗賊団をやっているでありますよ」


 ルルガは話を単純化してまとめてしまう。

 実際のとろこ、彼らがなぜ犯罪行為に手を染めているのかは分からない。

 もしかしたら、病気の我が子を救うためにどうしても金が必要だった、なんて事情があるかもしれない。

 でも、どんな理由でも盗賊は許されないよね。

 だって、盗賊に襲われた人たちだって生活があるんだから。


 容赦なく股間のアレを千切る。からのパァァァァァァンッ!


「いい音でありますぅ」


「ルルガ。お前、ボクがアレを生やそうとするのには否定的なのに、この音は好きなんだな」


「それはそれ、これはこれ、であります。どうせ私がとめてもやるんでありましょう? なら楽しまなきゃ損であります。あ、ほらステラ様。あいつなんかいい音を出しそうであります」


「よし。そこのお前、待て!」


「待つわけあるかよ! あ、助け、ぎゃああああああああ!」


 パァァァァァァンッ! パァァァァァァンッ!


 今日も洞窟に快音を響かせ、ボクとルルガは前に進む。


「「パンパン、パンパン、パンパンパ~~ン♪」」


 二人で愉快な歌を歌い、それに合わせてアレを破裂させる。

 これは愉快。

 盗賊のアレを破裂させる技を誰でも習得できるよう、書籍にまとめて広めようかな?

 そうすれば盗賊の被害はもっと減るし、景気のいい音が響き渡って、世界は今より楽しくなるぞ。

 年に一度、盗賊パァァァァンッ祭りとかやれば町おこしになると思う。


「あんな笑顔で俺たちの大切なアレを……やっぱり魔王復活の儀式なんだ!」


「俺たちを討伐するだけならあんな真似する必要ねーもんな……くそっ、なんで邪教の生贄にならなきゃいけねーんだ! 俺たちは人のものを盗んだり、女を犯したただけなのに!」


「結婚式に乱入して花嫁を大勢の前で犯すのがそんなにいけねーのか! 俺たちに自由はないってのかよ!」


 こいつら、想像してたよりも悪い奴らだな。

 パァァァァンッ祭りにも気合いが入るというものだ。


「てめぇら、俺の部下をよくも殺しまくってくれたな! 血も涙もないのか!」


 洞窟の奥からリーダーが出てきた。

 盗賊団のリーダーって、どいつもこいつも似てるな……親戚なのか?


「部下たちだけじゃねぇ……ほかの盗賊団も大勢殺したな! このままじゃこの国の盗賊団は絶滅しちまうぞ!」


「それはとてもいいことだと思う」


「ああんっ!? 今まで人間の乱獲で色んな動物が絶滅したのを知らねーのか! その過ちを繰り返そうってのか! ちっ……これだから魔王復活を企む邪教は恐ろしいぜ」


「もうすぐお前をパァァァンして殺すから信じてくれなくてもいいんだけど。ボクは魔王復活なんて企んでないよ。むしろ魔王を殺した側だよ」


「うるせぇ! 信じられるかよ! 邪教がいかにも言いそうなことだ。俺だって詐欺で偽物を売りつけるときは『詐欺じゃない』って言うからな!」


 わざわざ詐欺じゃないって言ってくる奴、怪しすぎる。

 よくそれで詐欺が成立したなぁ。


「魔王復活は俺が阻止するぜ。英雄アレスター・ダリモア、力を貸してくれぇ!」


 それはボクですが。


「ステラ様。あいつ、綺麗な宝石を出したであります。強い魔力を感じるでありますよ」


 ルルガの指摘通り、その宝石は雑魚が持つアイテムとは思えない魔力を放っていた。

 しかもボクによく似た気配の魔力だった。

 というか、これボクそのものでは?


「ふははは! 驚いたか。この宝石は、あのアレスター・ダリモアの遺骨から作った宝石なのだ。こうして持っているだけで凄まじい魔力が流れ込んでくるぞ。今の俺は無敵だ! 部下の仇……喰らえ!」


 リーダーは火の玉を撃ってきた。

 ボクはグッとガッツポーズするだけでそれを消し飛ばす。


「な、なにぃぃ!? アレスター・ダリモアの魔力を使ったのに、なぜ通用しねぇんだ!」


「そりゃそうだ。だってそんな小さな宝石、遺骨の一部を使っただけでしょ。なら魔力もそれなりだ」


 そしてボクはアレスター・ダリモアの全てだ。

 一部が全てに勝てるわけがない。


「ぬおおおおっ! 頑張って金持ちの家に押し込んで皆殺しにして盗んだんだぞ! 警備の奴らが強くて苦労したんだぞ! 苦労は報われるべきだあああっ!」


 盗賊のリーダーは遺骨宝石からより強い魔力を吸い出そうとする。

 ぐんぐん魔力が膨れ上がっていく。


「おお! 来た来た来たァァァッ! これで絶対に勝て――ひでぶっ!」


 そしてリーダーは魔力に耐えられず、ブァァァァァァンッと全身を破裂させた。


「力に溺れたか……愚か者め」


 リーダーは赤い肉片になって散らばった。

 悪党に相応しい末路だ。

 せめてボクに引き千切られれば、魔法や錬金術の歴史に貢献できたかもしれないのに。


「ん? 全身が吹っ飛んだのに、アレだけが残っている……?」


 血だまりの中にアレが、つまりリーダーの本体が落ちていた。


「凄い。欠片とはいえボクの魔力に耐えて残った……つまり、これならボクに適合する可能性が高い!」


 拾って装着!

 結果――。

 パァァァァァァンッッッ!


「……知ってた。こんな盗賊なんかに期待しちゃ駄目だって知ってたよ」


 そう口では強がってみても、失意は隠せない。

 ボクは肩を落として洞窟を出ようとする。


「待つであります、ステラ様! 前世の遺骨の宝石、持って帰らなきゃ駄目であります! あんなチンピラでもそれなりの力を引き出せる、強力なマジックアイテムであります。責任を持って管理するであります」


「ああ……そうだね……」


 ルルガから渡された宝石を見つめる。

 やれやれ。ボクの遺骨から宝石を作ろうなんて、面白いことを考える奴がいたもんだ。 それなら確かに、強い魔力を宿すに決まっている。

 遺骨の全てが宝石になっているとしたら、一体いくつあるのやら。


「……待てよ」


 ボクはふと閃いた。


「この宝石はボクの体だ。ボクに最も適合するに違いない。なら……この宝石からアレを作れば、ボクのアレになるんじゃないか!?」


 まさに天才的発想!

 早く家に帰って試さなきゃ!

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