第66話 宿場町にて(その3)
露天風呂から宿屋に戻ると、部屋には食事のセッティングがされていた。そこに町の長(おさ)を宿屋の主人を介して招待していた。更には元盗賊団の若者にも一人来てもらった。乾杯の音頭は町の長、ハカワに任せた。
「ハカワさんは生まれも育ちもこの町、クザなんですよね?」乾杯の後、クニオは長にそう聞いて見た。
「生まれはそうですな。しかしある程度の歳になった頃にキートに移りました。それから二十五年ぐらいキートで過ごして、またこのクザには十五年ぐらい前に戻って参りました」
「なぜクザに戻ってきたんですか?」コルビーがそう聞いた。長はコルビーの事を見た目のままの子供だと思っているのだろう。子供に話すような口調で答える。
「おじちゃんはね、子供が大きくなったら生まれ育ったところへ帰りたくなっちゃったんだよ」それを聞いてもコルビーは、自分の年齢に関しては触れることなく
「じゃあなんでキートに行ったの?」と、少し子供っぽい口調で聞き返した。クニオは笑いを堪える。
「ここにはね、お仕事があんまりないんだよ。家族ができるとお金もかかるからなかなか戻ってこれなかったんだ」ハカワの話はもっともで、人間社会ではよくある話である。魔族の社会ではどうなっているのかはクニオは知らない。
「盗賊団を見る限り若い人も多いなと思いましたが…」クニオが聞く。
「あれは親が出稼ぎに行ってる連中ですな。しかしもう自分たちが町を出ていく順番だという事は連中も分かってきている。なんとかここで生活を成り立たせたくて、あんな馬鹿な事を始めたのでしょう。その節は本当に申し訳ないことを致しました。ほら、ゴンゾーも謝れ!」同席した盗賊団の若者はゴンゾーと言った。ハカワとゴンゾーはクニオ達に向かって土下座を始めた。
「もう済んだことです。頭を上げてください」そう言ってクニオはハカワの手をとる。
「ほら、ゴンゾー君も」そう言って低頭しているゴンゾーの肩を叩いた。
「で、ここからが本題です。先日掘り当てた温泉を利用して入浴施設を作ろうと思いますがどう思われますか?」クニオは今日の本題を切り出した。
「そう言われるような気がしてました。温泉は掘って頂いたものの、あれをどう活用して行ったらいいのか考えあぐねておりました。ここにいるゴンゾーに簡単な屋根と、外から丸見えなので目隠しの塀だけは作らせたんですが、それからどうしようかと…しかし大掛かりなものを作る程の資金はありませんし、魔法で作ろうにもそれだけの魔力を持つものはここにはいません」
「そのあたりは一緒に知恵を出し合いましょう。幸いにして私はこのなりですが、魔力はそれなりに持っていますので、こちらのクニオ氏と力を合わせれば、城を建てるぐらいの事も可能です」コルビーの見た目には似合わない物言いに、ハカワとゴンゾーは驚いている。魔王の転生体だという事はもちろん言わない方がいいだろう。しかし城は言い過ぎだろうとクニオは思った。
「勝手に何かを作って、さあどうぞというやり方はよくありません。町からも代表者を…そうですねなるべく老若男女取り混ぜて検討委員会を作って下さい。次に伺ったときにその方々と一緒にお話をさせてください」クニオはそう言った。
そこからはコウとグレゴリーはいなくても、どんちゃん騒ぎだった。しかし一人冷静なコルビーだけは情報を書き出していた。元々ズワ湖観光時にキートからの中間地であるクザが宿場町として栄えた事、どうしてこの地が宿場町に選ばれたかと言う理由。それは豊富な湧水があってオアシス的な位置づけであったらしい。更にクザには酒蔵が一軒ある事、米の他にトウモロコシの生産が盛んな事…ハカワが酔うと親父ギャグが止まらなくなることと、キートでは16歳から飲酒が許されていて、ゴンゾーが最後はべろべろに酔っぱらったことは関係ないのでメモはしなかった。
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