第65話 宿場町にて(その2)

 いくら話してもきりが無かった。もちろん目の前の露天風呂は既に入浴可能なので、日が暮れる前に一旦宿に荷物を置いて、そこで汗を流す事にした。流すと言っても洗い場はまだないので浸かるだけだ。脱衣所もまだ無いので、塀で囲まれた中に入ったところで服を脱いで塀の上に引っ掛ける。


「この辺りは谷を抜けて、周囲も平坦なので塀で目隠ししたら景観は望めそうにないですね」コルビーは衣服を脱いで裸になったものの、お湯につかる前に目隠し塀と屋根の間からまわりを見まわしてそう言った。


「そこはコルより背が多少高いおとなでも変わらないだろうな。更に風呂につかると視線が下がるから、目隠し塀は全て無くさない限り夕日も朝日も望めそうにないね。でもそうなると外からは丸見えになってしまう」そう言ってからクニオは置いてあった小さな桶でかけ湯を何度かしてからお湯に浸かった。


「まぁまずはコルも浸かって見なよ。温度や泉質はなかなか良さそうだ」クニオにそう促されてコルビーもかけ湯をしてから湯船に浸かった。


「確かにいい感じですね。アダマンタイトの洞窟付近で掘った温泉と違って、魔素が拡散するという事もなさそうです…」コルビーはそう言ってからしばらく考え込む


「前にイメージ共有したナーガの結界改造術式に混じって、ミナレットの大浴場の構想も見えましたが、あそこまではいかなくてもある程度高い位置に風呂を設けて、源泉を汲み上げたらどうでしょうか?」


「うん、それだと周囲と高低差ができて外からの視線もカットできそうだ。この間の物見やぐらまではいかないものの、建物を三階建てくらいにして屋上を露天風呂、下は脱衣や便所と休憩室…更には1階の通りに面しているところはお土産屋さんや飲食店なんかがはいってもいいかもね」


「湯治場は何も外から来る人向けというだけでもないので、休憩室は町の人たちも集まれるような多目的スペース兼用にするというのはどうでしょう?」


「うん。外から来た人と、街の人たちの交流の場にもなるかもしれないね。キートの町から来る人は近場なんだから、親しみを感じてくれればリピーターにもなってくれそうだ」


「飲食店を入れるのであれば、地場産の作物なんかも出したいところです。地理的に近いのでキートの町との差別化をどうするかが問題ですね」


「そのあたりは特産物について、夜に地元の人からヒアリングしよう」


「…」


 先ほどまで饒舌だったコルビーが黙ってしまった。


「どうしたんだい?何かひっかかることでもあるかな?」クニオがそう聞くと彼は首を横に振った。

「そうじゃなくて…なんというか…」そう口ごもってからコルビーはクニオの方を見て続けた

「…楽しいんです」そう言って彼は見た目通り十歳の子供の様に満面の笑みを浮かべた。


「はっはっは。楽しいだろ?こうやって、あーでもないこーでもないと考えるのは、建築ではエスキースっていうんんだよ」クニオはまたドヤ顔でコルビーに向かってそう言った。




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